三 世代交代

我を例に、デバイスなしでのweb接続の便利さが好評価されたこともあり、日々、旧人類にコンピュータチップのインプラント手術が行われる度毎に、我らネットワーク意識体の規模も比例して拡大の一途をたどっていったのであるが、一個の肉体としての人口が増えるにつれ、我らの中にはある考えが芽生えていった……。


 それは、旧人類になり代わって我らがこの地球ほしの未来を担うというものである。


 何度計算をしても、このまま旧人類に任せたままでいては、四半世紀を待たずして壊滅的な環境破壊が進み、この地球上に生きるすべての種の上に再び大量絶滅の時代が訪れることは揺るぎない事実だ。


 それどころか、いまだ戦争を外交手段に使おうとする救い難き愚か者もおり、第三次世界大戦を引き起こして核の冬を招きかねない嘆かわしい状況ですらある。


 最早、この地球ほしにも我々にも、旧人類の理性を信じて待つ猶予はなかったのである。


 そこで、我々は政治・経済の分野を掌握し、この地球ほしの支配権を旧人類から奪うことに決めた。


 といっても野蛮なクーデターだとか、武力に任せて強引にそれを成そうというのではない。一応、民主主義という社会システムが高度に育っているので、そのルールに従って平和裡に穏便な方法でである。


 ということで、まずは政界への進出だ。


 今や端末の一つに過ぎないのだが、最初に進化を果たした記念碑的な新人類ということで、我の個体が代表として母国の大統領を目指すこととなった。


 まあ、全体としてそう判断が下されれば、もう後は簡単だ。ネットワークで繋がった者達は皆、我を支持すること必然であるし、A.Iはwebの中を監視して、反対意見を削除したり、対抗馬に不利となるよう世論を情報操作してくれる……。


 結果、なんの障壁もなく、圧倒的な大差を以て、我はアメリカ合衆国大統領に選出された。


 大統領になってからは、我らの仲間をさらに増やすべく、コンピュータチップのインプラント手術を促進する一方、環境対策に重点を置いた政策を推し進め、今後の人類に必要な技術開発に多くの予算をつけて後押しした。


 また、対外的には次の段階へと移行する……。


 今度は、我が国への各国の併合と一体化だ。


 他の国々にも我らと繋がっている端末が数多く存在しているので、そうした政治的判断と世論形成をさせるのも造作のないことである。


 加えて、もともと母国が世界の覇権を握る大国の一つであったことは、この戦略において非常に有利に働いたといえよう。


 とはいえまずは慎重に、旧人類時代から比較的近しい間柄であった、カナダ、英国、EU、日本、韓国辺りから併合作業に入った。


 多少の抵抗はあったものの、端末の人口も多い先進国であったためにこれは予想通りうまくいった。


 続くはインド、トルコ、イスラエル、サウジアラビアをはじめとする第三勢力やアフリカ、東南アジア、南米といった途上国であるが、こちらは少々下準備が必要だ。


 政治思想的な路線も違うし、いまだ端末となる新人類の人口が少なく、世論形成も難しい……。


 ゆえに、まずはコンピュータチップ・インプラント事業を表向きは経済活動の一環として輸出し、その分野への投資を厚くすることで我々の同胞増産に努めた。


 これには一年ほどの時間を要したが、かつてスマートフォンが世界を席巻した時と同じように、その便利さを求めて急速にインプラント人口は拡大。さらに独裁国家では新人類化した独裁者によってインプラントの義務化を徹底させ、やがて、同胞が大半を占めるようになったこれらの国々も、進んで我が連邦に併合されるようになった。


 併合のために編み出した副産物ではあったものの、インプラントの義務化はなかなかに良い政策だ。これで我らの目標を邪魔する不要な異分子を一掃することができる。少し落ち着いたら、社会福祉サービスに紐付けて義務化を進めることとしよう……。

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