第八十二話 記憶を埋め、争いは起きる

ライトの話を聞き、受け止めきれないホープの六人。


その中静寂を破ったのは、スノウだった。


「俺たちの先生、クレイトスはヴァルハラで俺たちを助けてくれた。けど、今はどこにいるのか分からない。」

「そうか、やはりあの人は君たちを助ける為に王国へ向かったのか。連絡がそれっきりなのも、頷ける。」

「先生は、無事だと思いますか?」


セラは今にも泣き出しそうな声で問いかける。


「当たり前だ!狼流派の主であり、我々の中でも最強だったクレイトス師匠が、そう簡単には死なないさ!」

はっきりと述べるライトに、少しホープの六人は安心した顔をする。


「そうだよな、俺たちホープを育ててくれた最強の戦士だし、心配する必要はねえな!」


ズザッ!

スノウは勢いよく伸びをして、家の出口まで歩く。


「なあ、ライト。近くにおすすめの店はあるか?腹が減っちまった!」

「それなら、この近くの料理亭に行ってみるといいよ。あそこなら、何でも食べられるよ!」

「分かった、ほらお前らも行こうぜ!おいてくぞ!」


スタッ、スタッ、スタッ。

ガチャン。


スノウはドアを開き、外へ出る。


「……先輩!」


ダッ、ダッ、ダッ。

ユキナがスノウを追う。


「お兄、無理ばっかりして。」

「本当にね、うちのバカリーダーは。」


他の四人は、少しの間席に座ったままだった。




スタッ、スタッ、スタッ。

スノウは足早に料理亭に向かっていた。


(くそっ、俺たちは上手く利用された挙句に、オーディンに消されようとしてる。俺たちのホープって名前は、この手で守りたい人たちの希望じゃなくて、オーディンが野望を果たすための希望だったってことかよ!)


ガゴンッ!

スノウの力強い拳が、村の壁に大きい音で響き渡る。


「くそっ!なんでだよ!なんで、先生は一人で……いや、それは俺も同じか。」


スノウは自分の今までの行動を思い返す。


一人で何とかしようとしてしまうその姿は、クレイトスと同じ一匹狼になろうとしている予兆だったのかもしれない。



だが、スノウは少しずつ変わってきている。

仲間を頼るということを、覚えた。


それは、彼にとっては何よりも簡単そうで、本当は簡単ではないことなのだろう。



「先輩!」


ダッダッダッ!

ユキナが背中側から走ってくる。


「おぉ、ユキナが最初か、他のやつらは遅いな。」

「先輩が早すぎるんですよ、それに……。」

「それに?」


ズンッ!

ユキナはスノウにグッと近づく。


「先輩、今、無理してますよね。私たちにバレないように。」

「な、何だよいきなり。あの話を聞いて、辛いのはユキナも同じだろ。」

「はい、そうですよ。でも、先輩は自分のこと以上のものを一人で背負おうとしてる。」

「っ……。」

スノウは黙り込む。


そして、いつものユキナからは想像できない強い口調で会話が続く。


「先輩が考えてる事は、少し分かります。でも、ライトさんも先輩自身も言ってた通り、私たちは過去を変えられない。その分、をオーディン達の手から引き剥がす事はできる。」

「ユキナ、お前も無理してるんじゃーー。」

「ええ、無理してますよ。正直頭の中がパンクしそうで、今すぐに泣き叫びたいですよ。……けど、それでは何も解決しない。だから、私は先輩に頼りに来たんです。」



グイッ!

スノウの顔を両手で覆い、見つめ合う。


「私は私に出来ることを、全力でやります。そして、出来ない事は先輩に頼ります。……なので、先輩も壁にぶつかったら私を頼ってください。先輩より私の方が適任のことがあるはずですから。」



ニコッ。

ユキナはとても良い笑顔で話す。


その笑顔は、スノウの不安を取り除くには十分過ぎるほどあった。


「あぁ、そうだな。まずは自分のことからだ!そっから、俺たちがさらに出来そうな事は俺たちで背負う。それで、いいんだよな。」

「はい、私達は、私達なんです。誰かに作られたとか関係なく、ホープというチームで生きてるただのなんですから。」


二人は落ち着きを取り戻し、周りを見た。


「ここにいる人たちも、必死に今を生きてる。その人達が作ってくれた精一杯のものを私達はもらって、この力に変えている。」

「そして、この力で俺たちは守れる人たちを守る。それが、俺たちのやれること。小さくてもいい、この世界の希望になること。」


この村の活気が、スノウたちを元気付ける。



人間の一つの武器、それは、互いを支え合うこと。

一人でできなくても、複数人集まれば出来ることもある。


その事を、改めてスノウとユキナは実感した。



空の太陽が、彼らを暖かく見守る。




ドガーン!!ドガーン!!

遠くから何か爆発音のようなものが聞こえる。


「な、なに!?」

「正門の方からだ!敵襲か?」

「お兄!ユキちゃん!」


ダッダッダッ!

セラを先頭に四人が走り寄る。


「セラ!この音は?」

「モンスターがこの村に迫ってるみたい!ライトさんはもう向かってるから、セラたちも!」

「分かった、いくぞ!」


ダッダッダッ!


ホープの六人は、小さくても眩しい希望となり、これから先も人間の光となる。

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