第十七話 生きるということ

「ごちそうさまでした!」

リサは大きな声で言う。


ホープ部隊の四人は宿屋の食堂で、夕飯を食べていた。

リサの前にはお皿が十数枚。流石の大食感だ。


「リサさん、あの細い体のどこに入るんだろ?」

「不思議ですよね、私もヒメノちゃんも少食ではないはずですが、圧倒されますね。」

ヒメノとユキナはお茶を飲みながら話す。


「なあ、リサ。少しいいか?」

「え、なになに?」


スタッ、スタッ、スタッ。

スノウがリサを外に呼び出す。


「どうしたんですかね、先輩?」

「うーん、何か真面目な顔してましたね。」

二人は小首を傾げる。




外は心地よい風が吹く夜。

月明かりが彼らをスポットするかのように差す。


スタッ、スタッ、スタッ。

二人は食堂から少し離れ場所まで歩く。


「どうしたの?スノウが珍しくあたしを連れ出すなんて、まさか、愛の告白ーー。」

「無理してんじゃねえよ、バカ。」

スノウはいつになく真剣な眼差し。


「なんのこと?あたし何か無理した?」

「茶化すな。お前の明るさは、確かに俺たちを勇気付けてくれる。けど、お前が苦しんでる姿を知ってる俺には……どうにも辛いんだよ。」

「っ、はあ、そういうことか。」

リサは大きなため息をつく。


「だったらさ、さっきの言葉そのままスノウに返すよ。」

「どういう意味だ。」

「そのままに決まってるでしょ。」

二人の間の空気はピリつく。


「スノウはさ、自分が無理すればどうにかなるって思ってるでしょ。」

「は?そんなことあるわけーー。」

「じゃあなんで、のこと隠してたの。」

「っ……。」

スノウは反論できない。


ズサッ、ズサッ、ズサッ。

リサはゆっくりとスノウに近づく。


「どうせ、どんな敵が出て来ても自分が暴走状態になって、犠牲になってでもあたしたちを守る、って考えてるでしょ?」

「……。」

「だと思った。この十年の記憶がなくても、スノウがどういう人なのかしっかり覚えてるんだよ。」


リサの声はだんだんと重く低くなり、言葉の意味を鮮明にしている。



「あたしはスノウと幼馴染。だから、子供の頃からお互いを見て来た。」

そして、スノウの前にたどり着く。


「あたしはね、スノウ。怒ってるんだよ。」

「だ、だけど、リサーー。」

「前向くな!」


ガシッ!

スノウはリサに頭を下に抑えられる。


「痛っ!おい、何するーー。」

「上向くな!」


プルップルップルッ。

スノウはリサの足が震えてるのがわかる。


「あたしはさ、悔しいの。こんなに近くにいるのに、スノウからじゃなかったことが。そして怒ってもいるの、大変なことが起きてるのに何も相談してくれなかったスノウにも。」

「リサ……。」

「あたしは、みんなに笑っていてほしい。これからも笑ってみんなで生きていきたい。」


ポトッ、ポトッ。

リサから涙が流れる。


その悲痛の叫びは、乾いた地面を濡らす。


「ねえ、スノウ。忘れないで、スノウは優しいから、バカがつくほど優しいから。」


サラッ。

リサは両手でスノウの顔を包み、顔を上げる。


スノウの目には、涙を浮かべ決意したリサの顔が映る。


「でもさ、スノウが我慢して何かをすれば全部丸く収まるなんて、そんなのただのだよ。」

「あ、ああ。」

「あたしたちは、仲間なんだよ。仲間は、助け合って生きていくものでしょ。もっと、頼んなさいよ、バカスノウ。」



リサの心の叫びは、スノウに突き刺さった。




「ごめんな、リサ。」


ザサッ。

スノウはリサの顔を胸に寄せる。


「俺は、最低だな。」

「そうだよ、最低だよ。女の子を泣かせる男なんて、モテないよ。……けど、スノウのことは嫌いじゃない。」

「ありがとう。ここからだ、ここから少しずつ変わってやる。」


ササッ。

スノウはリサの顔を胸から離し、お互い見つめ合う。


「これから、もっとお前たちを、リサを頼る。信頼してないわけじゃなかった、でも、失いたくない気持ちが間違いを起こした。」

「うん、あたしももっと頼りになる人になる。」

「……これからの俺を、もっと見ててくれ。もし、また間違えたら叱ってくれ、俺も成長する、約束だ。」



二人の小指と小指が重なり合う。


約束の証として、指切りをした。



「じゃあさ、この約束破ったらどうする?」

「そうだな、お互いなんでも言うことを一つ聞くのはどうだ。」

「え、そしたらあたしが結婚してっていったら?」

「いやいや、いきなりどんな例えだよ。」


ニヤッ。

リサはイタズラ顔でスノウを見る。


「あはは、うーそ!」

「お前な。」


タッ、タッ、タッ。

リサはスキップして食堂の方に向かう。


「戻ろう!」

「はあ、そうだな、あいつらに心配かけちまう。」

二人は少しスカッとした顔をして食堂に戻る。



夜道の中、スノウと距離を開けてリサは止まり、

「ふふふ、もちろん嘘だよ。……

と、小声でこぼす。


「ん?何か言ったか?」

「ふふっ、なーんにも!」




その後、四人はノーアトューンで一週間ほど過ごす。

村の依頼や、自分たちがよく行ってたという場所などを訪れ、記憶のカケラとなるものを探してた。


そして、スノウにある知らせが入る。

「やっとだ!エインズの武器が完成したってよ。」

「やったー!早く行こ!」

四人はエインズの鍛冶屋を訪ねる。


「おお、来たか。」

「ああ、この日を待ち望んでたからな。」

「そうじゃな。ほれ、ここにあるのがぬしらの新しい武器じゃ。」

テーブルの上には四人分の武器が並ぶ。


全体が黒色で作られ、光り輝く金属が鋭さを表している。


「これが、硬鉄鉱石のミスリルで作った物じゃ。今までのものより耐久性も、切れ味も上がっとる。取り扱いには注意するんじゃな。」

「明らかに前のより質がいいな。ありがとうな、エインズ。」

「なーに、命を救ってもらったんじゃから、安いもんじゃよ。」

四人は新しい武器を装備する。


「ぬしらは、この後どうするんじゃ?」

「そうですね、フォールクヴァングに戻る予定ではありますが。」

「なら、ヒメノよ。ここに寄ってから帰るのがいいじゃろう。」

エインズは、鍛冶屋に飾ってある地図のある部分を指す。


ですか?」

「そうじゃ、トップの戦士はここで修行してたって話じゃ。」

「そうなの!?だったら帰り道に近いし、寄っていこうよ!」

リサはテンションを上げる。


「そうだな、記憶を取り戻すきっかけにもなりそうだし、行ってみるか。」

四人は村の入り口に向かう。


「短い間でしたが、ありがとうございました。」

ユキナが丁寧にお辞儀する。


「気にするな、またいつでも来い。さらに強い武器を作ってやるからな。」

「ありがとうな、その時は頼むぜ。」


スタッ、スタッ、スタッ。

四人は村を後にする。




ビフレスト、そこでは何が待ち受けてるのか。

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