第百一話 ヴァルキュリア隊とは
早すぎるセドリックの近況報告に、ホープの五人は驚きを隠せない。
「監禁!?何でだよ!あいつはちゃんと俺たちを監視して戻ったじゃねえか!」
「隊長は、バルドル様には逆らえない理由があるんだそうです。」
「バルドルって、オーディンの息子だよな?」
「はい、あの方と話してる時は特に隊長は苦しそうでした。」
兵士は俯く。
「そいつが、セドリックに何かしてるんだな。」
「詳しくは分かりませんが、可能性は高いかと。」
「何でセラ達に教えてくれるの?王国側からしたら、ホープは敵でしょ?」
「確かに、王国所属という身では許されないことをしてます。……ですが、あなた達に命を救ってもらった。そのような方を、敵として見ることはできません。」
セドリックの部下達の言葉に、ホープはしっかりと答える。
「俺たちは、セドリックを連れ戻すつもりだ。あいつが背負ってるもんは、俺たちで背負ってやる。あいつをホープに入れても、問題はないか?」
「……はい。隊長を、セドリック・リーンベルをお救いください。」
ガシャッ。
三人の兵士は頭を下げる。
「任せて!セラ達が必ず連れ戻すから!」
「ありがとうございます。」
タッタッタッ。
ホープの五人は書庫に向かう。
キィーッ。
扉を開けると、そこにはたくさんの資料と本が置いてあった。
壁一面の本棚には本がびっしりと、また、所々に資料閲覧用のスペースがある。
「ここが書庫か。かなりでかいな。」
「そりゃ、そうじゃよ。なんせ、この国の書物が集まっておるからな。」
タッタッタッ。
後ろに手を組み、歩み寄る老人が一人。
「あなたが、ラスさんでしょうか?」
「いかにも、わしはラス・ヒスト。この書庫の管理をしている。君たちが、ホープかい?」
「え、なぜ私たちが来ることをご存知で?」
「ヴァルキュリア隊の者から、セドリックくんが王国に捕まったと聞いてな。君らからは、彼と似た力を感じる。彼が話しておった、ホープではないかと思ってな。」
ラスは一つの紙を取り出す。
「これは?」
「君らに対する手配状じゃ。この国各地に国王が発令したのじゃ、君たちを捕まえるようにと。」
「っ!?ラスさん、セラ達を王国に追放する?」
「……いや、やめておこう。わしは、自分の目で見たものしか信じぬ。君たちは、国王の言う悪者には思えん。」
ビリリッ!
ラスは手配書を破り捨てる。
「ありがとうございます、ラスさん。」
「礼は良い。して、君たちは何をしにここへ?」
「私たちに、ヴァルキュリア隊のことについて教えてください。セドリックさん達は、この町によく通ってると耳にしました。」
「ほう、知ってどうする?」
ラスはホープ全員に問いかける。
「簡単だよ、セドリックを助け出す。あいつは、俺たちの仲間だからな。」
「……ふふっ、彼にも良い仲間がいるではないか。心配しすぎたかの。」
ドサッ。
ラスは椅子に腰掛ける。
「いいじゃろう。わしが知る限りを、君たちに伝えよう。」
ヴァルキュリア隊
オーディンが統治する体制に変化したのち、五神より自由に動かせる、そして各地の情報を得る手段として、ヴァルキュリア隊を結成した。
最初の隊長は、当時前国王アトリの護衛隊長を務めていた、デュポン・メッゾ。
ビフレストでスノウ達が戦った人間である。
そして、ヴァルキュリア隊には七人の
スノウ達も、ゲイル、スノトラ、ゲンドュルにはすでに会っている。
戦闘力は、トップと張り合えるぐらいである。
初めのうちはデュポンは国内外ともに評価が高く、行く行く町や村で歓迎された存在であった。
しかし、オーディンの王国体制がスタートして三年経過した時、デュポンは突如として人が変わったように利己的になってしまった。
それと同時に、彼の弟が行方不明となっていた。
関係性はわかっていないが、それから先ヴァルキュリア隊は衰退する一方であった。
それを見かねたオーディンは、デュポンをブレイザブリクに送り込み、新隊長としてヘルクリスマスが起きる二年前、当時16歳のセドリック・リーンベルを隊長に就任させた。
デュポンが就任した当時から、彼の元で修行していたセドリックは、とても真面目で再びヴァルキュリア隊の信頼を回復させていった。
しかし、そのセドリックも隊員に何かを隠すように王国では過ごしていたらしい。
詳しくは、ラスにも話していなかったが彼は苦しそうであったと。
そしてこの町、ヒミンビョルグは
ヒミンビョルグには彼女達の好物である、鹿肉が名産であることが大きな要因であった。
そのため、ヴァルキュリア隊は度々訪れては食を楽しみ、勉強する者、訓練をする者などそれぞれであった。
ヴァルキュリア隊の役割は、この国を統治すること。
各町や、村に服従を誓わせること。
そのためなら、武力行使もいとわない。
しかし、セドリックは一度も武力で解決をしなかった。
それがヴァルキュリア隊の中でも評価され、また、国の民からも支持されていた。
彼の信念は、多くの人に認められていた。
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