第六十八話 彼らを待つものとは

エルムトとは、ユーダリルの管轄になっているFCの際に使われた場所の一つである。



「エルムトってここからどれくらいの距離にあるんですか?」

「この村を出て、30分くらいのところだよ。ただ……。」

「何か問題でもあるんですか?」

ユキナが小首をかしげる。


「今あの近くは、王国軍が拠点を作って見張ってるんだ。」

「王国軍が!?それは、本当ですか!」

セドリックが血相を変える。


「ああ、間違いないよ。確か、ヴァルキュリア隊のっていう人が訪ねてきた。ここで調査があるからとかで。」

「スノトラ、彼女一人でしたか?」

「少なくとも、私のところに来たのは彼女だけだったよ。」


セドリックの眉間にシワがよる。

何かを考えているようだ。


「セドくん、大丈夫?」

「ああ、セラくん大丈夫だよ。ただ、スノウ、お願いがあるんだけど。」

「その、スノトラってやつと話がしたいってか?」

スノウはセドリックを見つめる。


「ああ、彼女に確認したいことがある。私情で旅の順路を外れてしまうけど、気になるんだ。」

「はあ、本当に堅物だな。」


ザザッ!

スノウは椅子から立ち上がり、外へ向かう。


「あっ、兄さんーー。」

「私情のせいだとか、旅の順路だとか、そんなんは二の次三の次だ。セドリック、後悔は、一番辛い感情だ。」


ガチャッ!

スノウは外へ出る。


「スノウ……。」


パンッ!

リサがセドリックの背中を叩く。


「痛っ!リサくん、いきなり何をーー。」

「なーに、遠慮してんの!あたし達は背中を預けあうでしょ!頼って頼られてなんぼだよ!」

リサも外へ出る。


「そういうこと〜。ほーら、セドくん置いて行っちゃうよ!」

セラもリサに続く。


「行きましょう!セドリックさん!」

「早くしないと、先輩達に置いてかれちゃいますよ!」

ヒメノとユキナも行く気満々。


「……ああ。ありがとう。」


ホープの全員がブライトの部屋を後にする。



「明るいチームだな。本当に、こんな世界でなければもっと安全で楽しい生活を、送れたのだろうな。」

ブライトは小さいため息を吐く。




ところ変わり、ユーダリルの村からエルムトへの道。


「セドリック、スノトラってのはビフレストの村にいたと同じ部隊のやつか?」

「そうだよ、彼女は誰よりも正義感が強くてね。何故エルムトへ滞在してるのか、理由を聞きたいんだ。」

「セドくんが言うんだから、相当の正義感強い堅物なんだろうね。」

セラが茶化す。


「僕はそんなに堅物ではないよ。まあ、柔軟性には自信があまりないけど……。」

「気にしないでいいんですよ!セドリックさん!兄さんやセラさんみたいな人ばかりじゃこっちが疲れちゃいますから!」

「ちょっとヒメちゃん!お兄はともかく、セラも同じくくりにしないでよ!」

「俺はともかくって何だ、俺はって!」


これから戦いが起きるかもしれないというのに、ホープはいつも通り楽しげな雰囲気。


いや、この雰囲気が彼らの強さを引き出しているのかもしれない。



30分ほど歩くと、エルムト付近へと到着する。



「なあ、あのテント。」

「ああ、あの旗印は王国のものだ。だとしたら、あそこにスノトラがいるはず。」

「だったら、あたしの眼に任せて!」


ギュイーンッ!

リサはテントの方を千里眼で観察する。


「うーん、確かに兵士っぽい姿は少し見えるけど、ビフレストで見た格好の人はいないよ。ていうか、みんな寝てるみたい。」

「そうか、だとしたらエルムトの中にいるのだろうか?」

「王国の連中にとっても、あの祠はそんなに大切なもんなのか?」


スノウはエルムトを眺めるが、特にこれといって特徴はないただの洞窟のようだ。


「遠くから見てても分からないし、早く行ってみようよ!」

「セラさんに賛成です!兄さん達も、早く行ってみましょう!」

ホープはテントの近くまでたどり着く。



そこでは、衝撃の姿が。


「なっ、なんで!!」


ダッ、ダッ、ダッ!

セドリックが走り出す。


そこには、血を流して倒れている多くの国の兵士達が。


意識のある者もいる。

まだ襲われて時間はあまり経過してないようだ。


「先輩!早く私たちも!」

「ああ!ユキナとセラは西の方!リサとヒメノは東の方を!」

「了解!」

全員が倒れている人たちを処置していく。


「どうした!何があった!」

「あ、あなたは、セドリック、隊長。」

「そうだ!ここで一体何が、スノトラは!?」


ガシッ!

重傷を負った兵士がセドリックの腕を必死に掴む。


「お、お願いです、隊長。このままでは、スノトラ副長が、命をーー。」

「命を、何だ!おい!おっーー。」


ガシッ!

スノウがセドリックを止める。


「やめろ!セドリック!……もう、眠りについた。」

一人の兵士がセドリックの腕の中で生の終わりを迎えた。


「っ、くそ。」

セドリックは悲しみの顔を浮かべる。


「助けられる奴は俺たちで何とか助ける。セドリック、スノトラを助けに行くんだろ。」

「ああ、許可してもらえるか?」

「当たり前だろ。一人で行けるか?」

「もちろんだ。すぐに戻る。」


ザザッ!

セドリックはエルムトの中へ入っていく。



祠の外は負傷者で溢れている。


一体ここで、何が起こっているのか。

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