Deck The Halls With Boughts Of Holly

 12月に馬車で旅をするという無謀さにも関わらず、寒さも湿気も、屋敷中を覆う華やかさに太刀打ちできるものではなかった。

 暖炉にはすべて火が入り、館のそこかしこに、温室で育てられた生花が飾られた。大輪の薔薇、可愛らしい赤い実をつけたヒイラギ、薄いフリルを幾重にも重ねたような芍薬ピオニー、それにピンクや白のつつましい花を咲かせたクリスマスローズが、きらびやかなマイセン磁器の豪奢な花瓶に惜しげもなく投げ込まれた。あらゆる出入り口と扉の上には色とりどりのリボンで束ねられたヤドリギが、そこをくぐる男女にキスを誘っていた――その恩恵にあずかった者は少なくなかったろう。使用人の数もいつもより多かったからだ。

 人数に比例するように、厨房のある、屋敷の裏手の使用人棟からは、昼夜を問わず、スープを煮立てる匂い、クリスマスプディングの材料の甘い香り、それらを刻むリズミカルな音が漂ってきていた。

 キッチンやスティルルームのそばを通りかかることができれば、つまみ食いをする機会チャンスはふんだんにあったし、料理長コックも屋敷付きの女中頭ハウスキーパーも、この時期ばかりは見て見ぬふりをした。

 ジャックは他の使用人ボーイたちと手分けして、きれいにラッピングされた大小さまざまのプレゼントの包みを客用寝室に運び込んだ。

 優秀なメイドのブリジットはみごとに、仰せつかったサンタクロースファーザー・クリスマスの役目を果たし、彼女はそのご褒美に、主人から心づけとクリスマス休暇をもらって実家に帰っていた。

 それらとは別に、主が自室の書き物机の上に、

大理石の縞模様マーブリングを施した小さな美しい箱をいくつも載せているのをジャックは目に留めた。

 ちらと耳に挟んだ話では、招待客用の贈り物は主自ら見立てているということだった。その中身はむろん、木や布でできた人形やら独楽こまやらなんかではなく、糸のように細い金鎖で編んだ婦人用懐中時計のチェーンや、ロシアの皇帝ツァーリも目を見張るような色鮮やかな七宝細工の香水瓶、丸々とした愛らしい天使ケルビムの浮彫がされた銀の嗅ぎ煙草入れなどだ。

 それだけの貴重で小さなもの――隠しポケットに入れやすいもの――があっても誰も盗みをはたらこうとしないのは、あの執事が絶えず目を光らせているせいもあるだろうが、主が気前よく給金や酒代をはずむのがものを言っているに違いなかった。それだけあれば、そうそう悪魔の囁きに耳を貸すこともあるまいと。

 来客の顔ぶれもほとんど同じだったが、クリスマス前、冬至の日には、孤児院の院長ヘイワード師が子供たちを引き連れてやってきた。

「ええまったく、光栄なことです」はちきれんばかりの体を黒い僧服に包んだ司祭は、冬だというのに額や首筋の汗を真っ白いハンカチでひっきりなしに拭きつつ、屋敷の主人に卑屈なまでにへいこら、、、、してみせた。

「残念ながら声変わりしてしまった子も何人かおりますが、連れて参ったのは聖歌隊の中でも、学業の方もなかなかに優秀で見栄えも悪くない者ばかりですから、歌以外の面でもきっと他のお歴々に感銘を与えることができるのではないでしょうかな」

「そうであることを信じていますよ」主は敬虔な信徒らしく、軽く頭を下げた。

「それで、もしさしつかえなければ、私の従僕もお披露目の席の隅に同席させてもらっても構わないでしょうか? 子供のひとりと親しい間柄の者もおりましてね。何しろクリスマスですから」

「もちろんです――むろんですとも!」院長は腹を揺らして答えた。「慈愛あまねくこの夜に、断る理由などありませんでしょう!」


 クリスマスイブ、ジャックは早朝に叩き起こされ、使用人向けの礼拝に強制参加させられた。ロンドンの屋敷では教会へ行くよううるさく言われたことはなかったから、これは寝耳に水だった。それでも、晩に待っていることを思えば、礼拝堂チャペルのベンチが氷のように冷たくて硬いのも、牧師の説教が長いのも一向に気にならなかった。

 それからいつもの通り、邸宅と客人双方のこまごまとした雑務をこなし――例のごとくあのアイルランド人の郷紳ジェントリがお供を連れずにやってきて、彼がまだ同じ職場で働いているのを見てとるや、就寝前に、用事を書きつけた一覧表を押しつけてきたものだから、ジャックは客用寝室の前に出されたブーツを回収して文句のつけようがないくらいぴかぴかに磨きをかけ、洗濯室にきちんとプレスされ糊付けされたズボンとシャツを取りに行き、その合間に、他の使用人と一緒に銀食器カトラリーを磨いた。昼近くなれば招待客が起き出すので、髭剃り用の水とお湯、それからタオルを持ってまた二階まで往復せねばならない。

 まあこれも辛抱だと彼は自分に言い聞かせた。子供たちは三階と屋根裏の使用人部屋に半ば押し込まれていて、メイドが世話をしていたからまだロビンの顔を見ていなかったが、来ていることは手紙で知っていた。あの内気な少年に人前で歌うことを承知させるとは、孤児院の居心地がよほどいいのか、ご主人様が院長に鼻薬でも嗅がせたか、あるいは魔法でも使ったのかもしれなかった。

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