第六十二話 彼を知ること、それは信頼へ
ズズズッ。カチャ。
スノウは紅茶を一口飲む。
「これが、俺のガキの頃の思い出だ。まあ、あまり良い話じゃねえけどな。」
スノウの話をみんなが静かに聞いていた。
一言一句、聞き逃さないように。
スノウの右頬の傷は、四歳の時の痕であった。
「スノウ、君にそんなことがあったのか。」
「セラの知る限り、本当の話だよ。小さい時から、お兄はよく隠し事してた。……だから、セラも誓ったの。強くなるって。」
セラは暗い表情を浮かべる。
しかし、対照的にその目には明るい決意が宿っている。
「ありがとうございます、辛い話を話してくれて。そして、兄さんのことで一つ分かったことがあります。」
「ん?なんだ?」
ヒメノがスノウの目の前まで迫る。
「すーっ、はぁー。」
ヒメノは深呼吸をする。
そして、
「兄さんはいつも、一人で背負いすぎです!!」
ヒメノは腰に手を当て、指摘する。
「あ、え?」
スノウはいきなりのことに戸惑いの表情。
「ヒメチンに同じ!何でもかんでも、一人で解決できるわけないじゃん!バカなの、スノウは?……あっ、バカか!」
「同感です!!先輩は、一人で歩く道を選びすぎです!」
リサとユキナもスノウに説教をする。
スノウは手を顔に当て、天井を仰ぐ。
「ははっ、全く言い返す言葉もないよ。正直言って、俺は……怖かったんだ。俺の手から、大切なものが滑り落ちていくんじゃないかって。」
スノウは自分の手を見つめる。
町のあらゆる人たちから、邪魔者にされていた記憶が蘇る。
「お前は邪魔だ!」
「この町から消えろ!」
あらゆる罵声が呼び起こされる。
暗闇の中に座り込む四歳のスノウ。
何度消えてしまおうと思ったか。
だが、今の彼には光が差し込んでいる。
「でも、それは間違いだった。俺は、誰かを信頼することをやめちまったから、自分を追い詰めた。だけど、信じることの大切さを、ここにいるお前達が教えてくれた。」
バサッ!
スノウは立ち上がり、周りを見渡す。
そこには、五人の笑顔が。
「俺はホープのリーダーだ。ただ、それっぽいことなんてどれくらい出来てるか分からねえ。……けど、目の前に壁が出てきたら、大切なものを守るために、俺は、お前達を頼る。今日までに何度か、個人的に約束してきたけど、改めてここで誓う。」
スノウは、五人の前で高らかに宣言する。
「いくぞっ!俺たちの目標は、オーディンを倒すこと!そのために、俺たち全員が全員の背中を預け合って必ず成し遂げる!……そして、俺たちはもう一回、世界を救う!」
スノウの宣言を五人は満足そうに聞く。
ザザッ!
「いいんじゃない、それで!」
リサは勢いよく立ち上がる。
「ていうかさ、その目標あたし達にできないと思う??あたし達は、最強の戦士なんだよ?」
自信満々に、リサは言い放つ。
「僕も、リサくんに同じだよ。」
次はセドリックが。
「一人一人の力は、小さいものかもしれない。……けど、小さい力も、一つになれば大きくなる!やれない理由なんてない。」
セドリックは自分の胸に手を当てる。
「私たちは、どんな時でも一人じゃない!」
ユキナも立ち上がる。
「記憶が消されても、私たちはここまでなんとかやり遂げられました。それは、私たちがお互いを信じ、同じ方向を向いてきたから。私たちの進んできた道は、間違いじゃない。」
ユキナは目を瞑る。
「セラは、みんなと生きていければなんでもいいよ!」
セラも立ち上がる。
「セラ達は、一度世界を救った最強の戦士だよ!しかも、一度救った時よりこのホープは大きくなった。そして何より、今までよりも強い絆がある!不安なんて、何もない!」
セラは自信満々に言う。
「兄さん、私たちは兄さんを信じて、これからも頼ります。」
ヒメノもゆっくりと立ち上がる。
「だから、兄さんも遠慮せずに頼ってください。あたしを、リサさんを、ユキナちゃんを、セドリックさんを、セラさんを。それが私たちの本当の力、絆となって未来を照らす光になります。」
六人の目には眩しいくらいの輝きが。
これが、世界を救った若き英雄の姿。
そして、記憶を無くすという困難も共に乗り越えてきた仲間。
彼らの絆を邪魔するものは、どこにもない。
「ああ、ありがとう、お前ら。俺たちはホープ!未来の希望だ!これからも、全力でやってやろうぜ!」
「おう!」
全員が手を重ねる。
重なった六つの手は、窓からの日差しに照らされ光り輝く。
彼らの光を隠すほどの闇は、存在するのだろうか。
いや、この世界にはない。
なんといっても、彼らは一度世界を救った英雄なのだから。
彼らの後ろには光る道が出来上がり、これから先も明るい道を作り出すだろう。
また一歩、彼らは最強の戦士に戻った。
コンッコンッコンッ。
応接室のドアが叩かれる。
「ホープのみんな、ちょっといいかい?
ハリソンが外から声をかける。
「おう!任せてくれ!俺たち、ホープに!」
ホープの進撃は、まだまだ終わらない。
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