第二十話 刃で言葉を交わす英雄たち

トールはリサの姿を見て理解する。


「ほう、貴様はトップの人間……だけではないな。」

「そうだな、ぬしの言う通りだ。トール、わしの主人はぬしをぶっ潰したいらしい、許せよ!」

「その雰囲気、貴様、グラニーー。」


シュンッ!

トールの発する言葉が終わる前に、リサ……もといグラニが寸前まで迫る。


虎派二式コハニシキ! 白虎ビャッコ!」


ズンッ!

グラニの斬り上げが、トールをかすめる。


バゴンッ!

その剣圧は、村の岩を砕く。


「なんて馬鹿力、貴様はやはり規格外だな。」

「余裕かましてられるかの!」


バキーンッ!ドゴッ!

トールとグラニの激しい攻防が繰り広げられる。


「兄さん!リサさんが!」

「分かってる、どこかのタイミングで止めないと、リサが危ねえ。」

「けど、あの状態に入り込むなんて命を捨てるようなものですよ。」

三人は戦いを見つめる。


魔神初式マジンショシキ! 雷光弾サンダーボルト!」


バチッ!バチッ!バチッ!

トールが無数の雷の弾を撃ち出す。


赤虎初式シャッコショシキ! 大咆哮ダイホウコウ!」


ゴォォー!!

グラニの空間を歪めるほどの咆哮で、雷の弾をかき消す。


「その芸当ができるとは、やはり本物か。」

「当たり前よ!こんなもので、我らの怒りを払拭できると思うでないわ!」


カチャ。

グラニは長剣を肩に乗せる。


「燃えよ! 火鳥レッドバード! 虎派五式コハゴシキ! 赤飛剣レッドサーベル!」


ボォォ! ヒューイッ!

長剣に火が纏わり、鳥の如く射出される。


「なぬっ、合体技クロススキルだと!」


ガギーンッ!

トールはハンマーで受け流す。


ポトンッ。

ハンマーがひび割れ、カケラが落ちていく。


「ちゃんと見てないと、火傷してまうで!」


シュンッ!

一瞬でトールに近付き、


赤虎中式シャッコチュウシキ! 猛虎双爪撃モウコソウソウゲキ!」


「くっ! 魔神中式マジンチュウシキ! 雷槌砲トールハンマー!」


バゴーンッ!

雷を纏ったトールのハンマーと、グラニの火を纏った両手がぶつかり合う。


「くっ、貴様らは、なぜ記憶が残っておる。」

「さあな、自分で考えるんやな!」


グンッ! ドゴーンッ!

グラニはトールの攻撃を弾き、吹き飛ばす。


「ぐはっ、グラニとやり合うのは部が悪いな。」

「もう終わりか、トール。」


スタッ。

グラニはトールの前に立つ。


「わしらは、オーディン様の目指す未来のために集った。そうではないのか?」

「初めはな。……だが、あやつは間違いを犯した。誰にも許されてはいけないことをな。」

「貴様は、を引きずるというのか。」


ズーンッ!

周りの空気が重くなり、グラニの顔が一気に険しくなる。


「まだ、だと。ふざけてるのか!!」


シュンッ! ガギーンッ!

グラニの長剣がトールに降り注ぐ。


「ぐぬぬ、なんという力。」

「あやつはな!間違ったんじゃよ!選択をな!」

「じゃが、あれは仕方のないことーー。」


グンッ!

さらにグラニの力が増す。


「仕方のないだと!あやつの判断で、!!」

「この国のためじゃ!新しいものを作るのに、犠牲はつきものーー。」

「だったら何人死んでもいいってのかい!犠牲の上に成り立つ国なんて、そんなのただのじゃろうが!」


パキーンッ!!

トールのハンマーが真っ二つに割れる。


「くっ!」


スタッ!

トールは迅速に距離を取る。


「逃げるのかえ、トール。」

「不本意ではあるが、貴様がそちらにいるということは、他の奴らもそっち側にいるのだろう。」

「さあて、どうじゃろな。」

二人の視線がバチバチとぶつかる。


「状況は把握した。グラニよ、後悔するなよ。」

「せんよ、自分の道を信じて決断したんじゃ。貫き通すだけよ。」

「そうか、ならばこちらも総力を上げて貴様らを排除する。せいぜい、生きてみせよ。」


パキンッ!

トールは黒い結晶を取り出し、その場から消える。


「逃げたか、いい判断だ。」

グラニは力を抜く。


「リサよ。ぬしに返そう。ぶっ潰すことはできんかったが、この村は守れーー。」

(許さない。)


グラニは内側のリサの怒りを感じ取る。


「やめよ!リサ!」


(許さない、許さない、許さない、許さない、許さない!!)

グラニの中のリサが狂乱状態となっている。


「リサ!もう、ぬしの敵は、いないぞ!」

グラニの意思を無視してリサの体が動く。


ズサッ!ズサッ!


その向かう先には、避難所が。



「リサさん!どうしたんですか!」

「もうトールは逃げました!リサさんも元に戻ってーー。」

ヒメノとユキナが声かけた途端、


シュンッ!

スノウは全速力で走り出す。


(あいつ、正気を失ってる。何しようとして!)


ザザザッ、ザザザッ。

リサは長剣を引きずりつつ避難所に向かう。


「許さない、許さない……許さない!」

グラニの力を発動したままのリサは、リサの意思で長剣を持ち上げる。


虎派五式コハゴシキ! レッドーー。」

「やめろー!」


バキーンッ!

スノウは刀を構え、リサの長剣とつばせりあう。


「やめろ、リサ!お前、今何をしようとしてるのか、分かってるのか!!」

「許さない、許さない、許さない!」

「くそっ!完全に呑まれてやがる。」


ガギーンッ! ザザァーッ。

スノウはリサと対峙する。


「暴走状態のお前と、戦うなんてな。……でも、安心しろ。お前には、何も壊させない!」

「許さない、許さない、許……さない!!」


ピキーン!

リサから赤い光が立ち上る。


グワァァーンッ!

トールと戦った時と同じ力を放ち、周りの木々が揺れ動く。


「俺が、必ず止める!白狼フェンリル 俺に力を貸せ!」

スノウは青い光を刀に纏う。


「うがっー!!!」

「お前の怒り、俺が受け止めてやる。だから、怒りに負けるなよ……リサ!!」


バキーンッ!

スノウとリサの激しいぶつかり合いが起きる。


トップ同士、仲間同士の戦いが始まってしまった。

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