第十五章 英雄は出会いと別れを知る

第九十三話 迷いと発見

スタッ、スタッ、スタッ。

ホープの六人はビフレストからグリトニルに向け、歩を進めていた。


「オーディンが唯一襲わない町か、なりふり構わずぶっ壊してるイメージだし、理由が思い浮かばないな。」

「意外とさ、大きい町すぎて逆に見逃してるとかだったりして!グリトニルはもうこっち側にしたはず!みたいな!」

「そんなおっちょこちょいなミス、リサじゃないんだからしないだろ。」

「あ??」


ゾクッ。

リサの威圧が、スノウの背中を突き刺す。


「二人とも、ふざけてないで僕たちがしっかり考えないとーー。」

「おっ、セドくんはリっちゃんがおっちょこちょいなのは否定しないんだね〜」

「いや、そうじゃなくて僕はーー。」

「セドリンも教育が必要かな??」


ガヤッガヤッガヤッ。

彼らの賑やかさは相変わらず、二十歳にも満たない子供達なのだなと再認識させられる。


「ほーら!兄さん達!一旦休憩にしますから、お昼ご飯の準備しますよ!」

ヒメノの合図で、毎度恒例お昼ご飯を作り始める。



今回は、スノウとリサ、セラとセドリック、ヒメノとユキナに別れた。


スノウとリサがテーブルの準備をして、ヒメノとユキナは周りを警戒し、セラとセドリックが料理を作り始める。


「セラくん、そっちに調味料あるかい?」

「あるよ。はい!」

「ありがとう。」


サッ、サッ、サッ。

二人は手際よくカレーライスを作っていく。


大きな鍋に調味料を入れて、根菜や葉物野菜を大きめに切り、肉や水も入れてコトコト煮込んでいく。


スパイスの効いた香りが周囲にまで届き、モンスターすら呼び寄せそうな良い香り。



「あとは、少し煮込んだら完成かな。」

「そうだね!どんな味になるか楽しみ!」

「とても楽しそうだね、セラくん。」


ニコッ。

セドリックは軽く微笑み、セラを見つめる。


「セドくんは楽しくないの??六人で食べるご飯なんて、楽しい以外あるわけないじゃん!これからもずっと一緒に食べたいよ!」

「ずっと……か……。」

「セドくん?」


グイッ。

俯いたセドリックの顔をセラが覗き込む。


「あ、いや、何でもないよ。」


ダッダッダッ。

セドリックは調理場から足早に立ち去ろうとする。


スサッ。

セラはセドリックの袖を掴む。


「ねえ、セドくん。まだ、セラ達を仲間として信頼することはできない?」

「な、何を言ってるんだ。僕はもう、君たちになら自分の命でも任せられると思っているよ!」

「それじゃあさ、今日までセドくんが背負っているものを、?」


セラはセドリックを見つめる。



セドリックは黙り込み、少し静寂が流れる。



「あ、ぅ、それ、は。くっ、僕はーー。」

「無理しないでいいよ。」


ガシッ。

セラはセドリックを後ろから抱きしめる。



セドリックは少し震えていた。



「ごめんね、意地悪なこと言って。セドくんがセラ達を信頼してくれてることなんて、確認しなくても分かってるよ。ただ、セドくん、。」

「……、すまない。セラくんにもそう見えていたか。まさか、君たち双子に見抜かれてるとはね。」

「お兄もセラも、第六感持ってるからかな。何となく、相手の気持ちを分かっちゃう時があるんだ。」



スタッ。

セラはセドリックから離れ、再度対面する。



「お兄もセラも、ホープのみんなが、セドくんがどんな大きなこと背負っていても、それがたとえどれだけセラ達に危険なことだったとしても、大切な仲間の悩みだったら。」

「セラくん。……、うん、ありがとう。あと少し、準備させてくれ。」

「そんなに無理して急がないでいいよ!セラ達は、いつでも待ってるから!」


タッタッタッ。

セラは料理中の鍋のところへ戻る。


「うん、必ずだ。僕は、みんなと本当の仲間になりたい。だから、必ず話す。」


セドリックの目には強い意志が宿り、その歩みはしっかりとしていた。



料理が完成し、テーブルに並べられる。


「いただきます!」


カチャカチャカチャ。

六人は賑やかに昼ごはんを食べ、相変わらずリサとセラは大食感を発揮する。



(あの二人は、食べた栄養はどこにいくんでしょうか?体型が変わる様子もないですし。)

ジーッ。

ヒメノは二人を交互に見る。


「ん?どうしたの、ヒメちゃん?」

「あ、いえ、なんでも!」

(まあ、サイズはユキナちゃん以外変わりませんし、食は関係ないってことですね。)


ヒメノは心の中でホッとする。


(なんだろう?ヒメちゃんになんか失礼なこと考えられた気がする。)

セラは気にかけはしたが、目の前の料理には敵わなかった。



「ごちそうさまでした。」



スタッ、スタッ、スタッ。

ホープは食事を終え、グリトニルへ向かっていた。



「あ、あれか?リサ、見えるか?」

「任せて!」


ジーッ。

リサは千里眼で見つめる。


「うん!あれがグリトニルみたい!」

「よし!そんじゃあいくか!」


タッ、タッ、タッ。


ホープは町に近づく。



すると、


(うん?何かが見てる?)

(これは、セラ達に向けられてる、殺気!?)

スノウとセラは第六感で何かを感じとる。



「みんな止まれ!」


パシュンッ!

ズサッ。


グリトニル方面から矢が一本射出され、地面に刺さる。


「貴様ら!何者だ!」

グリトニルの高台から人が出てくる。


「待って!セラたちは敵じゃない!」

「そんなの信じられるか!その言葉に乗せられて、いくつの村が襲われたか!」



グリトニルの人とホープの間に、冷たい空気が流れた。



簡単には、町には入れなさそうである。

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