第百六話 対面、真実

ガチャンッ。

朝の光がドアから差し込む。


ヴァルキュリア隊の拠点のドアがゆっくり開かれる。



「ヴァルキュリア隊、隊長のセドリック・リーンベルはこちらか?」

「隊長ですか?であれば、自室におられるかと。」


ギロッ。

スクルドは少し睨みつつ答える。


「分かった、リーンベル隊長に王国への出向命令が下された。同行を願いたい。」

「オーディン様からの招集ですか。……かしこまりました、今呼んでまいります。」


ガチャンッ。

スタッ、スタッ、スタッ。


セドリックの部屋のドアが開かれる。

入り口付近のザワザワ感に気付き、自分から出て来た。



「僕に用事だろ?拒むつもりもない、連れて行ってくれ。」

「はい、こちらへどうぞ。」


スタッ、スタッ、スタッ。

セドリックはドアに向かう。


ズザッ。

少し慌てた様子でスクルドがセドリックを呼び止める。


「隊長!……お気を付けて。」

「ああ、留守を頼む。スクルド隊員。」


スクルドの目には印象的なセドリックの顔が映る。

セドリックの顔はどこか不安と疑心に駆られていた。




ガチャ、ガチャ。

セドリックは兵士三人に連れられヴァルハラに向かう。



その後ろ姿をスクルドは見つめていた。


「以前と変わられたとは思いますが、まだ、一人で背負われてるのですね。私たちだけではなく、ホープの皆さんにも話せないほど大きなものを、。」


ギリッ。

自分の力の無さに、スクルドは拳に力が入っていた。




ところ変わり、セドリックはオーディン達が住む城、ヴァルハラに着いた。



「それでは、しばしこちらでお待ちください。」


バタンッ。

待合室のような部屋にセドリックは入れられる。


「ここで待たされるなんて、いつ以来だろうな。」


バサッ。

セドリックはソファに座る。


部屋はとても静か。

陽の光と、少しの隙間風が髪を揺らすのみ。



コンッ、コンッ、コンッ。

急にドアがノックされる。


(もう準備ができたのか?早すぎる気がする。)

「はい?どうぞ。」

「失礼します。」


ガチャンッ。

ドアがゆっくり開かれ、背の低い男の子が顔を出す。


「あの、ヴァルキュリア隊のセドリック・リーンベル隊長ですか?」

「ああ、そうだけど君は?」

「あ、は、初めまして。僕は、デュポン・メッゾの、マルクス・メッゾです。」

「っ!?デュポン前隊長の、弟さん?」


ガチャンッ。

驚きのあまり、セドリックはテーブルに足をぶつける。


「だ、大丈夫ですか!?」

「ああ、僕は平気だ。それより、君がデュポン前隊長の弟さんだったのか!遠いところに行ってて、グラズヘイムにはいないと聞いていたが。」

「それは……最近、。」

「解放!?」


バサッ。

マルクスの暗い表情を払拭するように、セドリックは手を頭に乗せる。


「君も、辛かったんだね。こっちにおいで。」

「はい、ありがとうございます。」


スタッ。

二人は隣同士でソファに座る。



「ねえ、マルクス君。君の立場について聞いてもいいかな?とても辛いことだとは思うんだけど……。」

「はい、それを伝えるためにここに来たんです。これが、兄から託された最後の仕事ですから。」

「最後の仕事!?まさか……、 解放ってどういうことだい?どこかに閉じ込められてたとか?」

「はい、僕はグラズヘイムのとある区画に閉じ込められていました。そこで、七年前から暮らしていたんです。」


マルクスは少し苦しそうな顔になる。


「なぜ、その区画に入れられたんだい?」

「詳しくは分かりませんが、兄がヴァルキュリア隊の隊長として活躍するためだとか言われた気がします。」

「ヴァルキュリア隊で活躍するため……まさかっ!!」


ガタッ!

セドリックは勢いよく立ち上がる。

何かを閃いたようだ。




「ねえ、マルクス君。君は最近その区画から解放されたのかい?」

「はい、五日前にグラズヘイムを自由に動けるようになりました。理由は分かりませんが、急に王国の兵士さん達が来てって言われて。」

「そのタイミング……、そうなのか……。」


セドリックは何かを言おうとして口を閉じる。



「リーンベル隊長、何か知りませんか?デュポン兄ちゃんとも全然会えなくて、どこにいるのかも分からなくて。」

「そ、それは……すまない、僕にも分からない。」


ギリッ。

セドリックは拳に力が入る。


苛立ちと悲しみを含み。



(マルクス君が解放されたのは、デュポン前隊長がに違いない。でも、これをマルクス君に伝えるべきなのか?……いや、今はその時ではないかもしれない。)


セドリックは心の中で迷いが生じる。


(そして、これがデュポン前隊長を変えてしまった原因。。だとしたら、僕も……。)



セドリックは事実を知るとともに、つらい現実を突きつけられていた。


ガチャンッ。

ドアが開かれる音が響く。


「っ!?マルクス君、隠れて。」

「は、はい。」


マルクスはソファの後ろに隠れる。


ガチャ、ガチャ。

一人の兵士が入ってくる。


「リーンベル隊長、こちらへ。」

「……分かった。」


スタッ、スタッ、スタッ。

セドリックは兵士に連れられ城の中へ。


彼は何を背負っているのだろうか。

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