第四十四話 町の正義、審判の時

トレントおよび、ヘルマンティスを倒した後のブレイザブリクは怪我人で溢れていた。


主に、丸腰の男たちが。


セドリックは隊員からの報告を受ける。

「怪我人は、全員治療室および緊急用テントに運び込みました。」

「ありがとう。状況は?」

「怪我人、23名 死亡者、5 以上です。」


セドリックの拳が怒りで震える。


それも当然、この事件の首謀者はデュポンなのだから。


「王国で噂になってた、ブレイザブリクの異変。大人が毎晩急に消える。これは、本当にデュポン前隊長のやってることなのか。いや、否定しようにもさっきのはーー。」

「やあやあ、リーンベル隊長。」


テントの中にデュポンがズカズカと入り込んでくる。


セドリックの目は尖り、しっかりとデュポンを捉える。


「デュポン前隊長。いかがされましたか。」

「いーや、災難だったね。まさかあんなモンスターが現れるなんて。町にも被害が出てしまって、僕も悲しいよ。」

話してる時のデュポンの顔はまるで楽しい思い出を語るかのよう。


「一つお聞きします。あの丸腰の方々は、なぜ戦場にいたのですか。」

「さあね、怖くて家から逃げ出したら襲われちゃったんじゃないかい?」

「っく!」

セドリックは今にも飛びかかる勢いで顔を近づける。


「あなたは、何をしたいのですか!」

「僕かい?僕は、この町をにしたいんだよ。何か問題かい?」

「あなたはーー。」

「余計なことはしない方がいいよ。君のがどうなるか、僕は知らないよ?」

デュポンはバカにした話し方で、テントを出ていく。


「っ……。くそっ!」

セドリックは地団駄を踏む。


「さーて、僕のと遊んでこようかな〜。」

デュポンは優雅に歩きながら城に戻っていく。




「ペット、ね。」


その言葉をテント横にいたスノウは聞き逃さなかった。



「隊長!デュポン前隊長を告発しましょう!このままでは、この町が!」

「ああ、分かっている。だが、まだ状況証拠しかここにはない。なんとか証拠を集めないと。」

「ですが!そんなことしてたら、もっと多くの人たちが!」

セドリックは隊員たちと討論を繰り広げる。



しかし、答えは出ずにその日は夜を迎える。



辺りはなんの音もなく、静寂が流れる。

昼間の戦闘が嘘のようだ。


スノウたちは宿屋で眠っている。


「……っ。」

スノウはゆっくりと立ち上がり、同室のリサを起こさないように部屋を出る。


そして、宿屋を後にして城の方へ歩く。


「すやー、すやー。」

デュポンは高級な布で覆われたベッドですやすやと寝ている。


キィーー。


その部屋のドアが静かに開かれる。


「んー、むにゃむにゃ。」

「寝てんじゃねえよ。」


ゴツンッ!とベッドを蹴り込む。


「うわっ!な、なんだ!お、お前は!」

「通りすがりの冒険者さ。」

「な、何をふざけたことを!誰か!誰か!」

デュポンは慌てながら助けを呼ぶ。



が、誰も駆けつけてこない。


「ここに来るまでの奴らは、少し寝てもらってる。安心しな、誰一人殺してない。」

「ひ、ひぃ!」

デュポンは部屋から外へ逃げ出す。


その後を、スノウはゆっくりと追いかける。


月明かりがデュポンを照らすかのように、きれいな夜。



「はあ、はあ、はあ。僕は、こんなところで!」

デュポンは町の正門近くまで逃げる。


シュンッ!

何かがデュポンの真後ろに立つ。


「逃げるんじゃねえよ。この町のは血に飢えてるんだ。」

「ひぃっ!!」

デュポンは尻餅をつき、後ずさる。


恐怖のあまり彼の顔は、ムンクの叫びの如く細くなっている。


「わ、悪かった。もうこんなことはしない。だ、だから助けてくれ!」

「何をしたんだ?俺は知らない。お前がこの町でを。」

「金か!金ならいくらでも出す!だから、命だけは!」

スノウはジリジリとデュポンに近付く。


月明かりがスノウを照らした時、その姿は獲物を捕らえた一匹の狼のようであった。


「覚えてるのか。お前は。」

「な、何をだ?」

「そうやって、命乞いした人たちを……てめえは、。」

スノウは刀に手をかけ、その言葉だけで動物を殺めることができそうなほどの迫力。


デュポンは背中に川が流れるところまで後ずさる。


「わ、悪かった!一生かけて償う!この通りだ。」

デュポンは土下座をする。


「っち!」

スノウは背中を向け歩き始めようとする。



が、


「バカが!死ね!」

デュポンは背中から短剣を抜き真っ直ぐにスノウに迫る。


「このバカが!」

スノウは刀を抜こうとすると、


バゴンッ!


デュポンの足元が崩れ、川に落ちかけている。


「た、助けーー。」

「っ!」

スノウは手を伸ばそうとする。



しかし、デュポンの手を掴もうとはしなかった。


ザプーンッ!!

「あわ、あわわ!頼む!助けてくれ!」

「自分を知れ。お前はその言葉を。」

スノウの目は殺意が混じった氷のような冷たい目をしていた。


「あわ、あぶ、ぶ、ぶ。……。」


デュポンは川に呑まれ沈んでいく。



「……。」

その場は静寂に包まれる。


シャキンッ!


スノウの背後から剣が伸びて首の横に位置する。


「アクセプト。話を、聞かせてくれるかい。」

「ああ。いいぜ。」


その剣はセドリックのものであった。


それは一体、何を意味するのか。

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