第四十三話 ブレイザブリクの攻防

ヘルマンティスが小人のような人間を見下ろす。

その眼は、狩り取る意志に満ち満ちている。


「キシャァア!」

「合わせろ!リサ!」

「うん!」


体の大きさからは予想できない速さで、二本の鎌が振り下ろされる。


「遅ぇよ! 狼派七式ロウハナナシキ! 餓狼撃ガロウゲキ!」

「そうそう! 虎派八式コハハチシキ! 虎牙剛斬コガゴウザン!」


バキーンッ!

二人のスピードに乗った重い一撃は、鎌を弾き返す!


「ユキナちゃん!」

「任せて!」

ヒメノは瞬時に空を飛び、ユキナはヘルマンティスの頭の下に位置する。


「ガラ空きです! 鷹派六式オウハロクシキ! 嘴閃シセン!」

鮫派三式コウハサンシキ! 破甲槍ハコウソウ!」

空からはヒメノの嵐の如く降り注ぐ連続蹴り、

地上からはユキナの槍に込められた波動が迫る。


アギト!」

二人の感覚共有シンクロが発動し、ヘルマンティスの頭を歪める。


「ミギャァア!」

ヘルマンティスはこれまでに味わったことのない痛みで、よろめく。


その巨体のせいで、地面の所々に穴が開く。


「無駄に被害を出させたくない、動きを止めるぞ!」

「ならあたしが!」


リサは全神経を長剣に集中させる。

(あの六つの足を、焼き斬る!)


ピキーンッ!

リサの記憶が呼び起こされる。


火蛇レッドスネーク! ご飯よ! 虎派九式コハキュウシキ! 蛇虎炎帝ジャッコエンテイ!」

長剣に火が纏われ、地面を這う蛇のようにヘルマンティスの足を喰い尽くす。


ヘルマンティスの足は黒焦げになり、


「一気に斬り落とす! 狼派五式ロウハゴシキ! 円陣狼牙エンジンロウガ!」

焦げた足をスノウが回転斬りで斬り落とす。


「イッギャア!」

足を失ったヘルマンティスもやられるばかりではない。


大きな鎌を目一杯振り抜き、斬撃を家の方に放つ。


「くそっ!ユキナ!」

「任せてください! 壁になれ! 水面ウォーターサーフェイス! 鮫派五式コウハゴシキ! 逆槍陣サカヤリノジン!」


ズザーっ!


ユキナは斬撃に負けない速さで家の前に滑り込み、槍を地面に刺して水の壁を生み弾き返す。


「よそ見厳禁です! 鷹派一式オウハイッシキ! 三日月ミカヅキ!」

空を駆けて、ヒメノのサマーソルトがヘルマンティスの顎に入る。


「ヒギィッ!」

虫でも顎が弱点なのか、目が血走り再度よろける。


しかし、致命傷とまではいかない。



「くそっ、硬いやつだな。なら、ぶち抜くしかないか!」

スノウは両手に力を込め、血管が浮き出るほどに力を溜める。


「兄さん?なにをーー。」


ピキーンッ!

ヒメノの頭にスノウの考えてることが流れこむ。


(なるほど、合わせます!)

ヒメノはスノウの背中近くに降り立つ。


「リサさん!ユキナちゃん!動きを止めてください!」

「え?わ、わかった!」

リサとユキナは鎌を弾き続ける。


バキーンッ!バキーンッ!

火花が散り、戦闘の激しさが目に見える。



「いけるな、ヒメノ!」

「はい!イメージはできてます!」

「信じてるぜ、俺の妹! 氷付与アイスエンチャント!」


カチッカチッカチッ。

刀が氷で覆われる。二本の角のように。


「リサ!ユキナ!一瞬でいい、隙を作ってくれ!」


砂埃が立つ戦場で、スノウの声が二人の耳に届く。


「おっけい! 虎派八式コハハチシキ! 虎牙剛斬コガゴウザン!」

「任せてください! 鮫派六式コウハロクシキ! 鮫肌サメハダ!」


ジャキーンッ!

リサの全てを叩き斬る縦斬りと、ユキナの高速の回転斬りが二つの鎌を抑える。


「イギィィイ!」

「この町を、壊させない!」

「あなたは、ここで倒します!」




「いくぞ!ヒメノ!」

スノウは地面を割るほどの脚力で高く飛ぶ。


「いきますよ! 風槍ウインドランス展開! 鷹派八式オウハハチシキ! 竜巻タツマキ!」

ヒメノはブーツに風を発生させ、竜巻をヘルマンティスへ向けて放つ。


その中には、スノウも入っている。

(この風なら、あいつを貫ける!)


ヒューッ!!


竜巻がヘルマンティスに直撃し、少し後ずさる。



そして、


「俺のイメージを、具現化する! 回転!」

スノウは竜巻の中でさらに回転して、一つの大きな氷のドリルのようになる。


風に運ばれて、周りの空気も氷のように冷たくなる。


「ヒギャ!?」

逃げ出したいヘルマンティスだが、リサとユキナの攻撃を防ぐので精一杯。


「俺らに出会ったのが、運の尽きだ! 狼派十式ロウハジュッシキ! 氷山一角ヒョウザンノイッカク!」


キュイーーンッ!……バンッ!



ヘルマンティスの胴体を、スノウの氷の槍が貫通する。


コロンッ。


ヘルマンティスは鎌素材に変わる。


ズザーッ!

スノウは回転を止め、地面を削りながら止まる。


「はぁ、はぁ、予定通りってとこかな。」

「スノウ!!さっすがー!!」

リサがスノウに飛び付く。


「おっとっと、いきなり飛び付くな。」

「だって、あんな技あったなんてやっぱりスノウがあたし達のだね!」


スタタタッ。

ヒメノとユキナも小走りで合流する。


「兄さん、怪我は?」

「大丈夫だ。それよりもあの竜巻、超便利だな!」

「そ、それは、ありがとうございます。」

ヒメノは頬を赤らませる。


「じゃなくて、村の人たちの治療をしますよ!怪我人がたくさんいるんですから!」

「そうだね、いくよ!みんな!」

四人は武器をしまい、怪我人の治療を始める。




「セドリック隊長……これは本当に。」

「ああ、噂は本当だったんだ。……でも、どうすれば……。」


セドリックは胸に手を当てて悔しい表情。



この騒動の正体は、言うまでもない。




デュポン。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る