第二十五話 過去の記憶、新たな訪問者

「なんでオーディンは、ギムレーを支配したいんだ?」

「詳しい理由は俺にも分からない。ただ、あいつはこの国を自分のものにしたいとはよく言っていた。」

「なるほどな、まあ、俺たちの敵ってことは確定したな。」


ギリッ。

スノウの拳に力が入る。


「ねえ、グリンカンビ。あたし達がなくした10年間の記憶は、あなたたちも無くしてるんですか?」

「いいえ、あたし達は残っているわ。ただ、あなた達の経験を記憶してるだけだから、あなた達の記憶と全く同じとはいかないけど。」

「そしたら、可能な範囲で教えてもらえませんか?」

フェンリル達は言葉を詰まらせる。


「どうしたの?グラニ、何かあるの?」

「リサよ、どんな現実でも受け止める覚悟はあるか?」

「え?それって、どういう……。」

リサは少し怯える。


「ユキナ、無理に聞く必要はないものよ。うちらの中には残ってる記憶だから、その時になったら話すのでも構わない。」

「多分、いや99%辛い現実なんでしょうけど、それを受け止めないと、前に進めない気がするんです。」

「そう。みんなもそれでいいの?」


スノウ達四人は強く頷く。



「ならば、まずは一つ皆に伝えよう。」

フェンリルが話し始める。


「お前達四人は、この世界に生き残ったという希望。お前達が無くした10年間は基本修行に打ち込んでた時で、5万人の頂点に達したのがお前達だ。」

「やっぱりそういうことか、確認だが……俺ら以外のトップになれる候補達は?」

「逃げ出した者もいたが、大半は。」


ズーンッ。

その場が静寂に包まれる。


そう、薄々感じてはいたが、英雄になった彼らの下にはいくつもの屍が重なっているのだ。


「うっ!えほっ、えほっ。」

「ヒメチン!」

咳き込んでしゃがむヒメノに、リサが寄り添う。


「私達のせいで、5万人が命をーー。」

「それは違うわ!」

「ヨルムンガンド……。」

ヨルムンガンドは四人の方を向く。


「確かに、あなた達は選ばれしトップになった。だけど、それは他の人達の犠牲、そしてあなた達の生きる努力が今の結果に繋がっているの。」

「うむ、その通りだ。おぬしたちは、胸を張らないといけない。」

ヨルムンガンドに続きグラニも話す。


「あなた達が責任を感じてしまうのは、。その感情は、これからも保っていてほしい。」

「そして全ての根源は、FCを発令したオーディンだ。やつしか、答えを持たず知る方法もない。」

グリンカンビとフェンリルも同じく話す。


「ああ、予想通りしんどい記憶だったが、なんとか頑張ってみるよ。」

スノウが四体の方を向き答える。



「スノウ、ヒメノ、リサ、ユキナ。一つだけ忘れるな。今のお前達はのホープ部隊だ。過去に囚われるな。未来を掴み取ってくれ。」



フェンリル達四体は頭を下げる。


「そうか、だから俺たちはホープ部隊……ってことなんだな。……なあ、フェンリル、グリンカンビ、グラニ、ヨルムンガンド。」

「なんだ?」

「これからも、俺たちに力を貸してくれるか?」

スノウの真剣な眼差し。


ヒメノ、リサ、ユキナも四体を見つめる。



「ふっ、愚問だな。当たり前だ。そのために、俺らはお前達の中にいる。いくらでも頼れ。」

「ああ、ありがとう。」

四人と四体は向かい合う。


「ここに再度誓おう。」

「ああ!」

全員が一斉に唱え始める。



「我ら、いつ如何なる時も、生死を共に希望を胸に、壁を乗り越え最後まで生き抜くことをここに誓う!」


不思議と、全員が同じ言葉を同じタイミングで発した。


謁見の間が不思議な光に覆われる。



ここで、彼らは再び戦い抜くことを誓った。



「俺たちはこれから、フォールクヴァングに戻る予定なんだが問題ないか?」

「お前達に任せる。我々は、基本戦闘にしか関与はあまりできんのでな。」

「分かりました。そしたら、また話したくなったらこの場所に来ればいいんですね。」

「その通りよ!」


ザッ、ザッ、ザッ。

四人は謁見の間を後にする。


「さあて、まずはビフレストに戻るーー。」


カンッ、カンッ、カンッ!


ビフレストから警報の鐘がなる。


「っ!?敵襲!?」

「みなさん!急ぎましょう!」


ダダダダダッ!

ヒメノを先頭に四人はビフレストに戻る。


「グレイ!何があった!」

「おお、スノウ!みんなも!」

「敵襲ですか?……でもなんの音もしない気が。」

ヒメノの地獄耳ジゴクミミにはなんの反応もない。


「いや、敵……というか、やつが来たんだ。」

「やつって……人間?」

ヒメノの千里眼センリガンで100m先の人達を見る。


「村長と誰かが話してる。」

「相変わらずいい眼だな、行くぞみんな!」


スタッ、スタッ、スタッ!

スノウ達は村長の元に向かう。


「ソーン村長!」

「ヒメノくん、みんなも。き、来てはダメだ!」

「へ??」

ソーン村長の手に縄がかけられている。


「君たちが、ホープ部隊か。」

「だったら何だ、金色野郎。」

「これは失礼した。」


金色の装備をした男が頭の防具を取る。


「僕は、セドリック・リーンベル。ヴァルキュリア戦隊の戦隊長だ。」

「ヴァルキュリアって、王国直属部隊!?」


カチャッ。

リサは長剣を構える。


「貴様、なにをしてる!」


ブンッ!

隣の女兵士は槍を構える。


「セドリックさん、あなた達は私たちに用があるんですよね。なら、ソーン村長は関係ないじゃないですか!」

「勘違いをしてるのではないか、君たちは。これを見てみなよ。」

セドリックは一枚の紙をかざす。



〈王国に反旗を翻す者、及びホープ部隊と協力関係にある者を速やかに連行すること。これは、国王オーディンの勅命である。〉



簡単に言えば、指名手配書がかざされていた。


「な、なんで。」

四人は驚きのあまり、動けない。


「もちろん、ソーン村長はこのことを前もって知ってたはずですよね。」

「むぅ……。」

「村長、なんで……何でそこまでして、俺たちを!」

「わしも、希望を託したかったのかもしれんな。」


突如としてビフレストに現れたヴァルキュリア戦隊。

彼らは何を目的としているのか。

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