第2話 再会
俺は業務モードに切り替え、平静を装い、接客する。
「私の顔に何かついてる?」
彼女を凝視しすぎたのか、挙動不審な俺に彼女が声をかける。
「いえ、何でもありません。ご注文をお伺いします。」
「焼き鳥の塩と枝豆とビールをお願いします。」
「かしこまりました。」
注文票を手に俺は厨房係に注文を伝達する。
すぐに注文の料理はでき、彼女のもとに運ぶ。
「お待たせしました。焼き鳥の塩と枝豆、ビールになります。」
「ありがとう。そこ置いといて。」
「ごゆっくりどうぞ。」
俺はすぐに業務に戻り、他の客の接客に対応する。
時折、彼女のことが視界に入る。
見た目はスーツ姿で、いかにもキャリアウーマンといった感じだ。
でも、月曜から居酒屋に来るのは珍しいな。
居酒屋の繁忙期は週末である。
月曜は客は少ないのが、平常運転であるのだ。
そんなことを考えていると、彼女の瞳から雫が流れた。
彼女はすぐに目元を拭くと、黙って、会計をすませ、店を後にした。
人間にはそれぞれ、事情がある。
白鳥が優雅に水面を浮いているように見えても、見えない水中では必死に足を動かし続けているものだ。
気が付けば、閉店時間となっていた。
明日は講義は1限からある。
急いで、帰り支度をし、帰路へ着いた。
「寒い。」
まだ、冬の寒さが残る夜の4月、帰り道の桜並木を通りながら、ポケットに手を入れてとぼとぼ歩く。
大学進学を機に一人暮らしを始めた俺は、安アパートの扉の鍵穴に鍵を差し込み、ドアノブを回した。
シャワーを浴び、ベッドにダイブする。
アラームを6時にかけ、いざ就寝タイム。
それにしても、彼女は何故泣いていたんだろう?
俺は天井を見つめながら、ゆっくりと目を閉じた。
翌朝、トーストをかじり、最寄り駅に向かう。
改札を抜け、ぎりぎり電車に乗車すると、迎え側に昨日の女性がいた。
どうする?声かけるか?
でも、いきなり声掛けたら不審がられるだろうし、止めとこう。
そんなことを考えていると、大学の最寄り駅についたので、下車する。
彼女も仕事に向かうのだろう。
今日も俺は講義を受け、帰路に向かう。
「安芸、お前今日はバイトのシフトないだろ?一緒に飲もうぜ。」
「いや、今日は予定があるんだ。悪いが、また今度な。」
「まあ、無理には誘わねえよ。気が向いたら、また声かけてくれ。」
「悪いな。永田。」
俺たちはそのまま、大学で別れ、俺は自然公園へ向かう。
なぜ、足がそっちに向かうのかはわからないが、なんとなく行きたいと思ったから行くのだ。
東屋に行くと、彼女がいた。
今は夕方6時だ。
暗い公園に一つの外灯がともり、俺は東屋で缶コーヒーを飲む。
「前にも会ったね?」
ふと、隣から声が聞こえた。
俺は声の方向に顔を向けると、彼女は微笑みながら、こちらに声をかけている。
「はい。」
「今日で君と会うのは、4回目かな。」
「!」
この人、俺と会ったのを覚えていたんだ。
「そんな動揺しなくていいのよ。といっても、最初君と会った時は官能小説を読んでいたし、居酒屋で会った時は泣き顔を見られたし、ヤバイ女って思っていても無理ないわね。」
「そんなことはないです。俺こそ、居酒屋であなたを凝視してしまってすみませんでした。」
「そんなこと気にしなくてもいいわ。それよりも、君はよくここに来るの?」
「はい。気分転換によく来るんですよ。えーと、」
「咲枝よ。」
「咲枝さんもよくここに来られるんですか?」
「いや、ここに来るのは最近になってからかしらね。」
俺たちは互いに談笑し、気が付けばすっかり気温が下がっていた。
「そろそろ帰らなきゃね。仁平くん、よかったら、家で晩御飯食べてく?」
一人暮らしであることを伝えた俺は咲枝さんにそう声掛けられる。
「いや、悪いですよ。」
「遠慮しなくていいのよ。それに君とは馬が合うし、もっと仲良くなりたいのよ。」
「それじゃあ、お言葉に甘えます。」
「決まりね!」
大輪の花が咲くような笑顔で答える咲枝さんは俺の手を引っ張り、彼女に導かれるまま、俺は彼女の自宅に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます