第百四十一話 話し合い

スサーッ。

外は日が沈み、静かな風の音だけが聞こえる。


疲れきっていたホープの六人は、一人一人個室で疲れを癒していた。


「んー、なんか眠れないな。」


バサッ。

スタッ、スタッ、スタッ。

スノウはベッドから起き上がり、外へ出る。


サァー。

心地よい夜風にあたり、スノウはぼーっと突っ立っている。



「もうすぐ、オーディンと戦うのか。」


スノウの青い髪を、夜風がなびかせる。



「あ、兄さん?」

「ん?ヒメノか。どうした?」

「なんか、眠れなくて。兄さんもですか?」

「そんなところだ。」


スタッ、スタッ、スタッ。

ヒメノはスノウの隣に歩み寄る。


「ここからの夜空、とても綺麗ですね。」

「そうだな、これだけ見てたら本当に各地で争いが起きてるのか疑っちまうな。」

「たしかに、空はいつも落ち着いていて私たちのことも静かに眺めてくれてますね。」


二人は空を眺めながら、話を続ける。



「何考えてたんだ?」

「え?何でですか?」

「お互い疲れは溜まってるはずなのに、寝れないってことはこれからのことで何か考えてたんだろ?」

「あははっ、さすが兄さんはすごいですね。さすがは私たちのリーダー。」


ヒメノは軽く俯き、本音を語りだす。


「私、正直怖いんです。本当にオーディンを倒せるのか、倒した先に私たちが願う未来があるのか。」

「まあ、そうだよな。……けど、未来なんてのは誰かが俺らに作ってくれるものじゃない。まずは、俺たちがが大切なんじゃねえかな。」

「覚悟、ですか。兄さんは出来てますか?」

「うーん、どうだろうな。少なくとも、この世界の奴ら全員に共感されるものは持ち合わせてないな。」


スサッ。

スノウはヒメノを見つめる。



「けど、俺は。その覚悟だけは、何があっても崩れないな。」

「大切なものって、今まで出会った人たちとか、私たちについてきてくれる人たちとかですか?」

「それもそうだな。あとは、もっと近くにあるもの。」


ファサッ。

スノウの手のひらが、ヒメノの頭の上に乗る。


「お前だよ、ヒメノ。」

「っーー!?」

「当たり前だろ。俺の妹を手離すつもりは到底ない。まあ、それはリサ、ユキナ、セドリック、セラにも言えることか。」

「そ、そうですよね!ありがとうございます!」


バサッ。

ヒメノは顔を赤くし、背中を向ける。


「どうした?」

「い、いえ。お気になさらず。」

「いや、でもーー。」

「いいから!私はもう寝ますから!」


タッ、タッ、タッ。


小走りでスノウから離れる。

そして、ふわりと振り返る。


「あ、おい!」

「兄さん、ちゃんと覚えておいてくださいね。私も、兄さんから離れるつもりはありませんから!」

「あ、ああ。」


タッ、タッ、タッ。

ヒメノは部屋に戻って行った。


「な、なんだ?まあ、いっか。」


ピキーンッ!

スノウは何かを感じとる。


「何こそこそしてんだ?出てこいよ。」

「さすが、白狼の子だな。」

「ミーミル、あんたも寝れないのか?」

「いや、君に少し相談がしたくてな。」


スタッ、スタッ、スタッ。

ミーミルはスノウの隣に歩み寄る。


「俺に相談?なんだ?」

「白狼の子は、なぜそんなに?」

「俺が強い?」

「ああ、私は君ほど真っ直ぐで、仲間のために全てを賭けることが出来る者を知らない。」


ミーミルはスノウを見つめる。


「これまで君たちの成果は多く聞いてきた。ある時は町を救い、五神を何度も退け、多くの人を救ってきたと。そのリーダーである白狼の子は、とても強いのだと感じているのだ。」

「俺が、強い、ね。」

「どうかしたのか?」


スーッ、ハーッ。

スノウは深呼吸をする。


「なあ、ミーミル、よく聞け。俺はな、どこにでもいるような一人の弱者なんだよ。」

「な、何を言ってる!何人もの人間を救い、皆の希望となっている白狼の子が弱者なわけーー。」

「その分、たくさんの救えなかった命もあった。」

「っ!?」


スノウは真剣な眼差しでミーミルを見つめる。



「人間ってのはさ、どんな奴でも。一人でできることなんて、たかが知れてる。」

「では、なぜ君は強い?なぜ力を持っている?」

「そうだな、簡単に言えば、かな。」

「大切なもの?」


スノウは自分の手を見る。


「どれだけ自分を強いと言い聞かせて、いくつものことをやってきても、助けられない命はそこにはあった。」

「でも、全てを助けることなんて不可能では。」

「本当にそうか?まあ、俺たちホープだけじゃ無理だな。そんじゃあ、ミーミル。あんたが作った世界で全員が協力したらどうだ?」

「そ、それは……。でも、私に王になる資格はーー。」


グンッ!

スノウがミーミルに迫る。


「誰がそんなこと決めた?」

「え?」

「お前は考えすぎだ。アトリの息子だとか、資格がないだとか、そんなことは俺にはどうでもいい。お前が。」

「は、白狼の子よ……。」



ずっと暗い顔をしていたミーミルの顔に、少しの光が差し込んだ。


ミーミルは、どのような選択をするのか。

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