第百六十八話 望まぬ再会

スタッ、スタッ、スタッ。

六人に戻ったホープはヴィーンゴルヴを後にして、先に進んでいた。


「この先には何があるんだ?」

「アヤちゃんの情報だと、一つの小さい町になってるらしいですよ。そこなら、少しは休憩もできるはずと。」

「休憩できるとはしても、ここは敵地のど真ん中。僕たちが警戒を解く暇はなさそうだね。」


スタッ、スタッ、スタッ。

知らない道ではあるが、整備された道をホープは進む。


「お兄、サイファーはどうなったの?」

「ああ、あいつはメギンギョルズに取り込まれたよ。けど、あいつのおかげでアトリとオーディンが話してた記憶を覗くことができた。」

「アトリ様と話してた記憶?どんなものだったの?」

「まあ、簡単に言えばミーミルを支えようとしてオーディンは間違った選択をしたってことだ。」


ギリッ。

スノウの拳に力が籠る。


「オーディンはそこでも間違いを……。」

「ヒメノ達の方はどうだったんだ?」

「私たちの方は、ノーアトューンで戦ったオーガと遭遇しました。あと、オーディンが考えていることも聞くことができました。」

「オーディンは、この世界をより良いものとしようとしてる。けど、あたし達の記憶を消したり、ヘルクリスマスを起こしたりと間違いをたくさん犯してるけどね。」



ホープの中に少しの静寂が流れる。



「まあ、オーディンに直接会えばあいつのことも少しは分かれるだろう。少しでも早く、ヴァルハラに向かわないとな。」

「そうだね、けど、僕たちも少しずつ消耗してるから回復も忘れずに。」

「ああ、当たり前だ。」



数分歩くと、一つの門が見える。


「リサっ、あそこ見えるか?」

「任せて!えーとね、ビルスキルニルって書いてあるよ。町の名前かな?」

「ビルスキルニル……僕は聞いたことがある、たしか商業が盛んで、家屋など人がたくさんいる町だ。」

「てことは、グラズヘイムの主要都市ってところか。」


ホープはビルスキルニルに入場する。



「普通の町……って感じじゃありませんね。」

「ユキちゃんの言うとおりだね、静かすぎる。」

「いくら市民を避難させたにしても、この広さの住民をすべて移動させるのは難しいよな。てことは、家の中に隠れてるのか。」

「まあ、僕たちは争うつもりはない。少し情報を集めたら、先に進もうかーー。」


シュワーンッ。

闇のオーラがホープの目の前に現れる。



「くそっ、敵か!全員構えろ!」


チャキンッ!

六人は武器を構える。



「おうおう、そんなに警戒しないでくれよ。話もゆっくりできないじゃねえか。」


ズザッ、ズザッ。

中からはバルドルが現れた。


「てめえは、バルドル。」

「久しぶりだな、白狼。そして、父の敵、ホープ。」

「何しに来たの、わざわざセラ達に倒されに?」

「ふんっ、寝言は寝て言え。お前達には、特別に選択をさせてやる。」


ガシャンッ。

ドタンッ!

周りに点在する複数の家のドアが開く。



「なに?誰か来る?」

「っ!?みなさん見てください!あれは……。」


タッ、タッ、タッ。

家の中からは両手を縛られ、ロープを掴まれながら歩いて出てくる人間とゴブリンが。


それも一人や二人ではない、ぱっと数えられないほどの人数。



「これって、まさか!!」

「理解が早くて助かるよ、そう、こいつらは人質だよ。お前達が救うことができないな!」

「バルドル、何をするつもりですか!」


ヒメノの怒りの声が響く。


「そんなの簡単さ、こいつらはお前達の目の前で命を落とすことになる。理由は簡単、お前達が父に歯向かうからだ。」

「この人たちはこの戦いに何も関係ないだろ!これは、僕たちと君たち神同士の戦いだ、無駄な血を長すな!」

「無駄なものか!だから選択肢をやると言ってるんだ。」


チャキンッ!

ゴブリンは手に武器を構える。



「こいつらが助かるのは簡単、お前達がここで代わりに殺されることだ。」

「やっぱそうくるかよ。」

「まあ、言わなくても予想はついてただろうがな。けど、お前達はここで死ぬわけにはいかない。そう、こいつら以上に多くの命を背負ってるからな。」


グッ。

スノウの足に力が入る。


「おっと、やめとけよ白狼。いくらお前の速さでも、こいつら全員を助けるのは無理だ。まあ、ここで死ぬなら別だがな。」

「ゲス野郎が。」

「なんとでも言えよ、いいか!お前達は偽善者なんだ!命は平等とぬかしながら、救える命が多い方を選ぶ!


スサッ。

バルドルは手を上げる。


「さあ、何か対策を練られても厄介だ。選べよ、ホープ。ここで死ぬか、こいつらを殺して生き残るか。」

「くそっ、バルドル!」

「お前達は孤独なのさ!この地において、少数で攻め込んできた時点でお前達の理想は叶えられないのさ!」


シラーッ。

ホープは武器を捨てることができない。


彼らは、迷いの中にあった。



「はっ、やっぱり死ねないよな。そんじゃあ、目の前で助けられない命を見届けるんだな!」

「くそっ。」


チャキンッ!

複数のゴブリンは斧や槍を持ち上げる。



人質に武器が到達するまで、あと30cm。


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