最強の俺たちが国王に記憶を消されたので、どんな手を使ってでも成り上がってやる件

第五十六話 怒りは彼の者を動かす

スノウは、全力で右手をナイフを持った男に伸ばす。

(ダメだ！死なせねぇ！)

が、

グサッ。

ポタッ、ポタッ、ポタッ。

「ぁっ、ぐはっ。」

男はナイフを腹に刺し、血を吐いて倒れる。

「っ！！くっ……。」

スノウは右手をそっと下ろす。

その場が静まりかえり、ロキは口を横に広げ笑みをこぼす。

「くっ！ロキ！君は、何をやってるのか分かってるのか！！」

「ああ、分かっているとも。これが、ぬしらを殺す最短の道よ！」

「この外道が！」

セドリックは怒りに身を震わせ、ロキに飛びかかろうとする。

だが、ロキの顔には余裕の表情。

「おっと、動くなよリーンベル隊長。これが見えるだろ？」

カタッ、カタッ、カタッ。

「ぃ、いやぁ！」

次は鎌を持った女の人が首を切ろうとしている。

「ホープよ、ぬしらがとった人質はたった一人。だが、拙者の人質はここにいる100人よ！！」

町の人たちがぞろぞろと動き始め、各々の武器を自分に向ける。

「なんてことを、やめろっ！ロキ！」

「安心せよ、リーンベル隊長。ぬしは殺さん。……ただ、邪魔者五人にはここで消えてもらうがな。」

「な、なにをーー。」

ロキは地面からふわふわと宙に浮き、3階建ての家の屋根に降り立つ。

「さあ！ホープよ、先ほど拙者に聞いたな！覚悟があるのかと！！そんなもの、当たり前よ！」

ロキは両手を広げ町の人達を締め付ける。

「あが、ぁ、あぁ。」

「く、くる、しい。」

町の人たちはもがき苦しむ。

「やめて！この人達には、なんの罪もーー。」

「虎の子よ。確かに、こやつらに罪はない。……だが、利用価値はある。貴様らを、殺すためのな！」

「あいつっ！」

リサは怒りで全身に力が入る。

「さあ、選択肢は二つに一つ！ここにいる100人を見捨て、自分の命を守るか。それとも、自分の命を捨て、100人の命を救うか！世界を救った最強の戦士よ、どちらを選ぶ。」

ロキはニヤリと笑みを浮かべ、人々の苦痛を喜んでいる。

「うぐ、あぁ。」

「た、たすけて。」

戦場は、呻き声に溢れる。

「くそっ、どうすれば。」

「セドリン、せめてあなただけでもーー。」

「リサくん、何を言うんだ！そんなことは出来ない！大切な、仲間を、みすみす失うなど……。」

セドリックを怒りと迷いが支配する。

「カウントダウンだ！最強の戦士達ホープよ。選択を、誤るなよ。5、4、」

「やばい、お兄！どうするーー。」

セラがスノウの顔を見るや否や、背筋が凍りつく。

それもそのはず。

スノウの顔には殺気が浮かび上がり、全てを凍らせるほどの迫力。

「殺す。」

ここからは、ほんの数秒の出来事。

(おい、スノウ。分かるな。)

(ああ、分かってるよ。あいつは、あいつだけは許さねえ。)

(そうだ、早く俺と代われーー。)

(フェンリル・テュール。俺に力を貸せ！)

(っ！？ははっ、面白い！)

サァーッ。

辺り一面が冷気を帯びたかの如く寒くなる。

「冷たっ！な、なに！？」

「ユキナちゃん！あれ！」

ヒメノとユキナはスノウの姿を一瞬、目に捉える。

しかし、まばたきをした途端、二人の目からはスノウが消える。

「3、2、……ん？狼の子はどこへーー。」

「ここだよ。ゲス野郎。」

約1秒で、スノウは15mは離れてたであろう、ロキの背後に立っている。

「な、なぜここに！？……だが、ぬしの選択は多くの犠牲を生むぞ！」

ロキは両手を動かす。

が、ぴくりとも動かない。

「むっ、なんだ、なぜ動かん。」

「動くわけねえだろ、もうお前の物じゃねえ。」

カチャッ。

刀を納める音が小さく響く。

「狼派三式改（ロウハサンシキカイ）！　瞬迅狼波刃牙（シュンジンロウハジンガ）！」

ボトンッ。

スノウは目で追えないスピードで、ロキの両腕を居合斬りで切り落とす。

その速さは、音を超えている。

だからこそ、ロキは斬られたことにすら気づけていなかった。

「ぬぁぁ！！何故、いつの間に！」

ロキがスノウの方を振り返ると、

「気を付けろ。今日の白い狼は、血に飢えてるぞ。」

スノウの片目が赤色、片方はいつもの青色に。

そして、髪の毛は真白に輝いている。

まるで雪のように。

「なんだ、ぬしのその姿は！？」

「知る必要はねえ、ここで消えるゲスにはな！」

「ちっ！」

ロキは頭を振りバンダナを振り解く。そして、何かが空に真っ暗な空間を生み出す。

「狼派七式改（ロウハナナシキカイ）！　剛翔餓狼撃（ゴウショウガロウゲキ）！」

逆手持ちの二刀が、空間ごと斬り裂くが如くロキの足目掛け振り下ろされる。

ザシュッ！

ボトンッ。

「うぐぁ！くそが！」

「これで終わりだと思うなよ。お前は地獄の果てに行こうが、斬り殺してやる。」

「くそっ、覚えとれ。白狼ーー。」

ロキは両腕と両足を斬り落とされ、暗い空間の中に消える。

バタッ、バタッ、バタッ。

操られてた人達が一斉に解き放たれる。

「あれって、お、お兄、だよね？」

「うん。でも、あたしが知るスノウとは何か違う。まるで、スノウとフェンリルが融合したみたい。」

セラとリサは呆気に取られる。

一つの悲劇がここにまた終息した。