Dance with the Vamps
執事からあの“アメリカ人”紳士の名を聞き、滞在中の用を頼まれましたと主人に報告すると、
「構わないとも。彼だけでなく他のお客人にも同じようにしてやりなさい。彼らに頼まれたら断ってはいけないよ。ふつうの頼みごとでも、ふつうでない依頼でも。――まああの御仁に限っていえば、心配はいらないだろうがね」
招待客からおかしな用事を言いつけられたりはしなかったが、全員が全員、
朝が昼になるまで起きてこないし、お茶の時間は遅い。昨今の上流階級のたしなみといってもいい狩猟にも出ようとしない。夜は夜で、
そのうえ、連れている召使たちといったらその主たち同様
「彼らはね、
十月の最後の晩、舞踏会のために衣装を整えながら主が言った。
仮装舞踏会にも、着付けを仰せつかったサイモンは完璧に仕事をこなした。洒落者の主の幽姿を、ジャックは暖炉の火の世話も忘れてうっとりと眺めた。
「今宵の私の最初のお相手はあの伯爵夫人なんだ。せいぜい足を踏まれないように気をつけんとな」
「じゃ、あの方はクレオパトラなんですか?」
「いや、セミラミスさ」
お前はもう
しかし好奇心を抑えきれず、使用人に許された階段を使わず、
迂闊な使用人がうっかり閉め忘れでもしたのだろう、指二本分ほど開いている装飾扉の隙間から、細いオレンジ色の光の帯と楽の
音楽など辻音楽師の弾く大道芸同然の騒々しいものしか耳にしたことのないジャックの胸にさえ、甘く切なく、まるで泣き叫んでいるようなフィドルの弦の震えが、血が沸き踊る興奮を呼び起こした。それはどこか異国を思わせる調べだった。
ホールを埋めていたのは、男か女かひと目では判別のつかない者たち。全員が仮装しあるいは仮面をつけていたからだ。
無数のクリスタルガラスがシャンデリアに灯された蠟燭の光を反射する中、踊る客人のまとう色とりどりの宝石、銀糸のレース、金糸の
古代ローマの将軍に扮した主は、広間の中ほどで、鳶色の髪の貴婦人の手をとっていた。
真白い鳩の羽飾りを結い髪に挿し、豪奢な金と宝玉の
当世の良俗に逆行しているのは彼女だけではなかった。
鳥の
かと思えば、どっしりとしたチューダー朝の装いをした赤いドレスのご婦人は、夫であるヘンリー八世に不義密通と近親相姦の嫌疑をかけられ斬首された、アン・ブーリンのつもりらしい。楽師は全員
使用人らしいお仕着せ姿の者は、黒犬――口吻が細長く、尖った耳からは、砂漠に棲むジャッカルに近いが――の仮面をかぶっている。琥珀色の両眼が、ターンするたびにきらりと光る。
暗殺された偉人と残虐な女王、斬首された王妃と首切り役人、民衆の手にかかって首を刎ねられたロココの最後の君主、異教の神々の腕に抱かれているのは、広がった袖やオーバースカート、そして仮面にも綿毛のようにふわふわした羽根飾りをなびかせた、白鳥のような娘たち。
彼女らは客ではない。あらかじめ主人が呼び寄せておいた、夜の女たちだ。幻想的な光景に興奮したらしいパートナーにいささか乱暴に振り回され、女たちの、悲鳴にも似た嬌声がそこここであがる。
だがそれも、次第に激しくかき鳴らされるリュート、弦も切れよとばかりに高音で唄うフィドルの音にまぎれ、死せる者に扮した生者と、死すべき運命にある生き物たちは、いつまでも終わらないように見える左回りの
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