第百五十四話 彼女の役割
「久しぶり、ユッキーちゃん。かれこれ10年以上会えてなかったね。」
「そんな、本当に!?嘘じゃ、ないよね……。」
「本当だよ。それとも、わたしが幽霊にでも見える?」
ニコッ。
アヤセはユキナに笑みを送る。
「ううん、この懐かしい感じ、温かさ、アヤちゃんだよね。本当に良かった、生きててくれて。」
「ごめんね、長い間心配をかけて。わたしも会えて心から嬉しいよ。」
バサッ。
ユキナをアヤセが前から抱きしめる。
「よかった、本当に、よかった……。生きててくれて、ありがとう。」
「よしよし、そんな泣かないで、ちゃんとまた会えたんだから。」
二人は少しの間再会できたことを喜びあった。
それもそのはず。
二人は小さい頃に仲良かったのはもちろん、アヤセは目の前で馬車に轢かれ、そのままグラズヘイムの病院に送られた。
そこからというもの、お互いに連絡を取る手段はなく10年以上の時を経て出会えたのだから。
「なあ、お前は確かユキナの友達の。」
「うん、アヤセだよ。スノウくん、10年以上ぶりにあなたにも会えた。やっぱりわたしは幸福な人間かもね。」
「少し混乱してるのも事実なんだ、簡単でいいからこの状況の説明してもらってもいいか?」
「うん、時間も惜しいから簡単に話すね。」
アヤセはホープに対し自分達のことと、これからについて話し始めた。
彼女たち三人組は、名前をホワイト隊といい、グラズヘイムにて密かに反乱軍の手伝いをしている精鋭チーム。
これまで王国の情報などを反乱軍側に提供して、少しでもオーディンに破壊される町や村を減らしてきた存在。
いわば、人間側のホープが結成される前の人間の希望となっていた存在。
そんなホワイト隊に出された任務が、グラズヘイムまでスノウ達ホープを導くこと。
既にグラズヘイムについて詳しい彼女たちなら、ホープに力になれると判断した。
そして、戦う術を身につけている彼女達だからこそ適任とされたのであった。
「なるほどな、でも疑問なところもある。誰がホワイト隊に依頼を出してるんだ?」
「それは、クレイトスさんのお弟子さんである、アトレウスさんですよ。」
「え!?アトレウスさんが!?」
リサの大きな声が響き渡る。
「そうです、あの方から私たちに修行や任務についてお手伝いしてもらってるんです。特に、数年かけての修行はかなりしんどかったですが……。」
「マジかよ、割と前にアトレウスに会ってたのに、俺たちはアヤセたちの存在すら知らされてなかったぞ。」
「それは、わたし達がグラズヘイムにいると分かったら単独で動いちゃうかもしれないって考えてたんじゃないですかね?」
「まあ、出会ったばかりの俺たちだったらそもそも信じることもしなかったかもしれないしな。結果的に、正しい判断なのか?」
ズザッ。
改めてホープとホワイト隊が向き合う。
「それじゃあ、アヤセ。ここから先の道案内は任せていいのか?」
「はい、わたし達が皆さんを迅速にお連れします。ですが、敵もたくさん出てくることには変わりありませんので、警戒だけは怠らずに。」
「ありがとうございます、アヤセさん。とても助かります。」
スタッ、スタッ、スタッ。
ホープはホワイト隊と共にまずはヴィーンゴルヴへと向かう。
「そうだ、アヤセくん。分かればでいいんだが、ヴィーンゴルヴとはどういう場所なのか知ってるかい?」
「わたし達も実際に行ったことはないのですが、王国側の重要拠点なのには間違いありません。武器や防具の保管、オークやゴブリンを呼び起こすクリスタルもあるとか。」
「たしかに、そこはセラ達が潰したほうがいいのは間違いないね。クリスタルが全て放たれたらこの国が大変だ。」
ズサッ。
アヤセはいきなり足を止める。
「あの、ホープの皆さん、一つお聞きしてもいいですか?」
「どうしたの、アヤちゃん?」
クルッ。
ホープの全員とアヤセが向き合う。
「皆さんは、怖くないのですか?」
真剣な眼差しでアヤセは問いかける。
彼女の質問は当たり前のものだ。
彼らはまだ20歳にも満たない子供達。
そんな彼らは、いつ死んでもおかしくない場所に世界を救うために向かおうとしている。
普通の感覚であれば、命惜しさに逃げ出すであろう。
しかし
ホープ六人の目はとても力強いものであった。
「そんなの、怖いに決まってるだろ。」
「え!?」
アヤセの顔には驚きの表情。
「考えてみろよ、死と隣り合わせの戦場で一度しかないチャンスを確実に成功させなきゃいけない。プレッシャーもあるし、死にたくないって気持ちもあるに決まってんだろ。」
「では、なぜあなた方の意志はそんなに強いのですか?その目には、この先にある恐怖に立ち向かうという固い意志を感じます。」
「なぜって。」
スタッ。
ホープの六人は、一度向かい合い頷き合う。
そして、
「そんなの、大切なものを失いたくないからだよ。」
「大切な、もの。それは、なんですか?」
彼らの強い意志を作り出す源は、いったい……。
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