第百三十二話 過去と今
「ここで倒す!
「毒技か、珍しいとは思うけど、俺には関係ねえ!
ジュワッ!
ビキビキビキッ!
毒でコーティングされたダガーを氷を纏った刀で迎え打つ。
「毒ごと凍らすなんて、厄介な人ですね!」
「てめえに言われたくはねえよ!お前も鹿流派のやつと同じか!」
ガギーンッ!ガギーンッ!
二人は激しいぶつかり合いを繰り広げる。
「本当に、あなたがセラリウムの兄?似ても似つかないみたいですけど。」
「そりゃどうも。あいつにそっくりと言われても嬉しくねえからな!おらぁ!!」
ガゴーンッ!
ズザーッ!
スノウの怒りの一撃は、ミユウを後ずさらせる。
「くっ、こんなところでーー。」
「よそ見してんじゃねえよ!
ジャキンッ!ジャキンッ!
氷の斬撃が突き進む。
「こんなもので!」
ガギーンッ!ガギーンッ!
ダガーの一撃で氷の斬撃が砕かれる。
バッ!
前を見ると、スノウの姿はない。
「な、どこに!?」
「後ろだよ、蛇使い!
「なにーー。」
ガギーンッ!
ダガーでなんとか防ぐが、体勢を崩す。
「これが、ホープのリーダーの力。」
「まさか、俺だけが強いって思ってんのか?それは大きな勘違いだ!」
ドゴーンッ!
スノウ達の後方では、サイクロプスが大きな音を立て倒れる。
そこには、ヒメノ達の余裕のある姿。
「な、サイクロプスが押されてる!?」
「当たり前だ、なんせ俺たちが最強の戦士だ。舐めてくれるなよ!!
バキバキバキッ!
刀を地面に刺し、氷の柱が生まれる。
「くっ!じゃまだ! 蛇派三式ーー。」
「させるかよ!
ジャギーンッ!
作り出した氷ごと斬り裂き、ミユウを吹き飛ばす。
「うはっ!」
ズザーッ!
数m地面を転がる。
その光景をセラはしっかり目に焼き付けていた。
「お兄、セラのために本気で怒ってくれてる。けど、セラのことを悲しませないために、ミユウを死なせる戦い方をしていない。……はぁ、妹に優しいね、セラがお兄の恋愛対象になれなくて良かった。」
ガタッ、ガタッ。
ミユウは傷を負いながらも立ち上がる。
「何が狙いですか、ふざけてるのですか、あなたは。本当の力を使えば、私なんて簡単に殺せるはず。なのに、なぜそうしない!!」
ブンッ!
今までのどの技よりもトップスピードで迫る。
「はっ、そんなことか。俺はな、誓ったんだよ!」
バギーンッ!
二人の武器がぶつかり合う。
「戦場で誓うこと?そんなの、ターゲットを確実に排除する。それ以外に何があるというのですか!」
「あるに決まってんだろ!目的を達成することは、大事なことさ。……けどな、その先に何があるか考えたことあるか?」
「なに!?」
「ねえみたいだな、お前は。
ガチガチガチッ!
刀から発生した氷がダガーを持つ手ごと凍らせ、動けなくする。
「くっ、なにを!」
「俺はな、仲間に無駄な涙を流させたくない。目的を完遂することは、任務において何よりも大切かもしれねえ。けどよ、それで大切な仲間が苦しんだら?悲しんだら?その任務は本当に正しいのか?」
「あ、当たり前だ!なんと言っても私の任務は、我らの国王、オーディン様がお決めになられたこと!あのお方のお言葉は絶対だ!何よりも正しい!」
「それが、本当にお前の気持ちなのか?お前の心は、本当に納得してるのか?」
ガギーンッ!
氷を砕き、二人は距離をとる。
「当たり前だ!私は、私の意思であなた達ホープを排除する!それこそが、私の決意ーー。」
「バカが!さっきから上部ばかり語ってんじゃねえよ!」
「っ!?」
「自分が心から正しいと感じてるなら、固い決意ができてるなら、なんでお前の手は、俺に向けられたその武器は、震えてるんだ?」
カタカタカタッ。
ミユウの手は震える。
それは、恐怖したのではない、武者震いでもない、何かに抗おうとする姿であった。
「こ、これはーー。」
「迷ってるんじゃないのか?オーディンがとか、誰かの命令だからとかそんなの関係ねえ!お前の心がお前のやろうとしてる事に抗ってるんじゃないのか!!」
「っ……。」
カチャッ。
ミユウは武器を下ろす。
明らかに戦闘態勢ではなくなる。
ズサッ。タッ、タッ。
セラは立ち上がり、ミユウの方へ歩く。
「ミユウ。」
「……、セラちゃん……っ!?」
ガタッ、ガタッ。
ミユウは突然頭を抱え苦しみ始める。
「おい、どうした!」
「うっ、あっ、ごめん、なさい。二人には、ひどいことを、してしまった。」
「ねえ、ミユウ、ミユウなんでしょ?」
「セラちゃん、ごめん、なさい。私はーー。」
ブワーンッ。
突如闇のオーラがミユウのそばに現れる。
「っ!?待って!!」
ザッ!
セラは勢いよく駆け出し、精一杯手を伸ばす。
「……っ!!セラちゃんーー。」
その手を掴もうとミユウも手を伸ばす。
シュワンッ。
しかし、無慈悲にもミユウは闇の中に吸い込まれた。
「うそ、なんでなの、ミユウ……。」
セラはその場に立ち尽くす。
彼女の拳は自分の非力さに震える。
「セラ……。」
「お兄……。」
スサッ。
スノウがセラの拳を両手で優しく覆う。
「ねえ、お兄。セラはなんで、こんなに弱いの?なんで、誰も助けられないの?」
ギリッ。
ポトッ。ポトッ。
セラの拳にさらに力がこもり、血が地面に垂れる。
「おいおい、そんな力入れたら俺の大切な妹の手が傷ついちまう、もったいないぞ。」
優しく包んだスノウの手で、セラの力んだ拳がゆっくりと解かれる。
「それとなセラ、一つ勘違いしてるぞ。」
「勘違い?」
「ああ、お前は弱いんじゃない。優しいんだ。だから、自分を責めるな。」
「でも、セラは……。」
助けられなかったミユウのことを悔やむ。
グイッ。
スノウはセラの顔を覗き込む。
「俺が証人だ。文句あるか?」
「っ……、ううん、ない。ごめん、少し疲れちゃった。」
「ああ、お疲れ様。」
バサッ。
セラはスノウにもたれかかる。
彼らの敵は、本当に敵なのか。
同じ流派使いのぶつかり合い。
彼らを苦しめる原因は、尽きることを知らない。
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