第二百十二話 別れと終わり
スサーッ。
城の中を静かな風がホープの頬を撫でる。
「終わったのか?」
「まだ分からないよ、オーディンは僕たちの目の前にいる。まだ警戒は解かない方がいい。」
「けど、オーディンからはなんの力も感じないよ。確認しよう、みんな。」
スタッ、スタッ、スタッ。
セラの言葉でホープは傷だらけの体を引きずりながら、オーディンの元へ行く。
「はぁ、はぁ、はぁ。私は、負けたのか。」
「お前の負けかどうかは分かんねえけど、決着はついたみたいだぜ。」
「そうか、なら私は、もうすぐ死ぬのだな。」
「オーディン……。」
オーディンの体も傷だらけ。
なんとか五体満足ではあるが、もはや力も入れられない。
「さすがは、ホープということか。人間の希望、その大きさは私が思う以上に大きかったということだな。」
「俺たちは、ホープっていう名前に誇りを持ってる。全ての人の希望の光になれるのがこの言葉だった、そう、お前がつけてくれたこの名前が。」
「気付いていたのか、私が命名したことを。」
「なんとなくな。お前と戦っていく中で、お前が唯一捨てきれない感情を理解できた。恐怖だ。そして、その感情を取り除くための唯一の希望、それが俺たちホープだったんだろ。」
ニヤッ。
オーディンは弱々しく微笑む。
「そうだ。スノウよ、私は間違えた選択をしてしまった、そして、それはどれだけ償っても償いきれないものばかりだ。私は、愚か者だったな。」
「そんな風に、自分を責めないでください。あなたは神ではありますが、私たちと同じようにこの世界で生きる生き物なんです、失敗や間違いなんて何度もしてしまいます。」
「そうだよ、確かにあなたのしてきた行いは許されないかもしれない、けど、あなたがしようとしてきたことも、この世界を平和にするためのことだった。その気持ちだけは、何も間違いじゃない。」
「っ……、鷹のヒメノ、虎のリサ……。」
オーディンは二人に顔を向ける。
「怖かったんですよね、オーディンさんも。だったら、神だからといって特別な存在なわけじゃない、私たちは手を取り合って生きていける存在だったんですよ。」
「そう、アトリ様があんたに手を差し伸べたように、あと少しセラ達がこの世界に早く生を受けてたら、あんたを間違った道から連れ戻すことができたかもしれない。それが、セラ達の罪。」
「鮫のユキナ、黒狼のセラリウム、お前達が悔やむことはない。私は、己の弱さから恐怖に蝕まれ誰かを信頼することをいつしか忘れてしまっていた。私は、未来を照らす光にはなれなかったのだ。」
「いいえ、あなたは光になれていました。少なからず、僕はヴァルキュリア隊に入った時、あなたの目には明るい光が宿っていた。だから、忠誠を誓ったのです。」
セドリックはオーディンの目の前に立つ。
「リーンベル、そうか、その言葉が聞けただけでも救われる気がするな。」
「オーディン、いえ、国王オーディン。どんな方法だったとしても、あなたは、僕たちという光を生み出し、このギムレーに希望を与えてくれました。それは、誇ってください。」
「誇りか、そういえば、私もヴァルハラではそのようなことを言っていたな。なぜ、忘れていたのだろうな、こんな大切なことを……。」
シュイーンッ!
スノウ達の体から、五神の姿が現れる。
「お前達、すまなかった。これまで、何度も苦労をかけてしまった、本当にすまない。」
「わしらの方こそすまなかった。あんさんの近くにいたはずなのに、支えることができなかった。」
「うちらは、人間だけを信じようとして、もっと信頼しなくてはいけなかったあんたを信頼できなかった。うちらも、愚かな神よ。」
グラニとヨルムンガンドが涙ながらに話す。
「私たちは、あなたにお礼を言わなくてはいけない。ヴァルハラであなたに助けてもらわなかったら、私たちはここに来れずに死んでいた。あなたに、助けてもらえたから今を生きていられる。」
「そうね、確かにあんたは選択を間違えたのかもしれない。けど、その間違いは私たちの責任でもある、その辛さを押し付けてしまって、本当にごめんなさい。」
「はははっ、優しいのだな、戦神という名を持つのに。」
「俺たちのことを育ててくれたのは、お前だ、オーディン。その恩返しをするために、戦神としてヴァルハラでお前に仕えた。けど、こんな別れになるなんてな、お互い、バカだな。」
テュールがオーディンの顔をのぞく。
「なあ、テュール。そして、戦神の五体よ。頼みたいことがある。」
「なんだ?」
「この世界は、お前達が言っていたように人と神が手を取り合う温かい世界になれると思うのだ。私のことはどう言ってくれても構わない、だから、この世界を人間と共に作り上げてくれないか。」
「……オーディン。」
シュイーンッ!
テュールの光が弱まり、スノウが出てくる。
「お前は、俺たちに未来を指し示してくれた最強の国王オーディン。その意志を注ぐのが、俺たちホープとこれからを生きる人と神の使命だ。だからよ、空から見守っててくれないか。」
「スノウ……、そうか、久しぶりに思い出せた。これが、信頼できる者の温かさか。ありがとう、スノウ。ホープよ、私にも未来を見せてくれて。」
「俺たちの方こそありがとう。お前という存在がいたから、これからみんなで未来へと突き進める。また会えたらいいな、どこか遠い未来で。」
「……ああ、だが気をつけるんだ。いつ外から敵が襲ってくるかも分からない、お前たちには、私と同じ軌跡は辿って欲しくない。さようならだ、私を私に戻してくれた戦士たちよ。」
シュイーンッ。
オーディンは光となり、空高く消えていった。
「終わった、みたいだな。」
(ああ、終わったんだ。)
シュイーンッ。
全員が
「兄さん。」
「おう、俺たちは世界を取り戻した。けど、これがゴールじゃない。あいつが俺らに託してくれた分まで、やり抜いてやる。戻ろう、みんなのところへ。」
「はいっ。」
スタッ、スタッ、スタッ。
ホープはヴァルハラ城の入り口へ向け歩き始めた。
キィーッ。
城のドアを開くと、そこにはミーミルたちの姿が。
「おおぅ!ホープ!」
「ただいま、ミーミル。」
「皆が戻ってきたということは、本当に!!」
「ああ、終わったんだ。」
オーディンと人間の世界を巡る争いは、終わりを迎えた。
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