第二十六話 最後の暴走、戦乙女現る
「君らの行いのせいで、ビフレストの村長はオーディン様に裁かれる。心に刻んでおくようにな。」
セドリックがソーン村長の縄を引こうとした瞬間、
ガシッ!
「おい、待てよ。」
スノウがセドリックの腕を掴む。
「君、何をしている。」
「待てって言ったんだよ。話ぐらい聞きやがれ。」
「聞く必要はないさ、オーディン様に従ってるだけなのだから。」
「この堅物野郎ーー。」
シュン!
女兵士の槍が飛んでくる。
「っち!!」
「兄さん!」
ズザーッ!
スノウは持ち前の
「ゲイル!彼らを殺せとの命令は出てないぞ!」
「これは失礼しました、セドリック隊長。」
ゲイルと呼ばれる女兵士は、真っ赤な金属の装備を全身に着て、赤い槍を先程投げた。
背中には、翼が生えている。
「兄さん、怪我は!?」
「大丈夫だ。こいつ。」
「我々に従わないから、あなたを串刺しにしてしまうところでしたわ。」
ジャキンッ。
ゲイルは不敵な笑みを浮かべながら槍を引き抜く。
「スノウ君、わしは平気じゃ。グラズヘイムに行って、理由を話せばお分かり頂けるはずじゃ。」
「ソーン。……なあ、セドリック。一つ教えろ。何でわざわざグラズヘイムにまで連れていく必要がある。」
「どういう意味だ?」
スノウとセドリックは目を合わせる。
「俺らを匿ったことが罪なら、俺らを連れてくか、この村でソーンに罪を償わせればいいんじゃないのか。」
「そんなこと、君が知る必要はない。」
「ソーンを、殺すつもりなんだろ。」
「そんなことはしない!我が国王オーディン様は、寛大なお方。国の契に沿って、公平な裁きをされる!」
二人の会話が熱を帯びる。
★契……この国における法律のようなもの
「国の契か、その契は本当に正しいのか。」
「何を?契は、正義のもとに発令されたこの国をより良くするためのもの。その正義を愚弄するか!」
「その正義が、絶対に間違わないっていう確証がどこにある!!」
「っ!」
セドリックは言葉を詰まらせる。
「その契に沿って連れてかれた人達は、本当に生きてるのか?片っ端から、オーディンが邪魔と判断したやつは、消されてるんじゃねえのか?」
「そ、そんなことは……。」
「はあ、これだから人間の隊長は……使えない。」
グンッ!
ゲイルは近くにいた子供を人質に取る。
「なっ、お前!」
「何してる!ゲイル!」
「早くこの村の村長も、あんた達ホープもグラズヘイムに来な!でないと、この子の命は無くなるよ。」
「この外道が!」
カチャッ!
スノウは武器を構える。
「おっと、私は脅しでこんなことしてるのではない。……そうか、まずは証明をしないといけないね。」
「い、いやだ!助けて!」
子供が泣き叫ぶ。
「ゲイル!命令だ、やめろ!」
「人間の甘ちゃんに、この世の厳しさを教えてあげる!!」
「やめろー!!」
ブンッ!
ゲイルの槍が子供の頭上に向かう。
「いや、やめて。」
ボワーッ!
ユキナの周りに緑の光が集まり始める。
「ユ、ユキチン!?」
「いやだ、死なせない、もう、後悔したくない!!」
ドクンッ!ドクンッ!
ユキナの心臓が大きく叩く。
(ユキナ、うちの力を使えそうかい?)
(自信なんてないです。けど、あの子を守りたい、そのためなら何でもする!!)
ユキナは過去の記憶の中に、手を伸ばし助けを求める人が目の前で消え去る情景を思い出す。
(私は、誓ったんだ。もう、後悔はしないって!!)
(いいわ、使いなさい!うちの力を!!)
ドガーン!!
ユキナから緑の光が立ち上る。
「なっ、ユキナ。」
シュンッ!
ガシッ!
目にも止まらぬ速さで、ユキナは赤い槍を手で掴む。
「なにっ!?」
「放しなさい、その血に染まった手を!」
「ちっ!」
ゲイルは距離を取る。
「お姉ちゃん、ありが、とう?」
「よく頑張ったね、ここは危険だから、あっちのお姉さんのところに行っておいで。」
「う、うん。」
ダッダッダッ!
子供が驚いたのも無理はない。
ユキナには、両手にヒレが生え、尾ヒレも生えている。
そのヒレにはトゲトゲがついており、触れただけで切り裂かれそうである。
「
ユキナ、もといヨルムンガンドが誕生した。
「オーディン様からのデータにない個体、あんたがヨルムンガンドってことね。」
「あら、うちのこと知ってくれてるなんて、光栄ですわ。」
「ふん、オーディン様の配下だったやつ如きが、私に勝てると思うなよ!」
ガチャッ!
ゲイルは槍を構える。
「うふふ、同じ槍使い同士、仲良くしたいのだけど難しそうね。」
「たわけ!」
シュンッ!
ゲイルが槍で突進する。
「
「
バギーンッ!
ゲイルの竜の如き突撃と、ユキナの光速の突きがぶつかり合う。
ブワンッ!
衝撃で周りの木々が揺れ動く。
「兄さん、ユキナちゃんも。」
「ああ、これで俺たち全員が力の暴走をしたことになるな。……死ぬなよ、ユキナ。」
カキーンッ!カキーンッ!
槍と槍が激しくぶつかり合う。
「やはりあんたは、ここで殺さないと危険だ!」
「そんなこと言わないでちょうだい。まだうちらは、あの子達と冒険途中なのだから!」
ユキナもついに力の暴走をした。
ゲイルとヨルムンガンドの戦いは、熱を帯びていく。
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