真夜中のフリートーク(仮)
にゃべ♪
第1話 日本のアニメが世界を席巻していると言う事は……
平和な海沿いの町、舞鷹市。その街のとある住宅の一室で俺はスマホ片手にくつろいでいた。時間は23時を過ぎていて、風呂上がりの俺は暇潰しにSNSを眺める。TLに流れる様々なつぶやきをのほほんと見ていた時、顔馴染みのアカウントを見つけて早速声をかけた。
それが『サワ』だ。勿論HNなので本名ではないだろう。性別は多分女性。彼女はサバサバした性格で、ネット上でもほぼ友達のいない俺の唯一と言っていい話し相手だ。
最初の会話は他愛もないもので、すぐにネタは尽きてしまう。そこで返信も終えようかなと考えていた時、サワから『何か面白い話ない、タケル?』と振られてしまった。いつもは適当に流すものの、この時はちょうど話したいテーマがあったので、この流れに乗っかる。
ちょっと自信のあるネタだったので、俺は少し興奮気味に指を動かした。
『ワシ、最近はずーっと日本スゴイ動画見てんやわ』
『暇なんか』
『一度見始めると止めらんねーんだわ。済まんな』
『で、何の話よ?』
彼女が食いついてきたので、早速俺は自説を展開する。
『そう言う動画って日本のアニメが世界で人気って内容が多いんよ』
『そりゃ、日本のアニメはポリコレに汚染されてないし複雑な話が多いからでしょ?』
『それもそうなんやけどさ、洋画を見る時はキリスト教を知らないと真の意味で楽しめないって話を聞いた事ない?』
『あー、何か聞いた事あるかも』
サワの方も話を合わせてきた。拒否られていないと実感した俺は、どんどん話を深い方に展開させていく。
『それってつまり、その国の物語はその国で信仰されている宗教の影響を強く受けているって事やん』
『あー』
『つまりよ? 日本の物語が世界で受けているって事はさ、日本の宗教の布教をしているって事になる訳よ』
『飛躍しすぎ』
『いやいや、それはあるって』
『でも日本のアニメってそこまで宗教色濃いのってある? 一休さんとかくらいじゃね? キリスト教をネタにしたりもしてるし……』
サワは14歳と言う設定だ。自分でそう言っていた。一休さんを知っている14歳がいるか! と突っ込みたい気持ちを抑え、俺は彼女の疑問に答える。
『日本人の思考や行動が創作物にも影響を与えているから、直接的に扱う必要はないんよ』
『じゃあ何? 何思想?』
『それは当然神道やん。巫女さんも世界で大人気やで』
『神道って言われてもピンとこんけど? 大体、日本で信仰っつったら仏教じゃね?』
『でも日本の仏教は元の仏教とすっかり変わっとるんよ。日本だけの仕組みとかも多いし。日本の風習に合わせて魔改造されとんやね』
『ほう』
『て事はつまりそのベースにあるのは土着のもの、つまり神道って事になるやんか』
『じゃあそもそも、神道ってどう言う感じなん?』
『少なくとも、一神教ではない。いや、捉え方によってはそうもなるんだけど、基本的には多神であり汎神でもある。何でも受け入れる。調和の考えやね』
俺は最近都市伝説系の動画もよく見ている。なので付け焼き刃の知識をドヤ顔で披露した。当然、このドヤ顔は相手には伝わらない。そして、俺の主張の真意も画面の向こうには伝わっていなかった。
『でもそれ日本人でもピンときてなくない? 私も分からんし。海外の人なら尚更じゃね?』
『でも神道的な考えに共感する海外の人、最近増えてるんやって。多分アニメの影響やないんかな?』
『マジか』
『まぁユーチューブの日本すごい動画を真に受けるならの話やけど』
『眉にツバじゃん』
『エンタメで見る分には面白いんやけどね』
ネットは嘘を嘘と見抜ける人が楽しむもの。そう言う意味で言えば日本すごい動画はエンタメだ。日本をヨイショする情報しか流れない。鵜呑みにしてはいけない。また適当な事言ってらくらいのテンションで見るのが正解だろう。
それはお互いに分かっていた。なので、必然的に認識のすり合わせみたいなやり取りになる。まず、サワが動画への不満をぶちまけた。
『アレ系の動画はほとんどゆっくり喋ってるから苦手。何であんなにゆっくりなんだろ?』
『ワシ2倍速で見てるわ』
『アレ系はしゃーないわなー』
こうして楽しい時間は過ぎていき、会話は何となく流れで終わる。思いを吐き出し切って満足した俺は、スマホを放置して眠りについたのだった。
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