第百十五話 重荷の正体
「はっはっはっ、やはりお前はそうすると思ったよ、リーンベル隊長。」
「バルドル、やはり来てたのか!」
「当たり前だ、いつ裏切るか分からない奴を野放しには出来ねえからな。」
ホワンッ、ホワンッ。
バルドルはフワフワと宙を浮く。
「お前がバルドル、オーディンの息子か!」
「ああ、初めてお目にかかるな、ホープ。そして、リーダーの白狼。」
バルドル……オーディンの息子で、五神を超える力を持つ神。
その身体は2mは超える大柄、片目を眼帯で隠し全身黒い服で覆われている。
ゴツい体つきに、右手には大きな杖を持つ。
「なんでここに来たんだ、俺たちに倒されに来てくれたのか?」
「寝ぼけたことを。俺が来たのは、リーンベル隊長のためさ、なあ、隊長さん?」
「くっ、バルドル!」
「おっと、怒らないでくれよ。悪いのは、お前なんだからな!」
シュワーンッ。
闇の中から四角いカゴのような何かが取り出される。
そのカゴの中には、一人の女性が入っていた。
「っ!?姉さん!」
「っ、セド!」
その女性はセドリックの名前を叫ぶ。
「姉さん!?セドリック、お前もしかしてーー。」
「ああ、そうさ!リーンベルの大切な人、彼の実の姉であり王国で捕らえている人質、ハルカ・リーンベルがこいつさ!」
「うっ。姉さん……。」
セドリックは力弱くハルカを見上げる。
「てめえ、セドリックの姉をどうする気だ!」
「簡単なことだ、こいつの解放条件は、お前たちホープの破滅。まあ、最悪一人でも殺してたら解放はしてやったんだがな。」
「まさか、そのために俺たちと共に行動を?でも、俺たちを殺せる機会なんて何度もあったはずだ。」
「すまない、スノウ。僕は、ビフレストで出会うまでは君たちを倒す方法だけを考えていたんだ。」
セドリックはスノウに目線を移す。
「でも、君と、ホープのみんなと話すことで、君たちがこの世界に必要な存在だと気付いてしまった。僕のやろうとしていることの愚かさを、肌で感じた。」
「だから、一人で背負ってたのか。」
「……ああ。姉さんを助けたい、けど、君たちにも死んでほしくない、僕は選ぶことができなかった。」
ボワンッ!ボワンッ!
バルドルは闇のオーブを二つ生み出す。
そして、闇のオーブによりハルカは両手を拘束された状態で空を浮かぶ。
まるで、これから処刑される人であるかのように。
「おい!何を!」
「これは契約なのさ、任務に失敗したのならまだしも自分から任務を放棄したんだ。その償いは、受けてもらわねえとな。」
「う、セド。」
ハルカは弱々しい声の中に、どこかホッとしている部分を感じ取れる。
「さあ、最後の時間だ。何か言いたいことはあるか?」
「てめえ、ふざけんーー。」
「おっと、動くなよ。てめえら一人でも動いたら、その瞬間こいつの頭が吹き飛ぶことになる。」
「ちっ!」
スノウは動くことができない。
それは、他のホープのメンバーも同じ。
「ねえ、セド。」
「姉さん!……ごめんなさい、僕は。」
「いいのよ、セド。やっと、心から笑える仲間に出会えたんだね。」
「姉さん……。」
ギリッ。ポトッ。
セドリックは歯に力が入り、涙もこぼす。
「ごめんね、セド。あたしのせいで、長い間苦しめてしまった。だから、悔やまないで。セドはセドの道を進んで。」
「そんな、姉さん!」
「っ、お願いね!」
ニコッ。
ハルカは満面の笑みを向ける。
「さあ、お別れの時間だ!」
「っ!姉さん!!」
シュンッ!
闇の剣がハルカの頭上に現れる。
「リーンベル、自分の後悔を墓場まで引きずるんだな!」
ブンッ!
闇の剣が振り下ろされる。
「く、くそぉぉ!!!!!」
セドリックの叫びが鳴り響く
これは、コンマ数秒の出来事。
スノウは、全てを信じていた。
だからこそ、諦めはしなかった。
「っ!来い!スノトラ!!」
スノウの叫び声は、遠くまで響く。
「はい!
シュバンッ! ガギーンッ!
スノトラの風を切る高速の一撃が、ハルカに迫っていた闇の剣を弾き飛ばす。
「っ!?お前は、ヴァルキュリアのーー。」
「バルドル!あなたは許しません!」
「お前如きに何が出来る!!」
「いえ、私だけではありません!」
ピキーンッ!
スノウはヒメノに
「ヒメノ!合わせろ!」
「はい!
シュンッ!シュンッ!
スノウとヒメノは一度瞬きする間に、地上から15mはあるだろう位置にいる、バルドルの目の前に迫っていた。
「なっ!?」
「遅いんだよ!クズ野郎!
「あなたは、倒す!
バギーンッ! カキーンッ!
全てを凍えさす氷の刃と、全てを切り裂く足蹴りがバルドルを襲う。
「ぐっ!お前ら!」
「まだだ!」
ピキーンッ!
スノウは、リサとユキナにも
「おっけー!
「分かりました!
ドゴーンッ!
二人も力を覚醒させる。
「
「私の手となれ!
ボァァ!! シュバーンッ!
鷲の形をした全てを焼き払う炎と、鮫の形をした斬撃が二つの黒いオーブを貫く。
パリインッ!
オーブは砕け散る。
「うわぁ!」
ザァァー。
ハルカは地面に向け落ち始める。
「この!お前はここで死ね!」
シュインッ!
もう一つ闇の剣が落ちゆくハルカ目掛け投射される。
「っ!?セドリック!お前の姉さんを!」
「姉さん!!」
ダダダダダッ!
全速力で走るが、闇の剣がハルカに届く方が早い。
「くそっ、まだーー。」
「
バリバリバリッ! パキンッ!
雷の怒号のような斬撃が、闇の剣を砕く。
「っ!?セラくん!」
「行って!セドくんの手で、お姉さんを!」
「ああ、分かった!姉さんを助けるためなら、何も迷わない!
シュイーンッ!
セドリックの体を今まで見たことない明るいオーラが纏う。
そのスピードは、スノウにも劣らない。
「っ、セド!」
「姉さん!」
二人は手を伸ばし合う。
果たして、二人の運命は。
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