地上1 落ちこぼれの探索者

「うるせぇ」

「ガハッ」


 腹を思いっきり蹴られて倒れる。


 くそ……力が無いだけでこれかよ。


「おい直人なおと。お前さぁ、自分の立場分かってんのか? 荷物持ちだぞ荷物持ち!」


 髪を引っ張られてそう言われる。


「わ……分かって……ます……」


「ならなんでこれくらいの荷物も運べねぇんだ!? 足手まといでしかねぇんだよ、お前」


 そう言って彼は運ばせようとした大量の荷物を指さす。


 いやいやいやいや、普通の荷物持ちでもそんな量の荷物運べないって。


 重さどんくらいか分かってるのか? 約300kgキログラムだぞ?


「あぁ? んだその目は!」


 まっ、まずい。


 彼の足が俺の顔面を思いっきり蹴る。


「ぺっ、おい皆んな、こんな奴置いてさっさと行こうぜ」


 おいおい嘘だろ!?


 探索者が仲間をダンジョンに置いていくのは普通に犯罪だぞ!?


 だが皆「あいつすぐ死ぬだろ」という顔で去っていく。


 ……くそぉ、くそぉ……。


 俺がダンジョンに潜る理由は、御伽話おとぎばなしに出てくる一人の錬金術師に会ってみたいからだ。


 いるかどうか分からないけど、絶対にいると俺は思っている。


 その人に会うまでは……このまま死にたくない!


 あいつらが去って何分か経った後、何とか立ち上がり、剣を杖代わりにして歩く。


 ははっ、こんなところモンスターに見られたら間違いなく殺されるんだろうな。


「ギギィ!」

「……あ」


 目の前には、このダンジョンで最弱のモンスター、ゴブリンがいた。


「でもなぁ……」


 勝てない、間違いなく。


「ギギィ?」


 なんだ、心配してくれてるのか?


 ……な訳ないか。


 モンスターには知性がない。それは探索者ならば誰でも知っている事だ。


 本能で俺らを殺しに来るんだからさっきの「ギギィ?」も特に意味は無いのだろう。


 剣を構える。


「ギギ!」


 向こうも持っている棍棒こんぼうを構える。


「はぁ……はぁ……」


 さっきまで色んな荷物を持っていたせいで疲労感が凄い。


 でも……やられるわけにはいかない。


 夢を叶えるまでは……絶対に……。


「ギィィ!」


 ゴブリンが棍棒を振りかぶる。


 それを避けて剣で斬りつける……が、力が入らず避けられた。


 素で弱いゴブリンと、素で弱い俺。


 だがそれでも接戦だった。


 お互い攻撃を紙一重かみひとえかわしたり普通に攻撃を喰らったりした。


 ゴブリンとそんな戦いしかできない自分が嫌になる。


 だが、最終的に立っていたのは――


「ギ、ギギィ……」

「っはぁ、っはぁ、っはぁ」


 俺だった。


 ゴブリンは灰となって消えた。


 少しの素材を落としていったのでそれを拾い、置いておいたバックパックの中に入れる。


「よし……帰るか」


 そう言って一歩を踏み出した瞬間


職業ジョブを選択可能です。以下のうち好きなものを一つお選び下さい。


 ・戦士


 ・魔術師


 ・弓兵


 ・盗賊


 ・探索者』


「え?」


 な、何だこれ?


 俺はダンジョンに入ったのに職業が貰えなかった落ちこぼれなのに……職業を選べる? 聞いた事ないぞ?


 でも、手に入れられるならば……ダンジョンの奥底にいるという錬金術師に会いに行きたいから……これ一択だ。


職業ジョブが『探索者』に設定されました』


 おおお!


 試しにステータスを見てみる。


「ステータス!」


《名前:飯島いいじま 直人なおと


 職業:探索者lv 1(次のlvまで500XP)


 スキル:『探索』 効果:ダンジョンを探索する事が出来る。


 装備: 頭 無し


     胴体 鉄の鎧(DP+100)


     足 鉄の靴(DP+30 SP―50)


     アクセサリー 無し


     武器 鉄の剣(AP+200)



 累計: AP:200


     DP:130


     SP:―50》


 ……んー? スキルの言っている事がよく分からない……。


『ダンジョンを探索する事が出来る』って……どゆこと?


 まあ、せっかく貰えたスキルだ、上手く使おう。


 先程と同じ様に剣を杖にしながら、出口へと向かって歩いた。

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