第十九話 村を救った英雄は休めない

ところ変わって、ヒメノとユキナの西門サイド。


「ヒメノちゃん!この辺りに村の人はいるかわかりますか!?」

「足音からして、ゴブリンの音しかしません。ここの八体を倒せば大丈夫です!」

「わかりました!」


スタタタタッ!

二手に別れ、一体ずつ倒して行く。


鷹派一式オウハイッシキ! 三日月ミカヅキ!」

鮫派一式コウハイッシキ! 断鮫ダンコウ!」


ダゴンッ! ズシャ!

ヒメノのサマーソルトが、ユキナの重い一撃がゴブリンを襲う。


「ギィギャー!」

二体のゴブリンが避難所の方に逃げ出す。


「あ!あっちは避難所が!」

(今の私の鷹派オウハの攻撃じゃ、横並びの二体は倒せない。どうすれば……)


「ヒメノちゃん!私が!」

ユキナがヒメノに向かって走ってくる。


「え、なにをーー。」

(この感覚、まさか感覚共有シンクロ?)

(ヒメノちゃんとなら、できる!)


ザザッ!

ユキナはヒメノに向かって高く飛ぶ。


鷹派二式オウハ二シキ! 鷹弾イーグルシュート!」


ズドンッ!

高く飛んだユキナの足をうまく蹴り、ゴブリンに向けて打ち出す。


鮫派一式コウハイッシキ! 断鮫ダンコウ!」

ユキナの槍捌きを組み合わせつつ、


疾風シップウ!」


ジャキンッ!ジャキンッ!

弾丸の如きユキナの槍が二体のゴブリンを貫く。


コトンッ。

白いクリスタルが落ちる。


「ヒメノちゃん、今のって。」

「そうですね、感覚共有シンクロだと思います。」

「これが、私たちの力なんですね。」

二人は周りを見渡す。


「こっちは安全ですかね。」

「そうですね、兄さんたちと合流しましょう!」


タッタッタッ。

二人は東門の方へ向かう。


「おっ、ユキチン!ヒメチン!」

「リサさん!兄さん!」

四人が再度集まる。


「そっちは大丈夫だったか?」

「はい。私とユキナちゃんで、感覚共有シンクロもできましたし。」

「そっちもなの!?私もスノウとできたよ!」


ザッザッザッ。

四人の元にグレイが近付く。


「なあ、君ら。もしかして、トップの生き残りか?」

「ああ、そうだ。あんたはこの村の村長か?」

「いや、村長は避難所にいる。俺は、グレイ。この村の警備隊長だ。」


彼は、グレイ・アスマ。無精髭を生やす32歳の男。腰に剣を二本差し、額に大きな切り傷がある。


「そうなんですね。にしても、なんでこんなにゴブリンがここに?グレイっちわかる?」

「グレイっち?……それが正直分からない。この村には特産物と言えるものはないし、強いて言えばトップの修行した村としか。」

「そこじゃないですか?多分ですが、ゴブリンは誰かの指示でここを襲ってる。」

ヒメノは腕を組み話し始める。


「多分、私たちが力を取り戻さないようにしてるんじゃないかと。」

「取り戻す?力を奪われたのか?」

「いや、俺たちは記憶を消されたんだ。」

「なっ、にわかに信じがたいが……。」

グレイは四人を見渡す。


「嘘をつく必要もないし、真実なのだろうな。」

「信じてくれて、ありがとうございます。」

「とりあえず、避難所の人達を解放してこよう。それから話をさせてくれないか。」


スタッ、スタッ、スタッ。

五人は避難所の方に向かう。


周りにはボロボロになった家や、防護柵などが散らばる。


スノウ達がたどり着くまでの悲惨さを物語っている。



「ここの警備隊は強いな、あの数のゴブリンを耐え切ったんだし。」

「そうとも言えない。君らが来なければ、正直全滅してたかもしれない。」

「まあまあ、生き残れたんだしこれからのことを考えようよ!」

リサは元気よく話した先に、四人の警備隊が見える。


「おう、お前達。無事だったか。」

「はい、隊長。なんとかという感じですが。」

全員が集合する。


「よし、では避難所に案内しよーー。」

「えーん、えーん。」

「ん?なんだ?」


ザザッ。

スノウ達は声のする方を振り向く。


そこには、ボロボロの服を着た子供が泣いている。


五歳からかだろうか、ボロボロの家の近くで泣き崩れている。


「まだ村人が。我々が行って来ます。」


タッタッタッ。

四人の警備隊が迎えに行く。


「よかったですね、少しでも多くの人を助けられて。……兄さん?」

「なあ、なんであんなところに子供がいるんだ。」

スノウは眉間にシワをよせる。


「え、それは逃げ遅れたんじゃ。」

「先輩の言う通りですよ、ヒメノちゃん。なんで誰も彼の存在に気づかなかったの?」

「え、それは……。」

四人は違和感に気付く。


「何かおかしい!お前ら!そいつから離れろ!」

「っへ?何を言ってーー。」

「もう気付くか。さすがトップだ。」


バキッ、バキッ、バキッ!

子供がその姿を変え、メキメキと大きくなる。


それは、黄色い姿をしたドワーフのおじさん。全身に大きい鎧を着込み、2mはあるだろう体の大きさと、右手に大きなハンマーを持ってる。


「っ!逃げて!」

「っなーー。」


ズンッ!

一瞬で四人の警備隊がトールに消し飛ばされる。


その場には、彼らの血痕のみ。



「っな、なにを。てめえ!」

スノウは怒りを露わにする。


「我が名は、トール。魔神マジンを継承する神だ。フレイヤの尻拭い、ここでさせてもらおう。」

「兄さん落ち着いて!来ますよ!」


カチャ!

ヒメノの声で武器を構える。



リサを除いて。



(目の前で、殺された。守れなかった……。)

リサの血は沸騰するかのように熱くなる。


(その怒り、誰に向けている。自分か?あの神か?)

どこからともなく、リサの頭に声が響く。


(両方だよ。守れなかった自分にも、容赦なしに殺したあいつにも。)

(破壊を望むか。望むなら、我と戦え。)


シュワーッ。

リサから赤いオーラが。


(あたしは、あいつをぶっ潰す。あたしと、戦え!)

(いいだろう。願いを聞き入れる。)



ドゴーンッ!

リサの周りの小石などが飛び散る。



「なんだーー。」

「ガァッ、ガァッ。」

「リサ、お前……」


限界突破オーバードライブ 開始オン。」


ドゴーンッ!

リサから赤い光が立ち上る。


リサの両手両足に虎のような爪と模様が、加えて尻尾も生えている。


「おぬしは、ぶっ潰す!」



リサの怒りが頂点に達し、ターゲットはトール。

再び、戦いが始まる。

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