第十四章 英雄は新たな敵と感情に邂逅する
第八十五話 旅立ち、新たな敵
バッリを守り抜いたホープは、ライトと共に彼の家に戻り正門での戦いについて情報共有していた。
今回は村に被害はなく、彼らにとっての初めての完全勝利でもあった。
「ありがとう、ホープのみんな。おかげさまで、バッリは無事に守れた。心から、感謝する。」
「気にすんな、やるべき事をやっただけだ。」
ジーッ。
スノウはユキナに視線を移す。
正門での戦闘後より、ユキナは少し暗い顔をしている。
「なあ、ユキナ。さっきの話、みんなにしてやってくれよ。」
「え、ですが……。」
「ユキナの言葉を信じない奴はここにはいない、そうだろ?」
サッ。
ユキナは顔をあげ、みんなの顔を見る。
心配そうに見つめるみんなの姿が、彼女の目に映る。
「そうですね、みなさん、聞いてください。」
ユキナはトロルとの戦いを話し始めた。
トロルの記憶を覗き込んだこと。
トロルは何者かに狂乱状態にさせられ、無理やり暴れさせられたこと。
そして、そのトリガーは、
「私の感情のトリガーは、哀れみだと思います。」
「哀れみ?ユキちゃんはトロルに対して哀れに思ったってこと?」
「というより、あのトロルは昔の私と似てたんです。自分のことを哀れみ、自分のことを責め続けた。そして、先輩に助けてもらうその日まで哀れみの感情だけが私を縛っていた。」
その場の空気は重くなり、皆が集中して聞いてることがよく分かる。
「私は先輩に助けられ、それから会えたみんなに助けられ、今の私になれた。……けど、あのトロルはただただ苦しみ、もがいてた。その姿が、昔の私と重なって彼という名の私に哀れみの感情を抱いたのかもしれません。」
「そうなんだね、てことはやっぱりあたし達と同じかな?あたしもヒメチンも何かしらの負の感情がトリガーになる……。」
シュンッ。
リサとヒメノが俯く。
やはり、新しい力を扱えることは嬉しいが、それまでの過程を考えると辛いのも確か。
しかし、その静寂をスノウが破る。
「気にすんな!ヒメノもリサも、そんな事気にして何になる!」
「え?どういうことですか?」
「だから、分からないことを必死に考えて自分を傷つけることに、なんの意味もないって言ってるんだ!」
ザザッ!
スノウはいきなり立ち上がる。
「それよりも、これからやるべきことをまずは考えるんだよ!その途中でトリガーを見つけられればいいし、見つけられなくても俺らは強い!」
「スノウ……。」
「だから、二人とも前を見ろ!いや、前だけ見てろ!後ろから負の感情に取り込まれそうな時は、俺がどうにかしてやる。」
スノウが珍しくまともなことを話し、リーダーらしい姿を見せる。
場が締まって、一件落着。
と、思われたがセラが茶化しにはいる。
「さすが、ホープのリーダー、セラのお兄だね。でも、本当はリっちゃんとヒメちゃんの頭で考えても何も解決しないとか思ってたんでしょ〜?」
スーッ。
場の空気が少しピリつく。
「スノウ??」
「兄さん??」
「いやいや待て待て!俺はまだ何も言ってないぞ!セラが勝手にーー。」
「まだ、だって!お兄は正直だね〜」
セラがイタズラ顔でスノウを見る。
「セラ、お前なーー。」
「兄さん、お礼も言いたいですが追加でお話があります。」
「ヒメチンに同じく、後で覚悟してね。」
「おいおい、今日はついてないぜ……。」
ストンッ。
スノウは椅子に崩れ落ちるように座る。
ただ、セラのおかげで普段の彼らにだんだん戻ってきた。
感情に囚われ、固まった表情が少しずつ緩んでいく。
「うふふっ。先輩の言う通り、私達はこれくらいがいいですね!」
「そうだね、スノウが言う通り、まずは僕らも前を向いてやるべき事をやろう!」
少しずつ賑やかになり、表情も豊かになる。
「そしたら一つだけ、アトリ様がこの村に託された大切な物をみんなに知っておいてもらいたい。」
「大切な物?」
ドスッ。
小さめの箱をライトは取り出してきた。
「なんだこれ?何しまってるんだ?」
「それが、私にも分からない。」
「え?じゃあなんで、大切なものって分かるんだ?」
「アトリ様が、この箱を置いていくときに私たちに教えてくださったんだ。」
いつだかの、アトリが訪れた日の記憶が呼び起こされる。
「いつか、いつかこの世界に最大の危険が迫る。その時に、この箱を開けられる者が現れたら、迷わずに渡して欲しい。それが誰かは、まだ分からぬが。」
その言葉だけを残し、バッリをアトリは立ち去った。
「この箱を開けられる者、それってこのパズルみたいなやつを解除できるやつってことか?」
「そうだと思う。この箱は今まで誰も開けられずにいる。そして、このパズルがこの箱の鍵みたいなんだ。」
その箱には、植物の絵柄や動物など様々なものが書かれている。そして、何個かの空白も。
「俺たちにも、開ける方法は分からねえな。でも、そんなに重要なものなら大切に保管を頼むぜ。もしかしたら、俺らが開ける日が来るかもしれない。」
ズザッ。
ホープの六人は席を立つ。
「行くのかい?ビフレストに。」
「ああ、いろいろ知ることができた。それをもっと詳しく聞きたいんだ、俺たちの戦神に。」
彼らは苦しみを乗り越え、さらに前へ進もうとしていた。
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