第二十七話 正義とは何か

「やはり理解できない。なぜ、オーディン様のために力を使わない!」

「オーディンねえ、うちはあの人に正直もう関わりたくないのよね!」


バキーンッ!

槍のぶつかる音が響き渡る。


「くっ、こんな力があるのに!」

「力にこだわりすぎるのよ、あなた達は! 鮫派六式コウハロクシキ! 鮫肌サメハダ!」


ザシュッ!

ヨルムンガンドの回転斬りがゲイルを襲う。


「ふっ、そのスピードでは……っな!?」

ゲイルの腕から血が流れる。


(なぜだ、あの槍は完全に避けたはず。)


「不思議って感じの顔してるわね。うちの槍だけ見てたら危険よ。」


ピトッ、ピトッ。

ヨルムンガンドの右腕のヒレに血がついてる。


「なるほど、厄介な女だ!」


バサッ!

ゲイルは翼を広げ空を飛ぶ。


「あらあら、空飛ばれちゃったら攻撃届かないわね。」

「そうだろうな!お前に勝ち目は、初めからない!」

「本当にそうかしら?」

ヨルムンガンドは槍を縦に構え、刃を地面に刺す。


「死にな! 戦姫中式センキチュウシキ! 破竜槍ドラゴンランス!」

ゲイル自身が一つの竜のように空から降り注ぐ。


「哀れな戦士よの。緑鮫中式リョッコウチュウシキ! 波協奏曲ウェーブコンチェルト!」

槍を振り上げると同時に、水でできた鮫が獲物を喰らうかのようにゲイルを襲う。


ガキーンッ!


竜と鮫がぶつかり合う。


二つの衝撃で水飛沫が上がる。


「ちっ、まだまだーー。」

「あなたはもう、うちの手のひらの上よ。」

「なにっ!」

ヨルムンガンドは緩やかにゲイルに近づく。


「ふっ、舐めてるのか!飛べないお前に、勝ち目などーー。」

「飛べれば、いいわね。」

「んなっ!」

先ほどの水飛沫で濡れた翼が、自由に動かせなくなる。


「な、なぜだ。なぜ私の翼が!」

「うちは水の魔法使いや、つまり水に触れた時点であんたはお終いよ。」

「こ、この!」


ブンッ!

ゲイルが槍を投げる。


鮫派七式コウハナナシキ! 鮫様舞シャークダンス!」


スサーッ。

ガギンッ!

ヨルムンガンドは海を泳ぐ鮫のように、さらりと槍を避けゲイルの右翼を切り落とす。


「うがぁ!!」

「痛いやろ。じゃが、あの子供が受けた心の痛みは、こんなものではないぞ!」

「う、くそ!上限解放バースト! 開始オン!」


バサッ!バサッ!

ゲイルは力を解き放ち水を振り払い、片翼で空を飛ぶ。


「くそっ、ここまでやられてはオーディン様に負担が。」

「逃げるのかえ、まだうちのショータイムは始まったばかりというのに。」

「はん、とりあえずあんた達を生かしておく価値はないと認識できた。オーディン様に報告しないとね。」

ゲイルはセドリックの方を向く。


「おい、人間の隊長さん!早く撤退するよ!」

「あ、ああ。分かったーー。」

「待て!セドリック!」


ガシッ!

スノウはセドリックの腕をとる。


「な、なにする!」

「おいあんた、本当にオーディンの元に戻るのか。」

「どういう意味だ。」

セドリックはスノウを睨む。


「俺にとってオーディンは敵、お前にとってトップは敵。それははっきりしてる。ただよ、。」

「僕の正義、だと。そんなの、オーディン様が目指す新しい世界ーー。」

「オーディンは関係ねえ!俺は、を聞いてるんだ!」

スノウは真剣な眼差しでセドリックを見る。


「僕の、正義……。それは。」

「何してんのさ!早くしな!」

「あ、ああ。」


ファサッ。

セドリックはスノウの手を外し、ゲイルの方に向かう。


「セドリック!」

「スノウ、僕の正義は……を作ることだ。それは、に至る。」

セドリックは言い残し、ゲイルに捕まり空を飛んで撤退する。


「ふー、さすがユキナね。お疲れ様。」

ヨルムンガンドはユキナの姿に戻る。


「えほっ、えほっ、良かった。助け、られた。」

「ユキナ!」


ズザーッ!

倒れる寸前でスノウがスライディングでユキナの体を抱える。


「先輩、私にも、出来ました。」

「ああ、すげえよ。ユキナはやっぱり、誰かを思いやれるいいやつだ。」

「ありがとうございます。先輩……。」

ユキナは眠りにつく。


「兄さん!ユキナちゃんは?」

「ああ、眠ったよ。俺たちと同じく、疲れが溜まったんだろ。」

「さすがユキチン、暴走したとは思えないくらい冷静に勝ったね。」


ビフレストは二度の襲撃を凌いだ。


二度目の襲撃では村の損壊はほとんどない。

間違いなく勝利であった。



戦闘から30分後。



「ソーン村長。お話いいですか?」

ヒメノがソーンに話しかける。


「ん、ああ。ヒメノ君。どうしたんだね?」

「今回は、本当に申し訳ありませんでした。」

ヒメノは直角に謝罪をする。


「な、何を。君らは何も。」

「いえ、私たちがいたからこの村は二度も襲われてしまいました。これは、私たちの責任です。」

「それは違うよ、君らのせいではない。これは、私たちが選択したことなんだ。」

ソーンはヒメノの頭を上げさせる。


「どういうことですか?」

「私たちを含め、国王オーディンに思うところがある者は少なくない。だから、勝手に君たちにを託してしまっていた。」


ガタッ。

ソーンは椅子を立ち窓の外を見る。


「ユキナ君が目を覚ましたら、君らに話せることを全て話そう。」

「わ、分かりました。」


ホープの四人は孤独な戦士……ではなかった。

彼らに希望を抱く者がいる中、ホープの四人は何を成すことが出来るのか。

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