第八十話 過去の王、ギムレーとは

スタッ、スタッ、スタッ。

ホープは進路をバッリに変更し、歩を進めていた。


「セドリックさん、バッリってどんな村なんですか?」

「そうだね、あの村では発酵食品という特産物があって、それをアトリ様は気に入られて何度も通ったらしいよ。」

「そんなに美味しいものが?気になりますね、ねえ、リサさんーー。」

ヒメノの目にはリサとセラの飢えた獣の様な姿が映る。


「と、特産物!!美味しそう!!しかも、前国王様が気に入ってたなんて、どんなものなの!?」

「リっちゃん、セラは今、いくらでも食べられる気がしてる!早く行こう!」


ダダダダダッ!

二人は遠くに見えるバッリまで一直線。


「あっ!リサさん!セラさん!」

「無理だよ、ヒメノ。飯のことになったら、あの二人は誰にも止められない。」

「はぁ、そうですよね。私たちも足早に向かいましょうか。」


スタッ、スタッ、スタッ。

他四人もバッリへと急いだ。


★バッリ……発酵食品が有名な村で、食に関心のある者はこぞって集う場所。前国王がよく通ったのも相まって、かなりの人気である。



ダダダダダッ!

リサとセラは正門まで辿り着く。


「ここが!」

「発酵食品の村!バッリ!」

二人の予想通り、あたりには露店が多く観光客の様な人も多く見られる。


「へーい!うちは、豆が原料の黒タレを使った、串焼きが人気だよ!」

「こっちは!豆が原料の赤粒と白粒を混ぜた、野菜と肉たっぷりのスープが人気だよ!」

多くの商人たちが、こぞって客を引いている。


「セラちゃん!どこから行く!?」

「えーと、えーと!」


ガシッ!

スノウが二人の服の襟を掴む。


「うへっ。」

「何するの!スノウ!」

「先走って俺らをおいてくから、首輪つけとこうか迷ってたんだよ!」


パサッ。

二人は解放される。


「だって!こんなに美味しそうなものあるのに、食べないのは勿体無いよ!」

「そうだよ!お兄も、人生後悔しないためにもここで食べとかないと!」

「食べるのは構わねえよ、ただ、本当の目的を忘れるなって話だ!」


ザワッザワッザワッ。

騒ぎ立てているスノウたちに視線が集まる。


「兄さん、すごい見られてる気がするんですけど気のせいですかね。」

「いーや、大正解だよ。誰かさんのせいでな。」

「あたし達は何も悪い事してないよ!」


スタッ、スタッ、スタッ。

一人のゴツい装備をつけた人が歩み寄ってくる。



「おいおい、いかにもな人が来ちゃったじゃねえか。」

「ここは僕が、しっかりと謝ってくるよーー。」

「セラ達はただ食べたかっただけなのに!」


セドリックが謝罪をしようと、前に歩くと。


ザバッ!

ゴツい人がいきなり片膝をつき、頭を下げる。


「へ!?あ、あの!」

「お待ちしておりました、ホープの皆様。」

「え、セラ達を知ってるの?」


ホープはいきなりのことに慌てふためく。


「はい、申し遅れました。」


ガサッ。

兜を脱ぎ、男の顔が見える。


「私は、このバッリの村長、ライト・バッツと申します。クレイトスさんから、あなた方が来た際はよろしくと伺っています。」


ライト・バッツ 32歳 クレイトスの弟子であり、バッリの村長。

全身の濃紺の鎧が、彼の屈強さを物語っている。



「クレイトス!?先生がライトさんにお願いしてたって事は、あなたは先生のお弟子さんの。」

「そうだよ、詳しく知ってるって事は、君がセラリウムくんだね。そして、ホープのみんな、会えて嬉しいよ。」


ライトは微笑み、皆を迎える。



「詳しいお話は、私の家でしようではないか。」

「あ、はい。ありがとうございます。」


スタッ、スタッ、スタッ。

セドリックを先頭にホープはライトの家に向かう。



「ここが私の家だ、さあ、入ってくれ。」


ギィーッ。

ドアが開かれ、大きな玄関が迎える。


「大きな家だな、ライトはお金持ちなのか?」

「いや、これはクレイトス先生が僕らにくれた財産なんだ。元は、先生の家って事なんだよね。」

「僕らって事は、ライト以外にも誰か住んでるのか?」

スノウは辺りを見渡す。


「そうだね、今は一緒にいないがっていう同じ戦士がここに住んでるよ。」

「マイト……何だろう、聞き覚えがある気がする。」

「そうなのかい?ユキナくんと何か繋がりが?」


ユキナは顔をしかめ考え始める。


「ユキナ……鮫流派のユキナ・リンクスさんかい?」

「あ、はい。ユキナは私です。」

「そうか!私の友人の、マイト・タップは鮫流派の教えの主だよ!」

「え!?」

その場にいた全員が驚く。


「私の、師匠?」

「てか、俺たちは記憶を消されて変な会話してるはずなのに、何でライトは何にも聞いて来ないんだ?この会話だって、おかしいって感じるだろ?」

「いや、先生から教えてもらってたんだよ。ここに来る時は、。」


やっと出会えた、ホープに直接繋がる人間。


そして、ユキナの師匠である、マイト・タップの存在。


この出会いは、彼らに大きな影響を与える。

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