Canary In The Coal Mine

 老執事は夕方に帰ってくるなり、厨房のテーブルの隅でジャックやハウスメイドらと一緒に食事をとっている少年を目にして顔をしかめた。

「俺が勝手に連れ込んだんじゃないですよ」ジャックは弁明した。「旦那様の慈善事業の一環ってやつで。あんたもご存知でしょう?」

「……ああ。だがずいぶんと痩せているな」

「あっちじゃろくな食い物がないもんでね。それで、旦那様にはページにするには痩せすぎだって言われちまって。でもきっと役に立ちますよ、俺が保証する」

「駄目だ」執事のいらえはにべもなかった。

「どうしてだ……ですか。うちにはこんな小僧っ子ひとり食わせてやるだけの余裕もないってことか?」

「そういう問題ではない。この家には仕事に耐えられる人間しか置いておくことはできない」

 ブリジットが同情を込めたまなざしを注ぎ、ロビンの、スプーンを持つ手は、大人たちが話し始めたときからずっと止まっていた。

「それなら俺の」

「七日やる」サイモンがさえぎった。

「おそらくは旦那様にも同じことを言われただろう。お前の部屋においてやるんだ。食事は食べさせてやる。その間に、もといたところに戻るか――どちらにせよどうするのかよく考えることだ」


「……あの人、なんだかおっかない」

 その夜、狭苦しい寝台ベッドで昔のようにくっつきあい、ロビンは言った。昔と違っているところは、マットレスが潰れてもいなければ藁がはみ出てもおらず、ぼろぼろのコートを上掛け代わりに、全財産を身につけて眠らなくてもいいということだ。

「あの人って――ああ、サイモンの野郎のことか。ったく、自分がこの家の主人みたいな顔しやがって。もしあいつが執事じゃなかったら、旦那様はきっと」

「執事のひとじゃないよ」ロビンはジャックの腕の中で身じろぎし、彼の顔を見上げた。カーテンの隙間から漏れる月光が、少年の白いおもてを、この世のものとは思えないほど幽玄に見せている。

「ジャックが旦那様っていってる、あのひとだよ」

「旦那様のどこが怖いんだ?」

「……よくわからないけど」ロビンは下唇を噛んだ。「でも……なんていうか、あのひとの目を見たら……体が冷たくなって」

「それはお前、緊張してるんだよ」

 兄を自負するジャックは、弟分の巻毛を安心させるように撫でた。

「ジャックは平気なの?」

「確かに初めて声をかけられたときはちょっとびびったけど――すぐ慣れたさ。少なくとも今まで俺が相手をしてきた豚野郎どもとは比べものにならないくらい紳士なのは間違いないし」

「それじゃ……何もひどいことはされてないの? ほんとに?」

「全然。ケツを撫でられたことさえないぜ――神に誓って」

 ロビンはほうっと息を吐いた。

 だからお前も、田舎のお屋敷カントリーハウスの近くにいられるんならそう悪いことでもないだろ、と、ジャックは熱心にかきくどいた。

「……うん、考えてみるよ」と妙に大人びた口調で少年はつぶやき、上掛けを顎の下まで引き上げると、うとうとと眠りの国に落ちていった。

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