第二十八話 少女の過去、責任とは

「う、うん?ここ、は?」

「起きたか、ユキナ。」

「せ、先輩?」


ガサッ、ガサッ。

ユキナは体を起こす。


「大丈夫か?痛むところは?」

「大丈夫です。特に怪我はしてませんし、緑鮫ヨルムンガンドのおかげでなんとか退けられました。」

「すごいよ、ユキナは。一番冷静な暴走だった。」


サラッ、サラッ。

スノウはユキナの頭を撫でる。


「な、何するんですか!?」

「ユキナが、俺とヒメノと出会った時のことを思い出したんだ。あの時も、手を差し伸べたのはユキナが一番早かった。」

「そ、そうでしたかね。」




ユキナは五歳の頃初めてスノウとヒメノに出会った。


それは晴天の時、小さい公園で事件は起きた。


タッ、タッ、タッ!

「ユキナちゃん!こっちで遊ぼう!」

「うん!待ってよ!アヤちゃん!」

ユキナには当時アヤセという女友達がいた。


「ここの砂場大きいね!何作る?」

「お山作ろう!アヤちゃんシャベル貸して!」

二人は仲良く砂場で遊んでいる。


タッ、タッ、タッ!

「兄さん!私ここで遊びたい!」

「分かったから、そんなに走るな!ヒメノ!」

公園にはヒメノとスノウも入って来る。


「あ、他の子も来たよ!ねえねえ!二人も一緒に遊ぼ!」

アヤセからヒメノとスノウに声をかける。


「え、あ、あの……。」

「せっかくだし、混ぜてもらおうぜ!……ありがとう!」

ヒメノとスノウはユキナとアヤセのところに向かう。


「初めまして!あたしはアヤセ!」

「ゆ、ユキナ、です。」

ユキナは少し恥ずかしがっている。


「僕はスノウ。こっちは、妹のヒメノだ。」

「よ、よろしくね。」

四人は徐々に打ち解けていく。


「大きいお山できたね!あたしたち天才かも!」

「すごいねアヤセちゃん!兄さん、これ持って帰れるかな?」

「持って帰るにはちょっと大きすぎるよ。」

四人はもう友達になれたようだ。


「ユキナちゃんは、僕たちが苦手?」

「あ、いや、そんなことないです!少し、緊張しちゃって。」

「スノウ君!女心ってものを分からないとこれから大変だよ!」

アヤセがおちょくる。


「女心?なあにそれ?」

「スノウ君にはまーだ大人な会話だったかな〜。」

「なんだよ!アヤセちゃんの方が子供だろ!」

賑やかな公園。


木々は優しくゆらめき、風は静かに彼らの笑顔を運ぶ。


「そろそろ帰ろうか!」

「うん!二人とも今日はありがとう!」

アヤセが立ち上がり、ユキナもお礼を言う。


「こちらこそありがとう!」

「楽しかった!また遊ぼ!」

四人は同じ方向に歩き始める。


「あ、家こっちなの?」

「うん、僕もヒメノもあの道の奥なんだ!」

「あ、じゃあみんな家近いね!」

四人は道を歩く。


何気ない普段の1ページ。


「じゃあ、またいつでも遊べるね!」

アヤセは振り返って笑顔を向ける。


「うん、僕たちも嬉しいよーー。」


ガタンッ!ガタンッ!

スノウの視線に、道の端から出てきた馬車がアヤセの方に向かう。


酒に酔っているのだろうか、馬車を引く者は全くスピードを緩めない。


「アヤセちゃん!危なーー。」

「アヤちゃん!」


ズザッ!

ユキナは全速力でアヤセに手を伸ばす。


「っえ?」


カゴーンッ!

ヒヒーンッ!


「アヤちゃん!!」

ユキナの眼前には血を流して倒れるアヤセの姿。


「に、兄さん。アヤセちゃんが!」

「分かってる!大人を呼んでくるから待ってて!」


ダダダダダッ!

スノウは急いで大人を呼びにいく。


「アヤちゃん!アヤちゃん!」

「ユキナちゃん……。」

ユキナが掴んだアヤセの手がするりと落ちる。


「っ!アヤ、ちゃん。」

それから村の病院に運ばれ、重症だったアヤセは大きい病院があるグラズヘイムに運ばれた。


そこでアヤセとの関係は途切れてしまう。




「私のせいで、私のせいで。」

ユキナは自分の部屋の隅で自分を責めている。


私が公園に誘わなければ、アヤちゃんは怪我をしなかった。

これからももっと笑っていられた。


ユキナの頭の中をアヤセの笑顔が、気を失う寸前のアヤセの顔が浮かぶ。


ドンッ!ドンッ!ドンッ!

「ユキナちゃん!ユキナちゃん!」

ドアの外からスノウの声が聞こえる。


「……スノウ、くん。」

「ユキナちゃん、入るよ。」

「う、うう。」


キィーッ。

ユキナは涙を流している。


「っ!ユキナちゃん!」

スノウはユキナの頭を自分の胸に埋める。


「スノウくん、私、私。」

「ユキナちゃんのせいじゃない。自分を責めないで。」

「でも、でも……。」

スノウはユキナの髪を撫でる。


「ユキナちゃんは一人じゃない。もし、ユキナちゃんが悪いと感じるなら、僕も同じ。僕も悪者。」

「そんな、スノウくんはーー。」

「僕だって、アヤセちゃんを助けられなかった。だから、。」

スノウはユキナをまっすぐ見つめる。


「ユキナちゃんは、。」

「スノウくん、う、うう。」

ユキナは大きな涙を流した。




時は現実に戻る。


「ユキナは頼りになる分、一人で背負いすぎるのが悪い癖だ。」

「そんな、私はただ……」

「責任を持つのと、のは違うぞ。一人でなんでもできる人間なんて存在はしない。」

スノウはユキナを撫でる。


「ふふ、ありがとうございます。先輩。」

「ユキチン!起きてる!?」

リサが部屋に入ってくる。


「え、あ、リサさん!?」

「あ、ごめん!邪魔しちゃった??」

「ん?邪魔ってなんのだ?」


ボフッ!

スノウに枕が飛んでくる。


「ぶはっ。何するんだよ、ユキナ!」

「知りません!先輩の、バカ!」

「はーあ、にぶい男ってのはどうしてこう。」

三人は賑やかに話し合う。


「あ、皆さん揃ってますね。」

「ヒメチン。どうしたの?」

「ソーン村長から、大切なお話をしてもらえるみたいです。みんなで、会議室に行きましょう。」


タッ、タッ、タッ。

四人は会議室に向かう。


この世界の、ホープ部隊。これから先も彼らにはいくつもの困難が立ちはだかる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る