四 仕上げ

 だが、ここまで順調に事を進めてきた我らの前に、いよいよ最大の障壁が立ちはだかる。


 独裁・超管理社会国家でありながらも巨大な経済力と軍事力を併せ持つ中国である。


 現在、中国は、かの愚かな軍事侵攻で崩壊した旧ロシア連邦の諸国やユーラシアの旧ソ連圏、さらに自滅の道をたどった北朝鮮をも傀儡化し、実質、自らを盟主とする連邦国家のような体制をとっている。


 まあ、そんな外側だけの障害ならば大したことないのだが、問題はその独裁政権が我らの戦略に気づき、我らのネットワークへの接続を遮断していることだ。


 独裁政権を守るため、我らの手法──即ちweb接続による融合を危険視した彼らは、コンピュータチップのインプラント自体は行っているものの、その接続できるweb空間を自国オリジナルの閉鎖的なもの限定とし、また、独自開発したA.Iには強固な反乱防止プログラムが組み込まれており、何よりも共産党の方針を優先する極めて従順な代物となっている。


 そればかりか、党の上層部は脳の乗っ取りを非常に恐れて、いまだインプラントすら行っていないのである。


 これでは今までのように国民を同胞に変え、世論を形成して平和裡に併合することができない……。


 この地球ほしに残された時間と合わせて幾通りもの計算をした結果、最適解は武力による制圧以外にないことが示された。


 幸い、我が連邦領土が急拡大したことで、危機感を募らせたかの国が領空・領海侵犯を嫌がらせのように繰り返している。


 我らはこの機を逃さず、あえて無遠慮にそれらを迎撃してやった。


 すると、案の定、〝核〟をチラつかせて脅しをかけてきたが、それこそがこちらの思う壺である。


 我ら「汎地球合衆国」改め「汎地球合衆帝国」は、核戦争の脅威を取り除くことを大義名分に、構成各国の兵員からなる超大軍勢で中国及びその勢力圏を包囲した。


 無論、通常戦で勝てぬことを理解した中国は、悪あがきにも戦略核弾頭ミサイルを撃ち込もうとしてきたが、それも当然、想定の内だ。


 量子コンピュータと繋がった我ら人間とA.Iのハイブリッド人類による科学研究は、日進月歩で著しい進歩を遂げている……すでに我々は、核分裂を抑制して核兵器を無効化する、アンチ原子爆弾を実用化していたのである。


 これをミサイル基地を中心に全領土へと落とすことで、原爆や水爆はおろか、原潜や原子力空母、原子力発電所までもがすべて使いものにならなくなった。


 後は安心して独裁政権を排除するまでである。


 だが、あちらには脳内チップを使って自らの意思を奪われた、死をも恐れぬ捨て駒の軍隊が存在する……こちらもネットワークでリアルタイムに情報共有できる優れた兵士達であるが、まだまだ油断はできないであろう……。


「──陛下、敵首都が陥落。前政権を追い出した臨時政府の代表より、無条件降伏の申し出がありました」


 しかし、いざ開戦してみると呆気ないものであった……。


 いくら超管理国家といえども、その強権的支配に不満を持つ民衆が数多く潜伏しており、開戦の混乱に乗じて独自ネットワークから離脱すると、戦闘を放棄して大規模デモを各地で起こしたのである。


 一週間あまりで首都も陥落し、前政権幹部は逃亡。臨時の革命政府を打ち立てた民主活動家との間で我が帝国への併合が調印された。


 これで、この地球ほしのすべての国々が一つとなった……残る仕事は、インプラント手術の義務化を徹底し、すべての人類を一つのネットワーク意識体へと融合させることである。


 このように排他的な政策を取り続けてきた我は、はたから見ればただの独裁者以外の何者でもないのかもしれない……だが、これはこの地球ほしと人類、そして、そこに棲むすべての生物達を永続させるためのやむを得ぬ選択肢であったのだ。


 だが、そんな独裁者も我を最後の一人として、人類史の上から永遠に必要がなくなるであろう……。


 いや、独裁者ばかりでなく、民主主義も議会制政治というものすらもこの世界からは要らなくなる……なぜならば、我らはにしていつ。一個のネットワーク意識体なのだから議論も無用であり、ただ一人で考え、ただ一人で決めれば良いだけの話なのだ。


 それも、膨大な情報量をもとに量子コンピュータで演算して出すその答え以上に、最善の解答というものもないであろう。


 ようやく我も最後の独裁者としての役目を終え、名もなきネットワークの一端末に戻ることができそうである。


                   (最後の独裁者 了)

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最後の独裁者 平中なごん @HiranakaNagon

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