第九十六話 過去の姿、不穏な気配

「FC計画について!?教えてくれ!」

「構わないが、それは君たちの方が詳しいんじゃねえか?」

「……いや、俺たちにその時の記憶は残ってないんだ。オーディンによって、消されちまったからな。」

「っ!?……すまない、悪いことを聞いた。なら、俺が知る限りを話そう。」



FC計画……ヘルクリスマスへの対策として、当時の子供達を戦闘特化に鍛え上げたプラン。



各流派に分けられ、まずは知識をつけていった。


自分の流派での戦い方、対人戦及び対バケモノ戦の対処法、モンスターの特徴などだ。



例えば、クレイトスが師匠となる、スノウ及びセラが扱っている狼流派は二刀流をメインとしている。


一本の刀は相手を斬るため、もう一本の刀は攻撃を弾くためと教えられた。


そして、狼流派の唯一無二のちから、第六感シックスセンスを発現させるために、あらゆる知識と実験をさせられた。


勉強中に枝が降ってくる、食事中に殺傷力のない矢が飛んでくる、寝る前に座禅を組む、などであった。



そうして、日々感覚を研ぎ澄ませていった。



そして、次は戦闘力。


子供ながら、筋トレを一日二時間。

腹筋や、背筋、腕立て伏せやスクワット、崖登りや山上りダッシュなど、基礎能力を上げていくものを徹底して取り組んだ。


それを一週間に五日、七年間続けたのだ。


さらには、実戦形式での訓練。



狼流派では木刀二本を携え、クレイトスの指南を受け身体にあざができることを躊躇わずに、日々打ち込んでいった。


その中でもスノウの力は突出しており、年上の子供達でさえも全く歯が立たなかったという。


それは、トップになった全員に共通していたことではある。


モンスター狩猟においても、スノウ達トップになった者は秀でていた。



トロルや、ヘルマンティスの討伐の際には、多くの犠牲も生まれた。


だが、スノウ達は傷一つ負わずにモンスターを倒し戻ってきた。


この実践を繰り返すうちに、各流派の2500人いた子供達は七年経つ頃には、一割にも満たなかった。



最後に学ぶは、戦略。


各モンスターの動きや、人間の動きの予測、感情による行動の制限など全てを叩き込み、その身で覚えた。



怒れるときは、真っ直ぐ突っ込むことしか知らぬ猪となる。


怯えたるときは、背中を向け全速力でその場から離れる。


悲しめるときは、時には勇気という力に変わり、時には足枷という不要なものとなる。


その訓練の中で、必ずやらせなかったものが一つある。



だ。



人を殺めることは、全ての罪より重いことを念頭に置き、武術の訓練の際、実践訓練の際、モンスター討伐の際も人の命を救うことを最優先にすることを教えられた。


そうしたが故に、誰かを守り散って行った子供達も少なくない。



しかし、逃げ出す者も多くいた。


なぜ戦う訓練をするのか、なぜ自分達だけなのか、死に物狂いで訓練することを理解できなかった者は脱走した。



その者達は、本当に自分の家に戻れたのかは不明なまま。



そして、ユーダリルにてトップとなった20人は修行しヘルクリスマスを迎えたのだ。




「俺が知ってるFC計画についてはこれくらいだな。役に立てたか?」

「ああ、これで俺たちの修行してた10年間のことが理解できたぜ。ありがとうな。」

「礼を言われるようなことじゃねえよ。ホープの記憶を取り戻す手伝いが出来て、光栄だ。」


ガタッ。

ルカは席を立つ。


「ルカ町長、どこに行くんですか?」

「あのヴァルキュリア隊の隊長を解放してくる。」

「え!?セドリックさんをですか!?」


ドサッ!

ユキナが勢いよく立ち上がる。


「ああ、君らと話して分かった。俺たちは、今までオーディンと出来るだけ関係を持たずに過ごそうと考えていた。」


スタッ、スタッ、スタッ。

ルカはゆっくりと歩く。


「だけど、俺たちに必要なのは君らみたいな未来を照らしてくれるだ。いつまでも、立ち止まってるわけにはいかない。」

「ルカ……。」


ズサッ。

スノウも立ち上がり、ルカの前まで歩く。


バサッ。

そして、直角にお辞儀をする。


「ルカ、ありがとう。」

「ふん、気にするな。一緒に見させてもらうぜ、。」


ガチャンッ。

ルカはギルドから出ていく。


「ふぅー」

スノウは頭を上げる。


ドタタタタッ!

「お兄っ!」


バサッ!

セラがスノウに背中から覆い被さる。


「すごいじゃん!お兄!いつのまに他人に頭を下げることなんてできたの!?」

「んだよ!バカにしてんのか!それくらいできるっての!」

「嘘つかないでよ!今まで大人には絶対敬意を払わなかったくせに!」


ワシャワシャワシャ。

セラがスノウの髪を撫でる。


「本当に、スノウは成長したね。」

「兄さん、すごいです。」

「先輩に負けないように、私も成長します。」

「お前らな!」


スノウはセラを引き離す。


「まあ、たまにはのも悪くないかもな。」


スタッ、スタッ、スタッ。

ホープの五人も外へ向かう。



途端、


「あははっ!見つけた!見つけた!」

「誰だ貴様は!」


外で女の声と、ルカの怒号が聞こえる。



「なに!?ルカさん!?」

「何か起きたみたいだ!行くぞ!」


ダダダダダッ!

急いで声の方へ走る。



一体、何が起きたのだろうか。

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