第十二章 英雄はその力を振るう

第七十二話 ホープへの依頼、事件発生

ホープの六人とスノトラは一度、ユーダリルに引き返していた。


「はぁ。」

スノウは宿屋のベッドに横になっていた。


外は晴れ渡っているが、彼の部屋はどこか暗く感じる。


「まさか、な。自国の人間を自分の手で消してるだなんて、想像もしてなかったぜ。」


バサッ。

スノウは顔にタオルをかける。



時は、エルムトでの会話まで戻る。



「国王から授かったこの黒いクリスタルから、あのオークエンペラーは出てきた。これは、エルムトの外で暴れ出し、私の部隊は壊滅させられた……。」


ギュッ。

スノトラの拳に力が込められる。


「んだよそれ!なんでそんなことするんだよ!それで王国になんの利益が!」

「分からない、ただ、このクリスタルは誰かの手によって作り出されてるみたいなんだ。そして、光を失ったクリスタルがこれだ。」

「あいつは、自国の人間を殺してるってことだろ。ふざけてやがる。」


ギリッ。

スノウの歯に力が入る。


「隊長のお話してた意味が分かった気がします、今の王国に疑問があるという意味が。」


スノトラはセドリックを見つめる。


「それで、俺たちに何をしろと?」

「この力を失ったクリスタルを集めて欲しいんだ。このクリスタルを詳しく調べられれば、でもゴブリンやオークを倒せると考えてる。」




時はスノウの部屋に戻る。


(クリスタルを集めることで、助けられる命が増えるならいくらでもやってやる。けど、スノトラもセドリックもこのまま王国の部隊にいて大丈夫なのか?)



コンッコンッコンッ。


バサッ。

スノウはタオルをどかし、起き上がる。


「スノウくん、起きてるかい?」

「ああ、ブライトか。起きてるぜ。」


ガチャッ。

ブライトが部屋に入ってくる。


「スノウくん、君に話しておきたいことが。」

「何だ?」


ザザッ。

ブライトは床に座る。


「これを見て欲しい。」

「なんだこれ?」

一枚の紙が置かれる。


「君たちに受けてもらっただ。記憶に残ってないかもしれないが、君らはトップになってから三年間繰り返していたんだ。」


そこに書いてある内容は、



①実戦訓練 初日 狼vs馬 鷹vs兎 判定 行動不能

②基礎訓練 山登りランニング 瞑想部屋隔離

③対話訓練 ビフレストに行き、メンタル改良 戦神を呼び出す練習


これらの訓練を、スノウ達は当時14歳前後ながらこなしていた。



「おいおい、なんだこの狂ったメニュー。死人が出てもおかしくねえだろ。」

「その通りだ。……実際、何人か耐えきれなかった者もいる。」

「俺たちは、運良く三年間生き残って、ヘルクリスマスも生きて、記憶を消されて、ここにいるってことか。なんだかな、始まりの場所に戻ってきたのに、懐かしむ気持ちが持てないのは悔しいな。」


ドサッ。

スノウは立ち上がり窓の外を見る。


「君らには、こんな修行を三年間もやらせていた。君らの大切な時間を浪費させたのは、私たち大人の責任だ。」

「浪費じゃねえよ。ブライト達がいなかったら、もしかしたら俺らはここに辿り着く前に死んでたかもしれねえ。


スノウは微笑み、ブライトを見る。


「君は、君達は本当に強い人だな。力だけでなく心までも、私たちは見習わなくては……。」

「別に、俺らを見習う必要はねえよ。……ただ、ブライトも俺たちトップのような存在をもう作らないように、反乱軍に協力してくれ。」


ササッ。

スノウは手を伸ばす。


「ああ、もちろんだ。これからも私は反乱軍に尽くそう。」


ガシッ。

ブライトとスノウは固く握手をする。



今日は休むことを告げ、一日ゆっくりと休んだ。



次の日、


スタッ、スタッ、スタッ。

スノウは食堂に向かう。


「あ!お兄!こっちこっち!」

「おはようございます、先輩。」

「おお、セラ、ユキナ。」

先に朝食を食べていた、ユキナとセラと合流する。



「よく眠れましたか?」

「ああ、二人も平気か?」

「もっちろん!朝からたくさん食べて、さらに体力回復させなきゃ!」


ガツッ、ガツッ。

朝からセラは三人前のご飯を平らげている。


「食いしん坊なのはリサだけで十分だったのになーー。」


ガツンッ!

スノウの頭に拳が落とされる。


「痛っえ。」

「誰が食いしん坊よ!成長期だからしょうがないの!」

「朝から兄さんもリサさんも元気ですね。」

リサとヒメノも合流する。


「先輩、セドリックさんはまだ寝てるんですか?」

「いや、先に起きて外に出て行った。多分、スノトラのところに行ったんだろ。」

「そうですか、セドリックさん、自分を責めてなければいいですけど。」

「あいつ堅物だからな、まあ、気にかけるに越したことはないな。」



カチャカチャカチャ。

五人は食事を終え、着替えを済ます。


ガチャンッ。

外に出た五人を、清々しい空が迎え入れる。


「さてと、今日はどうするかーー。」

「村長!ブライト村長はいませんか!!」


ダッ、ダッ、ダッ。

一人の女性が走ってくる。


「あ、あなたはブレイザブリクにいたセドリックさんところの。」

「っ!君たちは、ホープか!?そしたら、セドリック隊長はーー。」

「ここにいるよ。そんなに慌ててどうしたんだい?」


スタッ、スタッ、スタッ。

セドリックはブライトの家の方から歩いてくる。


「た、隊長!どうか救援を!」

「救援?ブレイザブリクに何かあったのか?」

「そ、それがゴブリンとオークの大群が押し寄せてきて、町が壊滅状態にーー。」

「んだと!おい、セドリック。」


セドリックの拳に力が入る。


「分かった、すぐに向かう。僕ら六人でなんとか対処する。」

「え、ホープの皆さんも来てくれるのですか?」

「当たり前だろ。セドリックは今、ホープの管轄下にあるからな。急ぐぞ、セドリック!」

「ああ!みんなの力、頼りにさせてもらう!」


ザザッ!

スノウ達はブレイザブリクに走り出す。


「あ、隊長!一つだけ報告が!」

「どうした?」

「それが、オーク達を引き連れている者がいまして、その人が……。」


ヒソッヒソッヒソッ。

女性軍人はセドリックに耳元で囁く。


「っ!?本当なのか!?」

「はい、偵察部隊の報告では、確かかと。」

「なんで、あなたが……。すぐに向かう!君は、この村でスノトラくんを見ててくれ!」


ザザッ!

セドリックとスノウ達を追う。



ブレイザブリクでまた、新たな戦いが起きようとしていた。

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