第百七話 王国会議

ここはヴァルハラの中の王座の間。


オーディン・シンは椅子に座り、苦しそうに呼吸をする。



「オーディン様、お加減はいかがですか?」

「うむ、良くはないな。」

トールがオーディンに声をかける。


オーディンの体調が悪いのも理由は単純。


五神の受けたダメージは全て、オーディンに跳ね返ってくるのだ。


つまり、手足を切り落とされた痛みはオーディンも同じく受けているのだ。


「今日の会議へのご出席はいかがされますか?」

「ここで情報だけを聞き取ることにする。お前たちに首尾は任せる。」

「かしこまりました。」


スタッ、スタッ、スタッ。

トールは部屋から出ていく。


「げほっ、げほっ。さすがはアトリの遺産だな。……ホープ、必ずや我が手に収めたいものだ。」



オーディンに向け陽の光が差し込んだ。

彼の目は、何かを企んでいるようだった。




ところ変わり、五神とバルドルが集まっている。


そこには大きなテーブルが配置されており、それを囲むように位置する。



「今日は何の会議ですか?全員が集められるなんて。」

「イズンちゃんも知らない!いきなり緊急招集何て珍しいよね!」

フレイとイズンが話し合う。


「俺様は体が鈍ってしょうがないんだ、早く終わらせてくれよ。」

「ぬしは自分のことしか考えられんのか、少しは静かにしていろ、フレイヤよ。」

「うるせえぞ、ロキ。お前みたいになんでも操って遊んでられるわけじゃねえんだよ。ゲスジジイ。」

フレイヤとロキは軽い口喧嘩。


「なぜ貴様らは平和にできんのだ?わしらが不甲斐ないせいで、オーディン様に余計なダメージを与えてることを忘れるな。」


スタッ、スタッ、スタッ。

トールが部屋に入ってくる。


「やっと来たか、んで、オーディン様は?俺たち五神だけか?」

「オーディン様は自室で聴かれるとのことだ。そして、もうひと方来て頂いた。」



スタッ、スタッ、スタッ。

もう一体が暗闇から出てくる。


「五神は揃っているな、であれば早速始めるとするか。」


その正体は、オーディンの息子、バルドルであった。


全身をローブで覆っていて、姿形がよく見えない。



「なんだ、バルドルちゃんも来たんですね。」

「その呼び方はやめろ、イズン。今日の俺の言葉は、我が父のオーディンの言葉と同義と捉えよ。」

「かしこまりましたわ、バルドル様。」


フサッ。

フレイが優しくお辞儀をする。


「それでは、会議を始める。」


バルドルの合図で五神の会議が始まった。



話された内容は二つ。


一つ目は、ホープ部隊について。



多くの力を取り戻し、最強の戦士に復活しつつある。

彼らの力は、現在の五神を超えるものとなっており、この先かなりの脅威になることは間違いない。


彼らホープに対抗する手段が必要となる。


それは、バルドルが作り出した力を得るためのクリスタル。


強化結晶バーニアクリスタル


これが五神の力を引き出す一つの手段である。



そして、あらゆるモンスターや人間の意識を乗っ取る兵器の完成。


他者干渉装置コントローラー


最近の実験でトロルや、ギガントモンスター、王国の兵士では成功している様子。


いずれはホープも操れるものに改造していく予定。


そしてもう一つ。セドリックの処遇について。



ホープと共に行動し、彼らからも信頼を受けておりこのまま王国に監禁しておくだけではもったいない。



そこで考えた案が彼のについてだ。


セドリックは光魔法に選ばれており、王国の中でも随一の光魔法使い。


そんな選ばれし魔法適正のあるセドリックに、を投与した場合どうなるのか。


彼が内側に闇を抱えつつ、ホープの中に潜入させられれば破滅させられるかもしれない。


というのも、本来は一人一つの魔法しか使うことはできない。

稀に、属性魔法である、火、氷、水、風、土、雷のどれか二つを使える者はいる。


ホープで言えば、ヒメノが例だ。


ただし、特殊な魔法である、光と闇は共存することは叶わない。

もし光がとても強い人間の中に、闇の力が入り込むとどうなるのか。


そして、この実験に対してセドリックは反対することはほぼ100%ない。

一つの理由が彼を縛り付けている。


仲間思いで有名でもあるホープが、行動を共にしたセドリックが暴走した場合、彼を殺すのか、それとも自分たちを犠牲にするのか。



どっちに転ぼうが、王国側にはメリットしかない。



まずは、セドリックを使った作戦を準備し始める。

その上で消耗したホープを破滅させようというのが、今回の会議で確定した。



「以上で、会議を終了する。各々、準備に取り掛かれよ。」


スタッ、スタッ、スタッ。

バルドルは部屋から出ていく。


「私たちの力を上昇させるクリスタルですか、早々に使う場面が来なければいいのですが。」

「フレイはびびってるのか?こんな力あるならすぐにでも使ってあいつらをぶっ殺してやるよ!」

「落ち着け、フレイヤ。これからの作戦が決まったばかりだろ。バルドル様に歯向かった後どうなるか言わずともわかるだろ?」

「……ちっ。つまんねえな。」


何にもびびらなそうなフレイヤが素直に引き下がった。


バルドルとは、一体何者なのだろうか。



そして翌日、監獄に入れられたセドリックにバルドルは会いに向かっていた。

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