第3話 自宅にて


 彼女が作る手料理は本当にうまかった。


ハンバーグを食べたのも久しぶりだったな。


「ごちそうさまでした。おいしかったです。」


「良い食べっぷりだったわね。君さえ良ければ、またいつでも来てもいいわ。」


「ありがとうございます。今日は、本当にありがとうございました。すっかり遅くまで、お邪魔してしまってすみません。そろそろ失礼させていただきますね。」


そう言って、俺が玄関に向かおうとすると、背中から感触が伝わった。


感触の原因を確かめようと、振り向いた時、目の前には顔を赤らめた彼女が俺の袖をつかんでいた。


「咲枝さん?」


「いや、もう遅いから、泊っていかない?」


「それは、いくら何でも申し訳ないですよ。」


「気なら使わなくてもいいのよ。」


「そういうわけにはいかないですって。咲枝さん、自覚してください。俺だって男なんですよ?男女が一つ屋根の下で一夜を過ごすのは、やはり良くないです。」


「君なら、いいわ。君になら、襲われてもいい。」


「咲枝さん。」


彼女の寂し気な表情を感じ取った俺はそのまま、好意に甘え、その日は咲枝さんの家に泊まることにした。


ちなみに、この日は本当に何もなかったとだけ言っておこう。


翌朝、俺は咲枝さん宅を後にし、家に戻り、大学へ向かう準備をした。


幸い、今日は3限からだ。


俺はコーヒーを口に含みながら、咲枝さんのことを考えた。


あの日、彼女が官能小説を読んでいたのには訳があったらしい。


10年以上付き合っていた彼氏に浮気されたことを知った彼女はそのことで、口論となった。


彼氏の言い分としては、「お前の愛は重いんだよ。」とのことらしい。


ひどいな。


率直な俺の感想だ。


咲枝さんのように尽くしてくれる女性は貴重だというのに。


彼女の根は真面目である。


仕事人間の彼女は彼との愛を両立するために、彼の好みの料理や行為などを研究していたらしい。


最初は彼の反応も好感触だったらしいが、次第に彼女の愛を重いと感じ、開き直った彼から彼女に別れ話を持ちかけたらしい。


そのまま、咲枝さんは一人になった。


今まで自分に何が足りなかったのか?何がいけなかったのか?


彼女はあらゆる本や情報に手を出し、調べた。


その中の一つが官能小説だったらしい。


あの日、公園にいたのは、家にいると、一人であることを再認識してしまうからとのこと。


そんな時、俺と会ったらしい。


俺なら、咲枝さんを悲しませないのに。


そう思うと、俺は悔しさがこみ上げるが、恋愛とは無縁だった今までの自分が男としての自信のなさを物語っている。


俺はどうすれば、彼女を悲しませないで済ませるんだろう?


そんなことを考え始めている時から、すでに彼女に恋していたんだろう。


自分が彼女に対して、恋愛感情を抱いていると自覚した時、何かが俺の中で変わった気がした。

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