第五十話 真実、新たな誓い
ドゴーンッ!
フェンリル・テュールの氷を纏った刀と、フェンリル・ヴァールの雷の如き閃撃がぶつかり合う。
「くっ、この勢い、僕たちも吹き飛びかねない……。」
周りの木々が嵐に襲われたかのように揺れ、建物も吹き飛ぶのではないかとガタガタ揺れる。
「兄さん、セラリウムさん。」
ヒメノ達はただただ見守ることしかできない。
ところ変わって、不思議な空間にスノウの意識はあった。
「ここは、どこだ?」
周りには真っ青な空間が広がり、先ほどの村とは場所が違うようだ。
「そういや、フェンリルと交代したんだったな。てことは、内側の世界か?」
「だ、誰?」
遠くから女の子の声が聞こえる。
「っ……セラリウム。」
「あ……スノウ。いたんだね。」
「ああ、てことはここが。」
「うん、フェンリル達が作り出した空間だね。」
二人は見つめ合い、その目を動かさない。
「なあ、セラリウム。教えてくれないか、俺とお前との記憶を。」
「うん、分かった。」
二人は背中をくっつけあい、座り込む。
「スノウはさ、うちの記憶が丸々抜けてるんだよね。」
「ああ、でも一つだけ覚えてることがある。いつまでも一緒だよって俺が伝えた。」
「っ!なんで、そこだけ覚えてるのよ……。」
セラリウムの拳に力が入る。
「でも、俺はその約束を守れなかった。」
「うん、でもそれはスノウだけのせいじゃない。……言ったよね、うちらは引き裂かれたって。」
「ああ、でもそれは俺たちが同じ能力、第六感を待ってたからだろ。」
セラリウムは背中を少し丸める。
「そう、それでね、FC計画の中には同じ能力の持ち主は一人だけいれば良かったの。だから、うちかスノウのどちらかが処分される予定だった。」
「はぁ!?なんだよそれ!」
スノウはセラリウムの方を振り向く。
「でも、昔から優しかったスノウはね、密かにクレイトス先生にこう告げてたの。」
「俺が、告げた?」
「そう、俺が狼流派のトップになる。だから、俺からセラリウムの記憶を消してくれって。」
スノウの目がまんまるになる。
「なんだよ、それ。俺は、なんでそんなこと。」
「言ったでしょ、スノウが狼流派を背負ってうちには密かに暮らすよう先生に頼んだんだよ。うちが、戦場に出ないようにって。」
「なんで俺は、そんな答えしか出せなかったんだ。」
「本当だよ!!」
ガゴンッ!
セラリウムはスノウに頭突きをする。
スノウは怯み少し後ずさる。
「痛っ!いきなりなにをーー。」
「なんで!なんでうちのことを忘れようとしたの!うちらってさ、たった二人の双子だよね!」
「そ、それは……。」
スノウは言葉が出てこない。
セラリウムの顔には涙が浮かぶ。
怒りと、悔しさをのせて。
「うちは、心底悔しかった!一緒に強くなって、うち達が二人いてもいい存在だって思わせてやるって!そう思って、初めは訓練してた。」
「セラリウム……。」
「でも、スノウ……お兄は違かった!セラが必要ないから、セラが邪魔だったからお兄は拒絶した。」
セラリウムの顔は涙でぐちゃぐちゃになっていた。
二人の時は、少しの静寂が支配した。
所変わり広場にて
「そろそろ、決着がつきそうだな。」
「そうね、あたし達もここら辺で!」
二匹の狼は力を集中させる。
周りの空気が寒さと痺れを感じる空間となる。
「さあて、仕上げだ!!
「これで終わらせる!
ゴォォッ!!
バキバキバキッ!
その空間を凍りつけにさせる氷の波と、全てを破壊する轟音とも降り注ぐ無数の雷がぶつかり合う。
「くっ、これで決まる。先輩か、セラリウムさんが勝つか。」
再び内側の空間に戻る。
「ねえ、お兄。セラは、お兄には必要なかった?セラは、そんなに邪魔だったーー。」
「違う!俺は、俺は……。」
咄嗟にスノウはセラリウムを抱き寄せる。
「俺は、セラを失いたくなかった。この世界で唯一の宝だから、俺は戦場に出て欲しくなかった。」
「え!?」
スノウの目にも涙が溜まる。
「でも、俺は選択を間違えた。俺から引き離すことで、セラが傷つくことを考えなかった。」
「……そうだよ、お兄のばかっ!なんで、なんで相談してくれなかったの。なんで、一人で全部決めちゃうの。」
セラは頭をスノウの頭にくっつける。
キュイーーンッ!
スノウの中にセラリウムの昔の記憶が流れ込む。
「なんで!なんで、お兄と離れなきゃなの!いやだよ!先生!」
「これが、スノウの選んだことなんだ。許してくれ。」
「嫌だ!セラは、約束したの!いつも一緒だって、セラ達は離れないって!」
セラの記憶をスノウは体感した。
「っ!……セラ、本当に、ごめん。たくさん傷つけて、辛い思いをさせて。……わがままなのは分かってる。でも一つだけ、こんなバカな兄貴を、許してくれないか。」
「っ……。嫌だ、許さない、絶対許さない!絶対!」
セラはさらに力強くスノウを抱きしめる。
「セラーー。」
「だから、埋め合わせをして。無くした10年間だけじゃない、お兄とセラが過ごしてきた17年間の。それが、お兄に求める償い。」
「セラ……。」
二人は見つめ合う。
「だって、セラ達は双子なんだから。」
セラリウムは微笑みスノウを見る。
「ありがとう、セラ。もう一回、約束だ。」
スノウとセラリウムは手を伸ばし、二人は指切りをする。
「もう一度誓う。これから先、俺たちは絶対離れない。どんなことがあっても、俺たちは同じ道を生きていく。」
「うん、セラも誓うよ。お兄に追いつこうと、たくさん力も付けたんだし、ちゃんと頼ってよね!」
「ああ、いこう、セラ。俺たちの、未来に向けて。」
所変わり広場。
「はぁぁ!!ヴァール!!」
「終わりです!テュール!!」
二人の氷と雷がぶつかり続ける。
広場には穴や木々に焦げが付いている。
そして、
バリンッ!
二つの攻撃は突如として終わりを迎える。
「ふふっ、やったわね。セラ。」
「さすがだな、スノウ。交代だ。」
シューンッ。
「
スノウとセラリウムは元の姿に戻る。
二人は弱々しくお互いの方に歩く。
「セラ、待たせちまったな。」
「本当に、大遅刻だよ。お兄。」
バタンッ。
二人はその場に倒れる。
「兄さん!セラリウムさん!」
四人は二人に走り寄る。
そこには、手を握り眠りにつくスノウとセラリウムの姿があった。
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