第2話 ディズニーの多様性ってさ

 5月下旬、今日は結構暑かった。それでも夜は涼しくて窓を開けると冷たい空気が入ってくる。風呂上がり、寝る前のスマホチェックをしていると、サワからメッセージが送られてきているのに気付く。俺は珍しいなと思いながら早速返事を返した。一体今日はどんな話題で盛り上がるだろう。


 最初の挨拶が終わったと思ったら、彼女はいきなり本題から話を始める。


『あのさ、ディズニーのリトル・マーメイドについてどう思う?』

『どう思うって、そうやなあ……』


 いきなりアレな話を振られて、俺は少し返事に困った。サワは特にディズニーファンと言う訳ではないものの、この話題はポリコレに関する踏み絵になる。どう言う答えを求めているのか、普段はあまりこの手の話をしないので読みきれなかったのだ。

 曖昧な言葉で返事を濁すと、直ぐに反応が返ってくる。


『じゃあ、観たい? 観たくない?』

『観たくないって言うか観ないかな』

『ほう』


 正直、この質問は助かった。何故なら、俺は基本的に実写ディズニーリメイク作品は観ないからだ。この流れで行けばポリコレって感じの流れにならないで済みそうだと感じた俺は、ほっと胸を撫でおろす。


『いや、そもそも実写に興味ないんよ。アラジンとかも観てないし』

『ひとつも観た事ない? ダンボとかも実写になったけど』

『あ、アリスだけ観たわ。ティムバートン監督作やったから』

『いや、前にパイレーツ・オブ・カリビアンも観たって言ってたじゃん』

『え? アレ、アニメの実写化やっけ?』 


 正直、サワからパイレーツ・オブ・カリビアンの話題が出たのはちょっとびっくりした。アニメ実写リメイクの話で続けるとばかり思っていたからだ。確かに俺はあの映画は観ている。ただし、それは元ネタのディズニランドーのアトラクションが好きだったからだ。アレって何かかポリコレってたかな?

 と思っていたら、この流れも特にポリコレではないようだ。


『そこは知らんけど、ディズニーランドのアトラクションが元だよあれ』

『まぁカリビアンは観たわ。そのくらいやな』

『アトラクションの実写映画って他にもあったよね。名前忘れたけど』

『それは観てへんわ』


 彼女が言いたいのは南米の川をボートで下る映画だろう。映画館で予告は観た事がある。けれど、結局観には行かなかった。面白かったかどうかも知らない。ただ、そこまで話題にはならなかった気はする。シリーズ化もされてないし。

 このままただの映画話になるのかなと思ったら、そこから急に話が戻ってしまった。


『でほら、実写化したらポリコレってていや~んってあったじゃん』

『リトル・マーメイドは主人公が黒人になってもうたってやつ?』

『アレについては?』


 ここまでストレートに聞かれたらちゃんと答えるしかない。俺は正直な気持ちを素直に文章化する。


『最初はどうにも嫌やったよ。原作改変しとるし』

『最初は?』

『黒人人魚にするなら黒人人魚の新しい話を作ればいいと思ったわな』

『だよね~』


 望んだ答えが来て嬉しかったのか、サワは同意の返事を返してきた。ここで話を切り上げても良かったものの、そこから考えが変わっていた俺は更に話を続ける。


『で、そう言う原作改変パターンを色々考えてた訳よ』

『ほう』

『スパイダーマンが黒人も変かなーとか考えてたら、もう黒人スパイダーマンいるやん? ただ、アレはマーベルがやっちゃってるから、オリジナル作ってる所がやるならええかってなった訳よ』

『まぁ、他がスパイダーマン作ったらそれこそダメだよね』

『でな、リトル・マーメイドって元ネタは人魚姫だから、これを人魚姫ですってやったらそりゃあかんと思う。けど、ディズニーオリジナルのリトル・マーメイドならありかなと。平行世界の黒人人魚のリトル・マーメイドの世界線的な。マルチバース的な……?』

『ほほう』

『そんな訳で、まぁ好きに作ればいいんやないの? って考えに変わったんよね』


 我ながらいい落とし所だと思う。いい悪いじゃないんだなと言う事。別物だと考えたら気にならない。そう思うようになった俺は黒人アリエルも特に気にならなくなったのだ。

 これでこの話題も終わったなと安心していると、彼女は更に追求を続ける。


『じゃあディズニーがポリポリコレコレする事に関しては?』

『それはもう作る側の自由やから。こっちが観る側の自由のように。だから面白そうなものがあったら観るし、そうでないなら観ないだけやね』

『まぁ確かに』

『ただ、そう言うメッセージを全ての作品に持ち込まなくてもいいとは思うんやけどなあ。マイノリティなはずなのに主要メンバーに複数いるってのも変やし』

『いつも要素てんこ盛りって言うのはねえ』

『実際、ポリコレしまくった作品が全然人気なかったから、今後は軌道修正していくとは思うけど』


 俺は敢えて作品名は出さなかった。ただ、この作品の話題は結構ネット上でも有名だったので、サワはすぐに作品名を言い当てる。


『ストレンジ・ワールドは実験作だったのかもね。観た?』

『観てない。ポリコレ以前にキャラに魅力がなかったし。敢えてああしたんたんやろけど』

『アナ雪がヒットしたのもアナとエルサが美人で魅力的だったからだもんね』

『そうそう。ルッキズムもあかんよーって登場キャラ全員ブサイクにしたら、かなり観る人減るんちゃうかな』

『イケメンや美少女は物語に必ずいるものだしね。それが主人公でなくても良いから』

『まぁディズニーがちょうどいい具合に落ち着くのはもうちょい先なんちゃうかな』

『多分ねえ。早く落ち着いて欲しいよね~』


 今は過渡期で、今後はいい具合になっていくのではないかと言う事で俺たちの意見は一致する。話がまとまったので、そこからまた他愛もない話を続けて、今日も夜は更けていった。

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