第十七章 英雄は秘密を知る
第百五話 王国の出来事
時は少し戻り、グリトニルから帰還したセドリックの視点に移る。
シュワーンッ。
闇の空間からセドリックとヴァルキュリア隊のゲンドュルが出てくる。
セドリックにとって、グラズヘイムに久しぶりの帰還となった。
「隊長、私は王国へ報告に戻ります。それまで、我々の拠点でお待ちください。」
「分かった、よろしく頼む。」
「はっ。」
スタッ、スタッ、スタッ。
セドリックはヴァルキュリア隊の拠点に向かう。
(ホープと行動して僕は感じた。オーディン国王は嘘をついている。何故そんなことをするのか分からないが、突き止めなければならない。そして、あいつの手から救い出さないと……。)
ガチャンッ。
セドリックは拠点の扉を開ける。
「おー隊長さん、久しぶりのご帰還だな。」
椅子に座ったゲイルが迎える。
ビフレストで同行した時以来の再会だ。
「ああ、情報は得られたからな。」
「それは良かったな。てっきり、あいつら側に裏切ったのかと思ってたよ。」
スサーッ。
冷たい空気が流れる。
「つまらないこと言わないでください、ゲイルさん。」
スタッ、スタッ、スタッ。
奥の部屋から一人の戦乙女が歩いてくる。
「なんだよ、スクルド。お前も疑問だっただろ?ここ数週間連絡一つもなかったんだぜ?」
スクルド……ヴァルキュリア隊の隊員で、金色の甲冑にショートカットの水色の髪がとても映える。
美しい顔立ちで、腰の二本の剣がスマートさを生み出す。
「潜入任務遂行中の中で連絡するほどリスクを犯す必要はありません。それに、事実帰還されたではありませんか。」
「ああ、はいはい。すまなかったよ。」
ドサッ。
タッ、タッ、タッ。
ゲイルは外へと向かう。
「はあ、すみません、隊長。帰還されたばかりでお疲れだと思いますが。」
「いや、大丈夫だ。庇ってくれてありがとう、スクルド隊員。」
「いえ、事実を述べたまでです。こちらへどうぞ、紅茶を淹れます。」
カチャッ。チョロ、チョロ。
スクルドは丁寧に紅茶を淹れ、セドリックに差し出す。
「ありがとう。」
「いえ。」
ズズズッ。
その紅茶はセドリックの緊張をほぐし、疲れを少し回復させる。
「隊長、一つ伺っても良いですか?」
「構わないよ、なんだい?」
「何というか、変わられましたね、隊長。約一ヶ月前とは人が違うみたいに。」
ニコッ。
スクルドは微笑みながら話しかける。
「そうかい?僕は僕のままだと思うけど。」
「具体的に話すのは難しいですが、何というか、苦しそうではなくなりました。今までの隊長は、強い信念を持ちながらも何かに耐えてるように見えたので。」
「……そうだったのか。まあ、彼らと行動を共にすることで僕も何かしら影響を受けたのかもしれない。」
セドリックはスノウ達との行動を思い出す。
ビフレストでの出会い、ブレイザブリクでの共闘、五神から狙われるホープ、オーディンに対する疑問。
今までのセドリックは、王国の犬と言っても差し支えない。
しかし、今の彼は自分の意思を持ち、反発もする一人の戦士。
「たとえ僕が変わっていたとしても、君たち隊員を蔑ろにするつもりはない。安心してついてきてほしい。」
「もとよりそのつもりです。これからもご一緒させていただきます。」
ガチャッ。
スクルドはセドリックにお辞儀をする。
それは、彼女の決意の姿。
ダダダダダッ!
拠点の外から慌ただしい音がする。
「何だ?」
ガチャンッ!
セドリックがドアの方を向くと、勢いよく開かれた。
「えほっ、えほっ。くそ、あいつら調子に乗りやがって!」
「やはり、強いという噂は本当でしたか。」
二人の戦乙女は軽い傷を負い、帰還する。
「どうしました?シグルーン、ヒルドル。」
シグルーン……戦乙女の一人で、剣を扱う。
黒いロングの髪が特徴。少し荒々しい。
ヒルドル……戦乙女の一人で、槍を扱う。
黄色の髪をツインテールにして、鎧から外に出している。
この二人は、ヒミンビョルグでホープに撃退された二人だ。
「どうしたもこうしたも、ヒミンビョルグでホープの奴らに遭遇したんだ。あいつら、僕たちの町を襲いに来やがった!」
「シグルーンの言う通りです。私たちの書斎に行ったら、あの人たちが待ち伏せていました。国王様の言う通り、とんでもない奴らですよ!」
「そんな、彼らはーー。」
ガタッ。
セドリックが反論しそうになる。
サッ。
そのセドリックの前に手を伸ばし、スクルドが止める。
「ホープに出会ったら即連絡するのが約束では?信号弾は持っていたでしょ?」
「そんなこと関係あるか!目の前にターゲットがいたら仕留めるのが、僕らの仕事だろ!」
「現にそれで失敗してますよ?」
「くっ……。わーったよ!」
ダッ、ダッ、ダッ。
シグルーンは二階に登る。
「待ってください!シグルーン!」
タッ、タッ、タッ。
後ろからヒルドルも追う。
広い空間には、静かな空気が漂う。
「はあ、隊長。変わったとは申しましたが、身内のことになると冷静じゃなくなるのは変わりませんね。」
「……すまない、スクルド隊員。ただ、彼らがそんなことをするとは思えなくて。」
ガチャッ。
セドリックは両手で眼を塞ぐ。
「これは、認識の違いだと思います。私たちは、オーディン様の情報しか聞いていません。ですが、隊長はホープの本当の姿を見ている。そんな隊長が、羨ましくもあり、可哀想でもある。」
セドリックは迷いの中に閉じ込められていた。
そして、次の日。
王国から兵士が派遣されてきた。
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