第十四話 暴走した彼女は止まらない

ゴォォ!!

ヒメノは紫のオーラを纏い、少し浮かぶ。


「なんだ、お前。何をした。」

「お前とは失礼ですわね、フレイヤ。」

「その翼、紫鷹グリンカンビなのか?」


フワッー

ヒメノ、もといグリンカンビは宙に浮く。


ブーツは紫の光が纏っており、翼をバサバサとなびかせる。


「すみませんが、フレイヤ。あなたには、消えてもらいますわよ。」

「はあ?舐めんな!」

フレイヤが瞬足でグリンカンビに近付く。


鷹派一式オウハイッシキ! 三日月ミカヅキ!」


ガキンッ!

グリンカンビのサマーソルトでフレイヤは後退する。


「ちっ、力が桁違いだな。お前、さっきまでの女じゃねえな。」

「何を言ってるのですか、私はヒメノでありグリンカンビでもあるのですよ。」


ヒュンッ!

グリンカンビは高速でフレイヤへ接近する。


紫鷹初式シオウショシキ! 絶空爪ゼックウソウ!」


ザシュッ!ザシュッ!

空間を切り裂く二連撃がフレイヤの腹に入る。


「うほっ、俺様に見えないだと。」

「見えないのではありません、見ようとしてなかっただけですよ。」


ブンッ!

グリンカンビは高く飛ぶ。


「ふざけんな!」

「いきますよ、ヒメノ。」


ガギーンッ!

フレイヤは拳を振るう。

それをグリンカンビは足で華麗に捌く。


鷹派六式オウハロクシキ! 嘴閃シセン!」


ザッザッザッ!

空中からの連続蹴りが、フレイヤに降り注ぐ。


「こんなものーー。」


ザクッ!

フレイヤの右腕が切り落とされる。


「うがー!!」

「痛いですか、フレイヤ。ですが、あなたはそれ以上のことをしたんですよ!」

「くっ、はぁー!!」


メキャッ!

フレイヤの腕が再生する。


「えほっ、えほっ、ヒメノ、その力は……危険だ。」

スノウは手を伸ばす。


「仲間を傷つけた借りは、お返しします!」

「くそがっ! 武神初式ブシンショシキ! 破顔ハガン!」


ズンッ!

フレイヤの高速の右手がグリンカンビに迫る。


鷹派三式オウハサンシキ! 鷹爪オウソウ!」


バキーンッ!

グリンカンビは横蹴りで攻撃をいなし、


「時間がありません、ここで終わらせます。」

グリンカンビはクラウチングスタートの体制をとり、翼で前を守る。


「この世界はもうオーディン様のものだ!この先も、何も変わらない!」

「それが何ですか、ここはです。彼らの世界は、彼らが決めるものです!!」


バサッ!

翼を大きく羽ばたき、フレイヤに一直線。


紫鷹中式シオウチュウシキ! 月光ゲッコウ!」


ガゴッ!ドガンッ!

グリンカンビはフレイヤを左足で蹴り上げ、即座に高く飛び前転した右足でかかと落としを決める。


「ふがぁ!」

ドゴンッ!


フレイヤは地面に叩きつけられる。


「くそっ、俺様をコケにするなんて、お前は殺すーー。」

「時間切れだ、戻れ、フレイヤ。」

「トール!まだ俺様は!」

「オーディン様の命令だ。」


フレイヤは舌打ちをし、起き上がる。


「楽しみはお預けだ、グリンカンビ。」

フレイヤは懐から小さい黒の結晶を取り出し、地面に投げつける。


パリィンッ!

途端に周りが黒い煙に覆われ、フレイヤは姿を消す。


「退きましたか、いい判断です。」

グリンカンビは周りを見渡す。


(女子二人はギリギリ意識ある程度、ですが男の方は私を完全に捉えている。)


「ヒメノ、あなたを受け入れてくれるか、ここからはあなたの試練です。ごめんなさい、私はここまでです。」


限界突破オーバードライブ 停止ロック。」


シューンッ。

グリンカンビはヒメノの姿に戻る。


「えほっ、えほっ。何が、起きて。」

ヒメノは吐血をしている。


「さっきの赤い化け物は?」


ズキーンッ!

ヒメノを不可解な痛みが襲う。


「なに、これ、痛い、怖い。」

「ヒメノ、ヒメノ!」

「兄さん、助けて。」


バーンッ!

ヒメノから大きな紫の光が昇り立つ。


「うおわっ、何だ、この力。」

「ヒメチンの力が、暴走してる?」

「ヒメノちゃん!」

三人は吹き飛ばされないようしがみつく。


「どうにか止めねえと!」


ガゴッ。ガゴッ。

ヒメノの天井の岩が砕けヒメノに向かって落ちる。


「くそっ! 狼派一式ロウハイッシキ! 迅狼ジンロウ!」


ガゴンッ!

スノウが岩を砕く。


「怖い、怖いよ。」

(ヒメノの意識はある。なら!)


「リサ!ユキナ!俺らを守ってくれ!」

「わ、わかった!」

「はい!」


ガゴンッ!ガゴンッ!

二人は落ちてくる岩を弾いてく。


スノウはヒメノに触れようとする。


バチンッ!

「痛っ。くそっ、ヒメノを守ってるってことか。」

スノウは四歳の記憶を思い出す。


スノウとヒメノは隣同士の家に住み、仲の良い友達であった。


その日も、晴れた日の公園で二人は遊んでいた。

それを眺めるヒメノの両親。


だが、最悪の事件はそこで起きてしまった。


公園で泣いて座り込むヒメノ。そこには、二人の血を流して倒れる大人が二人。周りには血飛沫、軍人に取り押さえられる男が一人。



そう、ヒメノは四歳の時に両親をのだ。

そして、その時に居合わせたのは、スノウ。


「うわーん。うわーん。」

泣き止まないヒメノ。




数秒前。



わずか数秒の出来事。軍人から逃げる男が、ヒメノとスノウに向かって突っ込んでくる。


「危ない!」

ヒメノの両親は男の前に立ちはだかる。


ズシャッ!


男はヒメノの両親を斬り、ヒメノたちを斬ろうとした時に軍人に取り押さえられた。


何が起きたのか、理解できないのは当然。

だが、一つ確かなこと。ヒメノの家族は殺された。


その後、二人は病院の個室に待機させられた。


ヒメノは涙を流す。それも当然。唯一の肉親を失ったのだ。

スノウはその姿を見て、ヒメノの元に走る。


ギュッ。

スノウはヒメノを後ろから覆う。


「僕が、ヒメノちゃんの家族になる。」

「へっ?」

「すごく痛いよね、その痛みを僕にも分けてもらえないかな。」

ヒメノはスノウの顔を見る。


その時のスノウの顔は、涙を浮かべ悔しがっている顔をしていた。


「スノウくん……。」

「約束する!絶対に離さない!」

ヒメノはスノウに顔を埋め涙を流す。


時は現実に戻る。


「そうだ、約束した。俺は、ヒメノを離さないって!」

(俺の力を使え、一度きりのチャンスをやる。)

スノウの頭に声が流れる。


(あの城の時の声か、分かった、従うぜ。)


スノウの両手に青い光が纏う。

その両手でヒメノを覆う紫の光の中に入る。


バチチ、バチ!

スノウを紫の光は拒む。


「っ、これがヒメノを孤独にした痛みか。でも、あいつは前に進んだ!孤独と向き合って、今ここにいるんだ。」


ググッ!

スノウはヒメノに手を伸ばす。


「約束したんだ!絶対離さないって!ヒメノが俺を必要としてくれるなら、俺は必ずそこにいてやる!!」

スノウの手はあと少しでヒメノに届く。


「ヒメノ!俺を頼れ!俺は、お前の兄貴だ!!」




スノウの決死の呼びかけは、ヒメノに届くのか。

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