Who Killed Cock Robin?
そういえば、ベッドを温めるのを忘れていた。
先刻、地階に下りたとき、厨房の暖炉の横に
彼の好意からの申し出を断ったときの、心外だと言わんばかりのしかめ面を思い出し、にやりとする。
階段の途中でジャックは厨房に取って返した。
誰もいないキッチンで
ひと気のない廊下はほぼ全ての
(そういえばこの屋敷って……幽霊の噂も聞かないな)
歴史のある大邸宅には、さまよえる魂のひとつやふたつ住み着いていてもおかしくはないのに。
「……ま、いたとしても、賛美歌が響いている中には出てこられないか」
それに、出てきたところで、あの執事が「仕事もしない奴を置いておくわけにはいかない」とか言って叩き出してしまうだろうし。
今度、ロビンに幽霊話をしてやろう――たしかブリジットが読んでいた本の中にそんな話があったはずだ。時折、背伸びをしているような落ち着きぶりをみせる少年だが、怖い話を聞けば震えあがって、いつぞやのように彼にしがみついてくるに違いない。
(サイモンのやつが閉め忘れたのかな……)
本来ならノックし、入室の許しを得るところだが、手に持ったベッドウォーマーが邪魔で、先に扉の隙間から中を覗き込んでみる。
辞去したときより室内の
「何やってんだよ、サイモンの爺さんは……」
軽く舌打ちし、肩先でドアを押し開ける。
暗い廊下を通ってきたせいで目が慣れていたために、灰青色に染まった
ぶ厚い絨毯のおかげで足音は聞こえなかった。同様に、天蓋付四柱式寝台の周りにめぐらされた
カーテンの開いている反対側の窓から差し込む月光が、真白い
大きな黒い翼を持つ天使――のように彼は錯覚した。輝く銀の髪をした天使が祭壇に降り立ち、その足下には愛らしい
しかし二、三度まばたきをすると幻は消えた。代わりに、そこに映ったのは紛れもない現実だった。
翼と見えたのはドレッシングガウン、いつも屋敷の主がまとっているものだ。今夜も主人はそれを身につけて、寝台にかがみこんでいた。その膝許に転がっているふたつの黒っぽい
枕かと彼は思った。奥の方のかたまりはぴくりとも動かなかったからだ。
しかし――おそらく雲が切れたからだろう――ひとたび陰った月光が残酷な手のようにカーテンの切れ目から忍び込み、すべてを表舞台に晒し出した。
次に目に入ったのは、巻毛らしい、小さな頭だった。それから、質素な灰色の寝巻に包まれた細い体。
薄っぺらい腹までまくれ上がった寝巻から、白樺の若枝のような肢がのぞく。その折れそうにほっそりした足首を、男の大きく骨ばった手が掴み、折り畳みナイフのように、薄い胸にきつく押しつけているのも。
ジャックとて、
それでも、それだけのことであれば、単純な嫌悪に鼻のつけ根に思いきり皺を寄せ、
しかし彼の足は、石像とでも化したかのようにそこから動かなかった。
男が律動し、小さな体が荒々しく揺さぶられる。衣擦れの音以上に、肉と肉の打ち合わされる音に加え、淫靡な湿った水音が冷えきった室内に響く。動きにつれて、ガウンが幅広の肩からすべり落ちる。隠されていた部分が、醜悪なまでに露わになった。
肉の薄い青白い尻臀の間に埋め込まれ出し入れされているのは、女の手首ほどの太さの凶悪な肉の凶器だった。
抜き身のサーベルのように、男は生贄の躰を容赦なく切り開き、その生ける鞘となった哀れな子供の喉からは、夜の
男が歯をむきだして嗤った。しかし声は聞こえない。夜目にも白い歯列が耳まで裂けているかの如くきれいに並んでいるのがわかる。歪んだ欲望と快楽に、感極まったように目を細め、すっきりと細く上品な
ジャックが両手で握りしめているベッドウォーマーの柄は冷たい汗でじっとりと湿り、
向うを向いて横たわっていた頭が、支えを失った人形のように、力なく、扉の方へ傾いた。
彼の血は今度こそ凍りついた。
こちらを見つめて――
闇の中でぎらついていた男の双眸が、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます