第12話 親切と害心

リュミール王国 アンジェ迷宮伯領 トルム村 レイード武具店―――



新人冒険者となったオーン、エーウ、アイの3人は、まずは装備を揃えるために通りにある武具商店に足を運んでいた。

目も眩むような眩い輝きを放つ武具に目を奪われるが、しかしそれにつけられた価格に絶句する。

普通の開拓村に住む村人では一生かけても稼げない金額だ。



「君たちは、新人かね?

 それなら、まずはこの初心者セットから揃えると良いだろう」


初心者セット?と首をかしげる3人に向かい、店主のレイードは丁稚に指示して武具を取り出して見せる。

それは、小剣ショートソードウッドシールドハンドアックスパイクだった。

布鎧ギャンベゾン革鎧レザーアーマーもある。

どれも数打ちかつ中古のようで、所々傷や補修の跡があるが、それでも立派な武具だ。

農具に毛が生えたようなものしか持っていなかった3人には上等と言えた。

しかし、いくら良い武具とはいえ農村から出たばかりの3人では流石に持ち合わせがない……と思っていた矢先、商人から提示されたのは驚くべき値段だった。



「え?!そんなに安いんですか?!」

「ああ、この武具全部で銅貨100枚、間違いないよ。

 これ以上は銅貨1枚もとらないとも」


3人は目を合わせる。銅貨100枚は3人でも十分だせる金額なのだが、あまりに安い。

物価とかそういった情報には疎い3人であっても、村で使っている農具よりも複数の武具が安いというのは驚きだった。



「なあに、冒険者になる人が多いから、引退する人や、武具を買い替える人も多いんでね。

 そういった人たちから武具を買い上げて補修して売っているだけだよ」

「な、なるほど」


オーンが頷く。なんにせよ、武具は欲しいところだったのだ。

武具一式を購入し、それらを身に纏う。



「さっそくダンジョンに行くのかい?」

「いえ、回復薬ポーションとかを買いに行こうと思って……」

「……ああ、回復薬かい。

 なら、ここから少し先のところに薬屋がある。そこなら一式売っているよ」

「ありがとうございます!レイードさん!」


元気よく頷くオーンに、レイードの男も頷き返し……エーウと共に武器の調子を確認している、アイの方へ目を向けた。

彼女の顔や、武具を纏っている身体を見て……軽く、舌で唇を舐める。



「……ああ、気を付けると良い。

 万一、何かあったら力になるとも。その時は、また、ここに来なさい」

「わかりました!」


店を後にする3人。

レイードは彼らを見送り……アイの背を見てもう一度、唇を舐めた。



「良いな……アレは、好みだ。

 さあ、アイツらはどうなるか……うまくいけば……いや、か、ふふ」





リュミール王国 アンジェ迷宮伯領 トルム村 薬屋グリド―――



「うわ、回復薬ポーションってこんなに高いんだ」

解毒薬アンチドーテって銀貨10枚もするんだ……」

「これは買えないよぉ……」


緊急の治療薬を買い求めた3人だったが、薬品類の値段に驚愕する。

今腰に下げている小剣ショートソードよりも、目の前の小さな薬瓶のほうが遥かに高額なのだ。



「怪我をしないようにしないと……」

「回復の魔法を使える人をパーティに入れられないかな?」

「そういう人はもう組んでると思うなあ」

「そうよね……」


しぶしぶ諦め、3人はダンジョンへと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る