第二百十三話 成り上がった英雄達

スサーッ。

草木が風に揺れ、そこには平和な世界が広がる。



「ありがとう、兄さん。手伝ってもらったおかげで、かなり早くオープンできそうだよ。」

「良かったぜ、手伝った甲斐もあるよ。」

「あんたをお客さんの第一号として招待させてくれ!いいだろ?」

「喜んでくるぜ。けど、大食いの仲間もついてきちまうかも知んねえが。」

「いいぜ!いくらでも任せてくれよ!」


スタッ、スタッ、スタッ。

少年は町から出ていく。



「兄さん!」

「ん?おぅ、ヒメノ。来てたのか。」

「連絡したじゃないですか、覚えてないんですか?」

「ん?あ、ああ。覚えてる覚えてる!」


その少年は、スノウであった。



二人は合流しグラズヘイムに向かっていた。



「久しぶりにグラズヘイムに行きますね。なんだか、とても楽しみです。」

「けど、複数人で受注必須のクエストがあるから俺たちがまた集まるんだろ?楽しみなんてヒメノっぽくないな。」

「クエストは楽しみではないですけど、六人集まるなんてなんですよ!」





そう、オーディンとの戦いから一年が経過していた。





時は戻り、オーディンとの決戦が終わった直後。



オーディンが消滅すると共に、世界で暴れていたゴブリンやオークも姿を消していた。



今では、人間とモンスターしかいない元のギムレーへと変わっていた。



途中ミーミルたちと合流し、助けに来てくれた各地の仲間たちやヴァルキュリア隊とも合流してグラズヘイムを再建していった。



そして、決戦から一ヶ月後、正式に国王となったミーミルからホープに褒美を取らせるということで、ヴァルハラ城に招かれていた。



「ミーミル様、ホープが到着しました。」

「うん、アトレウス、開けてくれ。」

「はっ。」


キィーッ。

ドアを開くと、ホープの六人が部屋に入ってくる。



スタッ、スタッ、スタッ。

そして、ミーミルの前で止まる。



「ホープ、これまで長い時間をかけて、ギムレーを救ってくれたこと、国王として心から感謝する。本当に、ありがとう。」

「いいえ、私たちはできることをしたまでです。」

「謙虚だな、ヒメノさんは。それでだ、ホープには返しても返しきれないほどの恩がある、なので、私にできることならなんでもしたいと考えている。遠慮はいらない、何か願いはないか?」


ササッ、ササッ。

スノウたちは顔を見合わせ、頷く。


「じゃあ、俺が代表して願いを言うぜ。……それは、

「なっ!?」


ザワザワザワッ。

城の中がざわつき始める。



「そ、それはこちらからお願いしたいことだ。決して、君たちからお願いしてもらうことではーー。」

「違うんだ、俺たちの意思でこの世界を変えていきたいんだ。……それが、あいつらとの約束だから。」


スッ。

スノウはまっすぐな目でミーミルを見る。



「っ……、分かった。なら、自由に動いてくれて構わない。この世界を元に戻すには、まだ時間がかかる。これからも、私たちに協力してほしい。」

「当たり前だ、そんじゃあ俺たちはもう行くぜ。」

「あ、一つだけ伝えときたいことがある。アトレウス、あれを。」

「なんだ?」


スタッ、スタッ、スタッ。

パカッ。

アトレウスは、スノウたちの前で一つの箱を開ける。



「うん?ペンダントか?」

「そう、それは君たちホープのために作ったものだ。君たちはこの世界になくてはならない存在、だからこそ、この国の象徴として持っていてほしいんだ。」

「ははっ、これじゃあサボるにもサボれねえな。」

「少しは目を瞑るぞ、なんせ君たちは、なのだからな。」


カチャッ。

全員がペンダントを身につける。


「お兄がペンダントってなんか似合わないね。」

「確かにそうですね、先輩にはもったいないです!」

「うるせぇ、待ってろよ、すぐ似合うようになってやるから。」

「長い目で待ってあげないとだね、あたし達は。」

「相変わらず仲が良いな、ホープは。」


スタッ。

全員がミーミルに向き直す。



「当たり前だろ、俺たちはホープ。世界に希望の光を照らす存在だ、忘れるなよ。」

「それでは、僕たちはこれで。」

「また来ますね、ミーミル様。」


スタッ、スタッ、スタッ。

城からホープは外に出て、そこからは各自別行動で世界の発展に力を捧げた。






そして、一年が経過した今日。


グラズヘイムに、ホープに依頼したいクエストが舞い込んだと聞き、一年ぶりに再会をしようというところだ。



「皆さん元気ですかね?私は兄さんと時々会ってましたが、他の皆さんとは会ってなくて。」

「俺も同じだ、基本的に俺は一人で動いてたからな。まあ、あいつらなら心配ないだろ、俺たちもさほど変わってないしな。」

「兄さんは、少し背が伸びましたよね?」

「そうか?自覚はねえけど。」



スタッ、スタッ、スタッ。

スノウとヒメノはグラズヘイムに入る。



少し歩くと、



「あ!スノウ!ヒメチン!」

「お久しぶりです、お二人とも。」

「よお、リサ、ユキナ。」


そこには今まで長い間一緒に過ごしてきた、リサとユキナの姿が。


「セドリックとセラは?」

「先にギルドに行ってるみたいですよ、先ほどリサさんが二人が入っていく姿を見たらしいです。」

「なら、俺たちも早く行こうぜ。一年ぶりの再会だからな。」



スタッ、スタッ、スタッ。

四人はギルドへ入る。


道中賑やかな会話をしながら。



「おっ、やっと来たね。」

「遅いよみんな!セラ達待ちくたびれたよ〜。」

「遅刻はしてないから許してくれよ、それで、俺たちが必要なクエストってのは?」

「これみたいだ。」


ペラッ。

一枚の紙をテーブルの上に広げる。


「豹変したモンスターの群れを撃退、ね。確かに、この近くのモンスターは最近暴れてるらしいからな、俺たちが適任か。」

「みんな大丈夫?体鈍ってるんじゃない?」

「そんなことないですよ!兄さんと同じ行動してたら、なかなか重労働もしてきましたし!」

「目的地まで距離もあるね、僕たちも体を慣らしながら向かおうか。」


スタッ。


ホープの六人は再び集まった。

その目は、今までと変わらない真っ直ぐなものだった。




そして、明るい太陽が彫られたペンダントを各々つけている。



「それじゃあ一年ぶりのホープ、再稼働だ!」

「了解!」



ホープはクエストの目的地に向け歩き始めた。





彼らは、世界を救いこれからの未来をつくる最強の戦士。

その姿は、全ての人の希望となっていた。


成り上がった彼らの進む道は、まだまだ続くのであった。







同時刻。

とある場所。



「なあ、ヴァルハラも飽きてこないか?」

「そうだな、そろそろ他の世界を奪いに行くか、兄弟。」

「なら、最近面白そうな国を見つけたぞ。」

「どこだ、それは?」


ニヤリッ。

黒いモヤモヤな存在が白い牙をのぞかせる。


面白そうな奴がいそうだぜ。」

「じゃあ、次はそこを潰すか。準備をするぞ、俺に続け。」

「了解、




不穏な言葉。



この会話をスノウ達はまだ知る由もない。




最終章 完

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