第百九十二話 魔神の頭にあるもの
「なるほど、これが私の力か。久しぶりなものでしっくりこんな。」
「なんじゃ、自分の力も使いこなせんのか、トールよ。」
「うん、貴様は、グラニか。なるほど、虎の女と交代したということか。」
「まあの、この体はリサの大切な体、慎重に使わせてもらわねばな!」
シュンッ!
リサはトールに一直線。
「ふんっ、所詮は借り物の体!我ら神の真の力には勝てん!」
「そうかの?ワシはリサと共にあるからこそ、更に力を引き出せると思うがの! 翔け!
シュバーンッ!
ガギーンッ!
炎を纏った長剣がトールを貫かんと飛んでいく。
「そんなものか、自らの力を投げ捨てるとはーー。」
「こっちが本命じゃ!
ボォォ!
ジャギンッ!ジャギンッ!
両手に炎の爪を作り出し、虎の引き裂きの如く降りかかる。
「うごぁ、なんという馬鹿力よ、フレイヤと似てるな。」
「あれと一緒にされるのはワシにとって侮辱じゃぞ?」
「そうか、ならあいつのほうが上ということにしておこう!
ボゴォォォ!!
雷を纏った風がリサに向け撃たれる。
「ふんっ!
ガォァ!!
シュンッ!
リサの咆哮で、嵐が消し飛ぶ。
「ガラ空きじゃ、グラニ!」
「ちっ!」
ガゴーンッ!
ズザーッ!
リサはトールの拳を受け止め、すこし吹き飛ばされる。
「ふうっ、女性の体に大きな傷を作らずに済んだかの。」
「いい反応だ、その体に慣れてるようだな。」
「当たり前じゃ、何年一緒にいると思っておる。」
「そんなに長くいたのに、なぜお前はこの世界を見限らない!見てきたはずだろ、人間の醜さを!」
バゴーンッ!
複数の雷がリサ目掛け放たれる。
「ふんっ、そんなの簡単じゃわい!人間は、一人一人が努力して世界を変えようとしているのでな!希望が持てるのじゃよ!」
「そんなことでオーディン様の邪魔をすると?ふざけたやつだ、我らがあいつらにやられたことを忘れたか!」
「しっかりと覚えとるわい、あいつらに侵略されてワシらの国は滅びた。」
リサの顔にシワがより、寂しさを物語る。
(どういうこと?グラニ達は誰かに国を滅ぼされたの?)
(……それは後で話そう。もう少しだけ、そこで見ててくれ。)
(分かった、けど、ちゃんと話してよ。あたし達は、相棒なんだから。)
(もちろんじゃ、待っとってくれ、リサよ。)
ガゴーンッ!ガゴーンッ!
二人の攻撃は激しさを増す。
「ならなぜ我らの力でこの国を取ろうとしない!やっと目の前に自分たちの手に収められる国があるんだぞ!」
「人間がワシらに何かしたか?アトリ様は、ワシらに手を差し伸べてくれたんじゃぞ!身寄りのない、右も左も分からない不安の中を照らしてくれたのはあのお方じゃ!」
「そのアトリは死んだ!ならば、その後を引き継がなくてはならないだろう!」
「それをなぜワシらがやろうとする!アトリ様が望んだか?オーディン様に託したか?違う、アトリ様はミーミル様のお手伝いをするようにワシらに言ったのじゃ!」
ガゴーンッ!
二人はお互いの攻撃ですこし吹き飛ぶ。
「だからなんだ!ミーミルに同じ力があるわけではない、アトリだからこそ我らを救ってくれたんだぞ!このままでは、我らが迫害される日も遠くない。」
「なぜ決めつける!ミーミル様のことを真正面から見たことがあるか?すこしでも知ろうとしたことはあるか?」
「その必要がないのだ、この世界は我々神が手にするのだから!」
ヒュンッ!ヒュンッ!
ピシッ、ピシッ。
リサの頬と足に傷ができる。
「自分のことだけを考えるな!相手に理解して欲しいのなら、なぜ自分たちで相手を知ろうとしないんじゃ!ワシらが世界を手に入れても、成功するとは限らない!」
「黙れ!人間に心も体も取り憑かれた神が!貴様のような邪魔なやつも、我らが消さなくてはな!」
ボゴォォォ!!
トールの周りに雷が降り注ぐ。
「一気に決めにきたか、リサ、力を借りるぞ!」
(うん、グラニのやりたいようにやって!)
ボォォ!
リサの長剣に火が纏われる。
「貴様のような反逆者は、ここで死ね!
「全てを燃やし尽くせ!
ガォァ!!
ヒューイッ!!
ゴォォ!!
火でできた鷹、虎、龍が突撃する。
「ふんっ、そんなもので!」
「まだまだこれからよ!」
ガゴーンッ!
雷で出来た十字の砲撃が、炎とぶつかる。
シューンッ!
炎の中に両手に火の爪を装備したリサが突撃する。
「はぁぁぁ!!」
ガゴーンッ!
雷撃をリサが斬り裂く。
「んなっ、そうくるとは!」
「これがワシらの力だ、その身で味わえ!」
ジャギンッ!ジャギンッ!
虎のような切り裂きが、トールを襲う。
「ごはっ!」
ドテンッ。
トールはその場に倒れ込む。
「なぜだ、なぜ勝てない。」
「それは、自分で考えるんじゃな。ワシらとお主らの違いをな。」
シューンッ。
「
リサは元の姿に戻る。
「はぁ、はぁ、我は死ぬのか。」
「……そうだね、でも、そろそろ休憩してもいいんじゃない?あんたも、疲れたでしょ?」
「……そうじゃな、後はこの世界の行末をゆっくり見ていようかの。虎の女よ、オーディン様と戦うなら気をつけよ、あのお方の抱えてるものは、ものすごく大きい。」
シュイーンッ。
トールは光の粒子となり、空高く消えていく。
「……そうだね、あんた達の王は一人で戦ってる、教えてくれてありがとう、ゆっくり休んで。」
ピキーンッ!
白いドアが生まれる。
「あたしは、あたしの意思で未来を見る。」
ガチャンッ。
スタッ、スタッ、スタッ。
リサはドアを開け外に出た。
リサvsトール
リサの勝利。
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