第十八章 英雄は選択する

第百九話 選択、久しぶりの再会

スタッ、スタッ、スタッ。

ホープの五人とスノトラはフォールクヴァングに歩を進めていた。


「ここからフォールクヴァングまで、後一時間くらいか。」

「そうですね、兄さん、少し休憩しましょうか。先を急ぎ過ぎて、空回りしてはいけません。」

「そうだな、みんな、休憩するぞ。」


ドサッ、バサッ。

スノウ達はヒメノが淹れたお茶を飲みながら、一息つく。


「うん、美味しい。これが、王国でも飲んでいる同じお茶なのか?」

「はい!熱いお湯ではなく、少し低い温度のお湯で淹れるのがいいみたいで!」

「なるほどな、これはヴァルキュリア隊のみんなにも飲ませてあげたい。」


スノトラはヒメノの料理センスの高さに驚く。


「ねえねえ、お兄。今気づいたんだけどさ……。」

「なんだ?」


セラがスノウに耳打ちする。


「今のこの状況、ってやつじゃない?」

「ぶはっ!」


スノウはむせかえる。


「な、なんだいきなり!」

「えー、だってセドくんが一時的にいない今、女の子がこんなにお兄の近くにいるんだし、もしかしたらアタックしてくる人がいるかも?」

「冗談はよせ。俺たちは長い付き合いのだ。そんな感情を抱くやつがいるとは思えない。」


バサッ。

スノウは立ち上がり、軽く体を動かす。


「はぁー、これだからお兄は。確かに、仲間としては心から信頼しているけど、その先の関係になりたい人もいるんだよ。だって、あたし達は最強の戦士でもあり、なんだよ。」


セラはスノウを遠くから見つめる。

その背中は、いつも通り逞しい姿のまま。


「まったく、あの鈍感なお兄に気付かせてあげるのは、。……でもね、ホープの女の子達はいつも本気だよ。お兄も、覚悟しておいてね。」


スサッ。

タッ、タッ、タッ。


セラはヒメノ達のところの会話に混じる。


そこで開かれていた女子会は、とても賑やかであった。


「スノトラさんも料理するんですね!今度一緒に作りましょうよ!」

「あ、ああ、ぜひともお願いするよ、ヒメノさん。」

「スノトラさんって背が高いしかっこいいし、女子にモテそうですね!良いな〜」

「そ、そんな、ユキナさん、そんなに褒められても……。」


いつもとは違うパーティメンバーの雰囲気に、スノトラは少し戸惑う。


ヴァルキュリア隊では、このような賑やかさはないのだから。


ヴァルキュリア隊の休憩といえば、皆がバラバラなことをして一体感などまったくない。

いわば、パーティとは名ばかりの個人の集合体なのだ。



「スノトラちゃん、どうしたの?何か困ってるように見えますよ?」

「すみません、セラさん。このような楽しい空間を経験したのが、久しぶりだったもので。少し、戸惑ってしまいました。」

「そうなの?セラ達はいつもこんな感じだから、気を遣わせちゃったらごめんなさい。」

「いえ!私もとても楽しいですし、憧れるなって思って。」


スノトラの目は少し輝きを取り戻す。

その分、今までの生活の苦しさがよく分かってしまう。



「だったら、いつでもあたし達のところにおいでよ!」

「え?ですが、私たちはヴァルキュリア隊とホープという別の存在ーー。」

「そんな堅いことはいいの!スノチンとあたし達がなんだよ!それとも、スノチンはホープと一緒にいるのが嫌?」

「そんなわけありません!こんな温かい場所、叶うならいつでもいたいくらいです!……ですが、私にはヴァルキュリア隊が……。」


スノトラは少し暗い顔をする。

彼女は選ぼうとしているのだ。


どちらかを得るために、どちらかを捨てようと。



しかし、その迷いをスノウが断ち切る。


「本当に堅物だな、スノトラ。」

「ちょっと!お兄!」

「いえ、スノウさんの言う通りです。私は、よく柔軟性がないと言われてます。今も、どうすればいいか分からなくてーー。」

「そんなの、。ヴァルキュリア隊だとか、ホープだとか、そんなのは俺がどうにでもしてやる。今のお前は、どうしたいんだ?」


スサッ。

スノウはスノトラの前にしゃがみ込む。


スノウとスノトラの目が合う。



「私は……私は、あなた達と共にいたいです。そして、セドリック隊長とも離れたくない。これは、欲張りでしょうか?」

「そのくらい欲張ってもいいだろ。それが強情だとか、贅沢だとか、責める奴がいたらかならず俺に言え。。」

「っ!?」


スノトラはまっすぐ見つめるスノウから目を離せない。


それもそのはず。初めて言われたのだ。



守ってくれると。



スノウの言葉はスノトラを救った。


「ありがとうございます、スノウさん。……ふふっ、隊長が明るくなった理由が、少し分かったような気がします。」

「何だよそれ、あいつも堅物だけど、割と明るい方だと思うぞ。」

「そう言ってもらえて、隊員としても嬉しいです。ただ、スノウさんは少し勉強した方がいいですね。」

「何をだ?」


スノウは周りを見渡す。

セラを除く女子からの視線が痛いほど刺さる。



「最強の戦士でも、女性の扱いは学ばなかったみたいですね。誰にでも優しくしてたら、その内痛い目にあいますよ。」

「さ、さーて!そろそろ歩き始めるか!」


スタッ、スタッ、スタッ。

スノウは一人歩き始める。


「はぁ、お兄はまたやらかして。無意識って、一番怖いね。」

他の五人もスノウの後を追う。




そして、フォールクヴァングに辿り着く。


「おーい!ハンク!」

「んっ?おお!ホープ達か!」


スノウ達は久しぶりにフォールクヴァングで再開を果たした。

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