第六十九話 事件の元凶、力の解放

タッタッタッ!


セドリックはエルムトの中を走り抜ける。

彼の顔には焦りの表情が。


「スノトラ……無事でいてくれ。」

全力で走り抜けるセドリック。


辺りは不安を煽るかのように、傷や割れ目が目立つ。

所々に、大きな足跡。



ドゴンッ!ドゴンッ!

何かが崩れ落ちる音が響く。


その音の先には、



一人の鎧を着た女性が、額から血を流し倒れこむ。


「げほっ、げほっ。何なんだ、この化け物はーー。」

「フガァ!!」

「くっ!!」

巨大な化け物の拳が怪我をした女性に迫る。


「このっ! 戦姫初式センキショシキ! 竜槍リュウソウ!」


バキーンッ!

女性の持つ高速の槍攻撃が、化け物の拳とぶつかり合う。


「うっ、馬鹿力めーー。」

ドゴーンッ!


「がはっ!」

力負けした女性が、岩の壁に叩きつけられる。


ザザザッ。

壁から滑り落ち、口から血を垂らす。


「ガァ、ガァ、ガァ!」

化け物の姿がよく見えるようになる。



ゴブリンとは少し違う。


全長6mはあるであろう巨体。二本の角が生え、ゴリゴリ筋肉のマッチョマン。鋭い牙も生え、肩には金属のパッド。全身は布の服で覆われ、その迫力は獅子の如く。



「邪魔するやつ、殺す。」

「くっ!」


化け物の拳が再度迫る。


(すみません、セドリック隊長……。)

女性が諦めかけた途端。


戦騎術センキジュツ! ! 剛衝斬ゴウショウザン!」


ガギーンッ!

セドリックの力技が拳を弾く。


「うぐ?誰だ。」

「君に名乗るつもりはないよ。」

「ぅ、ん?セドリック、隊長?」

女性は薄らとセドリックの姿を捉える。


「生きてるな、スノトラ副長。」

「隊長、なぜ。」

「話は後だ!こいつは!?」

「オークエンペラー。国王様が、ここまで連れてきて……。」


まさかのワードが出てくる。





「まさか、本当にこんなことをーー。」

「邪魔だ!」

「くっ! 来たれ!ヒカリよ! 戦騎術センキジュツ! ロク! 反射光リフレクター!」

バリーンッ!


オークエンペラーの拳を、光の盾が弾き返す。


「くっ、普通のオークとは全く違うな。」

「隊長、私も戦線にーー。」

「何を言ってる!君はそこで自分の体を手当するんだ!」


セドリックは剣を構え、オークエンペラーと正面から向かい合う。


「お前も邪魔するなら、殺す。」

「やれるならやってみなよ。今の僕は、機嫌が悪いんだ!」


ゴォォ!!

セドリックの周りに風が巻き上がる。


「僕の怒り、受け止められるかな! 上限解放バースト! 開始オン!」


ドォーンッ!

セドリックから黄色の光が立ち昇る。


彼の真の力、トップの限界突破オーバードライブとは違う、持てる力を全て引き出す技。



「ウゴォ!」

勢いに乗せた拳が迫る。


シュンッ!

「ふっ! 戦騎術センキジュツ! ! 乱斬ランギリ!」

拳を華麗に避け、セドリックの連続斬りが拳を傷つける。


「ウガァ!雑魚が!」

「硬いな、筋肉というより、金属だ。」


ガキンッ!ガキンッ!ガキンッ!

セドリックとオークエンペラーがぶつかり合う。



「あまり時間はかけたくない。一気にいかせてもらうよ!」


ゴォォ!!

大気中の光がセドリックに集まる。


「来たれ!ヒカリよ! 戦騎術センキジュツ! ジュウ! 光双連刃牙コウソウレンジンガ!」

セドリックの剣が光で両刃剣となり、オークエンペラーを斬り刻む。


「グガァ!お前、さっきの女とは違うな。」

「何言ってるんだい、同じだよ。僕も彼女も、!」


ジャギンッ!ジャギンッ!

光の刃がオークエンペラーを襲う。



ポワァ、ポワァ。

気がつくと、空気中が光の粒子で覆われてきた。


「そろそろウザイ!消えろ!」


ゴォォ!!

オークエンペラーに紫色のオーラが纏う。


「闇魔法か、なら僕の得意分野だよ!」

「ウガァ!消し飛べ!」


ドンッ!ドンッ!

拳に闇の炎が纏われ、弾として打ち出す。


「その大きな隙、待ってたよ!」


カキンッカキンッ!

セドリックは炎を打ち消し、オークエンペラーの正面に立つ。


「はぁぁ! 集まれ!ヒカリよ! 戦騎術センキジュツ! ! 光進双烈斬コウシンソウレツザン!」


ボワァァ!

大気中の粒子が一つに結集し、オークエンペラーの背後でセドリックの形をしたものとなる。


「な、なんだ!?」

二人の攻撃、受け切れるかな!」


ジャキーンッ!

ジャキーンッ!

前後からの攻撃に、オークエンペラーは翻弄される。


「うがぁ!何故こんな奴に!」

「君は少し、自信を持ちすぎだ。することを覚えるんだね。」

「くそっ、くそっー!!」

ジャキーンッ!


セドリックの剣が、頭から真っ二つに斬る。


コトンッ。

黒いクリスタルが落ちる。


「……ふぅ。上限解放バースト停止オフ。」

シューンッ。


セドリックは元の姿に戻る。


「うっ、はあ、はあ、はあ。少し、頑張りすぎたかな。」

「隊長……。」

「スノトラくん、無事かい?」

「はい、おかげさまで命拾いしました。」

スノトラはフラフラと立ち上がる。


「おっと、君の怪我は重傷だ。僕に体重を寄せて、肩を貸すよ。」

「すみません、お手を煩わせて。」

「何度も言ってるだろ。助けてもらった時は、


セドリックはスノトラを見て微笑む。


「っ!……あ、す、すみ。ありがとうございます。」

「うん、まず入り口まで戻ろう。」


ザッザッザッ。


セドリックはスノトラと共に入り口へ向かう。


(あのオーク、単体でここに現れるとは考えにくい。国王様、あなたは、本当に……。)



セドリックの中に、一つの疑問が深まった。

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