第十六章 英雄は仲間のことを知る
第九十九話 出発の時、衝突
グリトニルを無事に守ったホープの五人は、町長のルカと共にギルドに戻った。
町は大きな被害を受けることなく済んだ、セドリックを引き離されると共に。
「その、ヒミンビョルグには何があるんだ?」
「俺も噂程度にはなるんだが、その村でヴァルキュリア隊は結成されたらしいんだ。」
「結成?そもそも、ヴァルキュリア隊って何人いるんだ?」
「セドリック・リーンベルを隊長に置き、配下を七名連れてると聞いた。」
彼らはこれからのことについて話し合っていた。
「そういえば、あたし達も何人かは会ったことあるよね。ビフレストとかユーダリルで。」
「そうですね、友好的な人もいましたし彼女達もセドリックさんの元で活動しているなら、ヒミンビョルグで何か情報が手に入るかもしれませんね。」
「ユキナくんの言う通りだ。だからこそ、ホープには行ってみてもらいたいんだ。」
ガタッ。
ルカは立ち上がる。
「それともう一つ。君らの仲間を傷つけてしまい、申し訳なかった。」
バサッ。
ルカは頭を下げ謝罪する。
「……セドリックのことか。それについては、俺たちがどうこう言うことじゃない。だから、直接あいつに伝えてやってくれ、もう一度連れてくるから。」
スノウの真剣な眼差し。
覚悟を決めているようだ。
「分かった。待っているぞ。」
「ああ、必ず。」
「それとだ、俺たちもホープの味方になろう。」
突然の発言にホープの皆が驚く。
「え!?セラ達の反乱軍に入るってことですか!?」
「いや、反乱軍には入らない。まだ、反乱軍を信用したわけではないからな。……ただ、ホープは信じている。グリトニルは、ホープの味方にならせてくれ。」
「とてもありがたいことですが、もし王国に知られることがあったら……。」
ヒメノが心配そうに呟く。
「そんなこと気にする必要ねえよ、あいつらが好きに動く前に、俺たちが止める。もう、好き勝手にさせねえ。」
ガタッ。
スノウは立ち上がりルカに手を伸ばす。
「俺らを信じてくれるなら、セドリックのことも信じてくれるか?」
「ああ、彼に俺は命を救われた。命の恩人を信頼しないほど、俺は愚かではない。」
「分かった、これからよろしくな。」
ガシッ。
スノウとルカは固い握手をする。
「一緒に未来を見せてくれ、俺たちの希望達。」
「任せろ、約束だ。」
ホープはグリトニルを出る準備をする。
スタッ、スタッ、スタッ。
町の門にスノウとセラが先に集まる。
「早いなセラ、準備万端か?」
「もちろん!……ねえ、お兄。もしさ、セドくんと敵同士で戦うことになったらどうする?」
「……。」
スサーッ。
風が二人の髪を揺らす。
「俺は、あいつの意思を尊重する。……それがもし、俺たちとぶつかり合うってなら、俺はこの手でーー。」
「ストップ、お兄の悪い癖出てるよ。また一人でどうにかしようとしてるでしょ?」
「それは……ただ、これはリーダーのやるべき事じゃねえか?」
スノウとセラは見つめ合う。
その場は、誰も近寄りがたい雰囲気。
「確かに、お兄の考えはリーダーとしての責務を全うできると思うよ。でも、それはホープのリーダーとしてのお兄でしょ?」
「ああ、そうだ。もちろん、独断で動くつもりはない。セラ達の意見を聞いた上で、俺が実行するだけーー。」
「そうしたら、セラの双子の兄、スノウ・アクセプトの心はどうなるの?大切な仲間をその手で傷つけることに、何も動揺しない?」
「そ、それは……。」
「さっき約束したじゃん、連れてくるって。」
スノウは俯く。
その拳は、小さく震える。
「お兄は覚えてるか分からないけど、セラはかなり頑固なんだよ?だから、セラは何があってもセドくんに刀を向けない。たとえ、セラの行いが世界の理に背くことだったとしても。」
「そんなことして、この世界が壊されるようなことがあったらどうする?」
「お兄はさ、何のために戦ってるの?」
スノウとセラの静かな会話は続く。
「何のためって、そりゃ俺たちを信じてくれるやつとかセラ達を守るためだ。」
「そうだよね。じゃあ、世界の前に自分たちを守らないと。世界を守るなんて大それたこと、荷が重すぎるよ。」
「そうだけど、それじゃあ俺たちが費やした10年間が無駄になっちまう!」
「無駄になんてならないよ!」
ガシッ!
セラはスノウの両肩を両手で掴む。
二人の会話に熱が帯びる。
「無駄になるわけない!セラ達は、この10年間があったからこれまでたくさんの人を助けられた!これからもそう!」
「だけど!それだけじゃだめなんだ!この世界を救うことが、俺たちの役目なんだろ!だったら、それを阻むものに対して迷ってる場合じゃーー。」
「こんなに近くにいた大切な仲間を守れない今のセラ達じゃ、世界なんて救えないよ!今見るのは世界じゃない、大切な仲間を!セドくんを助けるために力を使うんだよ!!」
「っ!?」
セラの顔には薄らと涙が。
そう、力を持っていても、目の前にいたセドリックを守れなかったのだ。
その悔しさは、みんな平等に受けている。
「忘れないで、セラは、力がなくてお兄から離れることになった。それは、これから先一生忘れることはできない大きな傷。だから、セラは大切な仲間と離れないために力を使う。同じ痛みを、大切な仲間に受けてほしくない。」
「離れないため……。」
「そう。全部倒す倒さない、守る守らないで割り切らないでいい。白黒つけるより、灰色でいいから。セドくんが暴走したら、セラ達が止めてあげればいい。」
「セラ……。」
スノウは何も反論できない。
「お兄、さっき言ったよね?ここが、セドくんの家だって。だったら、いつでも受け入れる準備しとこうよ。セラは、セドくんを死なせたくない。」
「それは俺も同じだ!……まあ、たしかにセラのいう通りかもな。先生には悪いが、世界を救うなんてまだ俺には想像できない。手の届く範囲で、今は守らないとな。」
「そうだよ、命は一つしかない。セドくんの命がなくなったら、一生会えない。そんなこと、誰も望んでないよ。」
「分かった。ありがとうな、セラ。俺を守ってくれて。」
スノウはセラの頭を撫でる。
「当たり前じゃん!家族なんだもん!お兄はもちろん、血は繋がってなくても、ヒメちゃん、リっちゃん、ユキちゃん、セドくん、も家族だよ!だから、セラは絶対離れない。」
「ああ、そのために戦おう。俺たちの力は、大切なものを守るために使う。」
二人の中に固い決意と、覚悟が再確認された。
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