第七十話 ぶつかり合い、正式名称

「大丈夫?どこが痛む?」

「安心してゆっくり息をして、そうそう、セラに任せて。」



セドリック以外の五人は、外で治療をしていた。


「少し痛みますよ。」

「うぐっ!あぁ。すまない。」

ヒメノは倒れた兵士の足の傷を布で覆う。


タッ、タッ、タッ。

「ヒメノ!そっちはどうだ?」

「兄さん、なんとか怪我してる人は治療できました。」

スノウがヒメノの元へ走り寄る。


「さすがの手際の良さだな。……にしても。」

二人は辺りを見渡す。



そこには、多くの血痕と地面の凹み。

テントはボロボロに壊れている。


自然はぐちゃぐちゃになり、戦闘の激しさを物語っている。



そして、助けられなかった命も。



「くそっ。誰がこんなことーー。」

「っ!兄さん!祠を!」



ザッザッザッ。

セドリックが怪我したスノトラと共に帰還する。



「セドリックさん!ご無事ですか!?」

「ああ、僕は平気だ。けど、すまない。彼女を手当してもらえるか。」

「分かりました!こっちへ!」

ヒメノがスノトラに肩を貸す。


「すまない、隊長の仲間たち。」

「セドリックさんのお仲間なら、助けるに決まってます!」

「……、ありがとう。」


スノトラを急ごしらえのベッドの上に寝させる。


スタタタタッ!

「ヒメちゃん!セラも手伝うよ!」

「セラさん、ありがとうございます!」

セラも合流し、二人で治療していく。



スサァー。

風が二人の顔を撫でる。


外では、スノウとセドリックが話し合っていた。



「はぁ!?オーディンがオークを呼んだ!?」

「あくまで可能性が高いってだけだ。でも、もしそうなら……。」

「オーディンが、お前の部隊をこんなふうにしたってことだろ!」


ギリリッ。

スノウの歯に力が入り、目には怒りが。



スタッ、スタッ、スタッ。

「先輩!私とリサさんで少し偵察してきますね。」

「ここら辺が安全かどうか、見てくるよ!」

リサとユキナが歩いてくる。


「ああ、分かった。気をつけろよ。」

「任せて!」


タッタッタッ!

リサとユキナは辺りを見に回る。



その場は少し静寂に包まれる。



「なあ、セドリック。お前、

「っ……、やっぱり、スノウはすごいな。」

「一応、ホープのリーダーだからな。お前のことも、少しは分かってきたつもりだ。」


スノウはセドリックをまっすぐ見つめる。



「僕には、今の王国が正しいのか分からない。国王は世界を平和にするためと仰ってるが、本当にそうなんだろうか。」

「セドリックは、国家直属ヴァルキュリア隊の隊長だろ?他のやつより、オーディンに近い位置でどういうやつなのか見れたんじゃないのか?」

「そ、それは……。」


セドリックは唇を噛む。


何かを我慢してるかのように。


「なあ、無理強いはしないが、提案だ。俺たちと一緒にこれからも来ないか?

「……、ありがとう。けど、僕は国家直属のヴァルキュリア隊を抜けることは出来ないんだ。」

「何でだよ!お前も疑問に感じてるんだろ!オーディンがやってきたことが、本当に正しいことなのかって!」


スノウとセドリックが言い合う。


「それでも!僕には、抜けられないんだ。」

「なんでそうまでして!お前は!……。」


ガシッ!

スノウはセドリックの胸ぐらを掴む。



しかし、


それと共に、スノウの目には、セドリックが何かを隠し我慢していることが見えてしまった。


バサッ!

スノウは手を離す。


「くそっ。」

この言葉は、苛立ちというより自分の力の無さを嘆いてるように聞こえた。


スノウはセドリックの目をじっと見る。


「俺たちには、言いにくいことなんだな。」

「ああ、すまない。」

「別に、責めてるわけじゃねえよ。……ただ、もし俺にやれることがあるなら、遠慮せず言え。俺は、お前の

「スノウ……。」


タッタッタッ。

スノウはセドリックから離れる。


バサッ!

そして振り返り、


「リーダー命令だ。……


スタッ、スタッ、スタッ。

スノウはスノトラを治療してるテントに向かう。



「ありがとう、スノウ。」


セドリックは立ち止まったまま、スノウの背中を見送った。


(僕は、スノウが頼りになる人だってことは心から分かってる。……だからこそ、僕は君と本当の意味で一緒に隣を歩きたいんだ。そのために、僕は……。)

セドリックは顔を伏せる。



そして、歩くスノウの顔には、強い決意を感じる。


(セドリックは、俺には想像つかないようなでかいものを背負ってる。多分、一人で。……だったら、打ち明けてくれるまで、いつでも受け入れられるようにしてやる。待ってるぞ、セドリック。)




二人は真の仲間として分かり合えるのは、そう遠くないのかもしれない。




スタッ、スタッ、スタッ。

怪我人の治療も終えて、ホープの六人はエルムトの祠に入る。



その奥には、大きな石が置かれ、黒く光、そこには言葉が彫られている。



「これが、俺たちの戦神の正式名称フルネームを綴った石か。」

「なんでここの祠に祀られるかのように置かれてるんだろ?」

「リサさんのいう通り、確かに不思議ですね。」

リサとヒメノは顔を見合わせる。


「まあ、とにかく!みんなの正式名称フルネーム見てみようよ!」

セラが石を覗き込む。



さらにホープの力が増す音がした。

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