第九十四話 説得と存在する意味
グリトニルの町の人と、ホープの睨み合いは続いていた。
「なあ!あんた達にお願いだ!俺たちは、グリトニルがオーディンに襲われていない理由が知りたいだけなんだ!」
「そういって!それを信用するほど俺たちはバカじゃない!この近くの村も、お前らみたいなやつにいくつも壊された!」
「それは、オーディンが差し向けた刺客だろ!俺たちは違う、ホープの人間だ!」
「だったら、それを証明して見せろ!」
お互いに拮抗したまま。
バチバチした状態が続く。
「どうする?お兄?このままじゃ埒が開かないよ。」
「そうだな、でも力任せに入っても何も解決しない、何か方法はーー。」
「僕が行く。」
スタッ、スタッ、スタッ。
セドリックが堂々と歩き、前に出る。
「おい!近寄るな!」
パシュンッ!パシュンッ!
二発の矢が放たれる。
それでも、セドリックは止まらない。
「おい!止まれっての!」
パシュンッ!
矢がセドリック目掛けて飛ぶ。
「セドリックさん!危ない!」
シュンッ!
ヒメノの叫びと共に、セドリックの右頬をかすめる。
しかし、セドリックは痛がるそぶりも見せない。
そして、セドリックは立ち止まる。
ガシャンッ。
セドリックは直角に体を曲げ、謝罪をする。
「本当に、申し訳ないことをした。」
「な、なんだあいつ?」
「僕は、ヴァルキュリア隊隊長、セドリック・リーンベル。グラズヘイムの騎士団の者だ。」
「やっぱり!王国のやつじゃねえか!撃て!撃て!」
パシュンッ!パシュンッ!
複数の矢が放たれ、セドリックをかすめていく。
「セドリックさん!戻ってきて!また出直しましょう!」
「ダメだ!僕は、僕の役目を果たす!」
セドリックは所々から血を流しながらも、強い眼差しで村を見つめ話し始める。
「この近くの村は、僕の部隊、ヴァルキュリア隊が襲った。それは、紛れもない事実。」
「そうだ!あの羽根の生えた奴らに、みんな殺されたんだ!」
「あなた達の怒りはごもっとも。だが、その罪は僕のものだ。彼らホープには関係ないことなんだ!」
「そいつらがお前の仲間なら、そいつらもこの町を襲う可能性だってあるだろ!」
グリトニルの町からはいろんな声が響く。
「僕は、僕は!彼らとは仲間ではない!!」
「っな!?セドリック、なにをーー。」
「僕は、彼らの監視役だ!そして、今僕は監視役を任されたヴァルキュリア隊を裏切り、ホープと行動を共にしている。そのホープを匿うため、グリトニルに来たんだ!」
グリトニルの人たちはざわめき始める。
「あなた達も聞いてるはずだ!他の町で、ホープが活躍していることを!それは、僕の目でも見てきた!彼らを、オーディンには渡したくない!だから、彼らを匿ってくれないか!」
「た、たしかに。いずれは、俺たちも襲われるんだったら、ホープに力を貸してもいいんじゃねえか?」
「でも、あいつが話してることが嘘だったら。」
グリトニルの町の人は迷っているようだ。
「最後に!僕は、ここにいることを王国に知らせる!裏切り者である僕を捕まえたと、あなた達が成し遂げたことにする!そうすれば、王国にも恩を売れる。グリトニルは、より安全になる!」
「そ、それは、確かに。」
ザワザワザワザワ。
グリトニルからの警戒が弱まる。
「おい、セドリック!何言ってるんだよ!お前は俺たちのーー。」
「スノウ、僕にも存在する意味が欲しいんだ。君たちなら、オーディン様の野望を阻止できる。任せたいんだ。」
「ふざけんじゃねえぞ、お前だけが犠牲になるだと!?俺たちは、誰も望んでねえよ!」
「これは!僕がやれる君たちへの恩返しなんだ。許してくれ、リーダー。」
カチャッ。
パヒューンッ!
セドリックは空に向かって、信号弾のようなものを放つ。
「これで!僕の位置は王国に知られた!グリトニルの民達よ!僕に縄を!」
「おい、待てよ!セドリック!」
キィーッ。
グリトニルの町が開門し、中から数人が走ってくる。
グルグルグル。
セドリックは縄で囚われる。
「君が、セドリック・リーンベルか。君の言うとおり、王国へ差し出すことにするよ。」
そう話す男が軽い足取りでセドリックの前に立つ。
「俺は、ルカ・ロナウド。この町の長だ。この町の安全のために、君は王国へ。ホープの彼らは俺の町で見よう。」
★ルカ・ロナウド 24歳
金髪で、かなりチャラ男に見えるがしっかりとした青年。
体つきもゴツく、冒険者のような姿である。
「ありがとうございます。ルカ町長。」
「……あぁ。連れてけ。」
ガサッ。
スタッ、スタッ、スタッ。
セドリックは連行されていく。
「待ってください、セドリックさんーー。」
ザッ!
ヒメノの声を遮るようにスノウが手を横に伸ばす。
「一つだけ聞かせろ、セドリック。それが、お前の意思なのか。」
「……ああ、これが僕の、やりたかったことだ。」
セドリックは町のどこかへ連れてかれる。
スタッ、スタッ、スタッ。
ルカはホープに近づく。
「君が、ホープのリーダー、スノウ・アクセプトか。」
「ああ、あんたがこの町の長か。」
「そうだ、まず話をしようか。町のギルドまで来てくれ。」
スタッ、スタッ、スタッ。
ホープはルカの後を歩く。
ホープとセドリックの別れは、突如として起きてしまった。
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