第十二話 初めましてダンジョン

スタッ、スタッ、スタッ。

ホープの四人はフォールクヴァングを出て、夕方になりつつあった。


「あれか?ノーアトューンって?」

スノウが指差す方向には、石の家でできた家々が多くある村が見える。


「そうですね、あそこに鍛冶屋さんがいるはずです。

「ヒメチン、まずは何からする予定?」

「まずは鍛冶屋さんを探しましょう。」


四人は入り口に向かう。


★ノーアトューン

鍛冶屋が揃う村で、近くの鉱山で取れる鉱石で皆生計を立てている。

人口は少ないが、至る所で鉄を打つ音などが響き冒険者御用達の村である。


スタッ、スタッ、スタッ。

四人は村を散策していると、


「みなさん!あの家すごい煙出てますよ!火事じゃないですよね??」

「確かに、なんかすごくない!?ユキチンの言うとおり心配だし見てみようよ!」

リサとユキナは先行する。


ギギィーー。

重い鉄の扉を開けて、


「あの!大丈夫ですか!?」

「うん、誰じゃ?」


スサッ、スサッ。

奥から背の低い男が歩いてくる。


「あれ?火事じゃない?あの、あなたがこの村の有名な鍛冶屋さんですか?」

「見ない顔だな、新客はお断りだ。」

「待ってくれよ、話ぐらい聞けって。」

スノウはユキナの前に立ち、勾玉がポケットから落ちる。


「うん、それは。」

「ん、ああ、俺らの武器を作ってくれる鍛冶屋に会ったら見せろって言われたんだった。」

「その勾玉、ぬしらはハンクの知り合いか?」

小柄の男は目つき鋭く問いかける。


「だったらなんだ?」

スノウは睨み返す。


「ふん、あやつの知り合いなら話は早い。」

「そしたら、おじさんが私たちの武器を作ってくれてた人ってこと?」

「まあ、そんなところだ。儂は、エインズ・ホワイトホースだ。」


彼は、エインズ・ホワイトホース。

ギムレーの地に数少ないドワーフの一族。

130cmほどの小柄なゴリマッチョで、大半のドワーフは鍛冶屋として働いている。


「ここに来たということは、ぬしらの武器制作の依頼じゃろ。」

「ああ、俺たちに扱いやすい武器を作って欲しいんだ。」

「何を言っておる?いつも同じものを頼んできたではないか。」

エインズは頭に?を浮かべる。


「それなんですが、兄さんも含めた私たち、部分的に記憶がないんです。」

「むっ?にわかに信じがたいが……。」

エインズは四人を見つめる。


「まあ、嘘をつく必要もないか。理由は分からんが、なら一からぬしらの手に合う武器を作ろう。」

「ありがとう!エインズっち!」

「エインズっち??」

リサの口を慌ててユキナがふさぐ。


「と、ところでエインズさん!武器って何日くらいで出来上がるものなんですか?」

「通常は一週間もあれば四人分作れるだろう。じゃが……。」

「なんか問題でもあんのか?」

エインズは部屋の隅を指差す。


「ぬしらの武器は特別製でな、近くの鉱山の奥から取れる、ミスリルという鉱物を使うんじゃ。じゃが、今鉱山には……。」

「モンスターに占拠されてるってことですね。」

ヒメノが答える。


エインズが小さく頷く。


「なら簡単じゃねえか、俺らがダンジョンのモンスターをぶっ倒して、鉱石を掘るまでの道を作れば良いんだろ!」

「そうは言うが、主は記憶がないんじゃろ。モンスターと戦う力なんぞーー。」

「いや、あたし達そこは覚えてるの!体が覚えてるっていうかある程度は戦えます!」

リサは自信満々に言う。


「そうなのか、なら任せても良いか?」

「はい!エインズさん、任せてください!」


スタッ、スタッ、スタッ。

ヒメノを先頭に四人は鉱山の入り口に向かう。


「うん?君らは?」

入り口に立っている四人の兵士らしき人に止められる。


「私たちは、エインズさんからこの洞窟奪還を依頼された冒険者です。」

「おお!ついにか!わざわざありがとう!」

ヒメノが話してる間に、リサは千里眼で洞窟を見る。


「なんか、モンスターがウヨウヨいるね。なんでここに集まってるんだろ?」

「偶然集まったのか、それとも意図的に誰かが仕組んだとかですかね?」


スゥー!

ユキナは大きく息を吸う。


「確かに、モンスターの匂いはたくさんします。でも奥から金属の匂いもしてきますから、金属を食べられてる心配はありませんね。」

「ユキチン、モンスターの匂いってどんな感じなの?」

「え、うーんと生臭いって言うか、獣臭いって言うか私達からは普段発しない濃い感じのものですね。」

そう語るユキナをリサはニヤニヤと見つめる。


「っ!別に!変な意味じゃないですよ!」

「何も言ってないじゃん、エッチなユキチン!」

「もうリサさん!」


ザワ、ザワ、ザワ。

リサとユキナがじゃれ合う。


「こんなゆるい雰囲気で大丈夫でしょうか?」

「良いんじゃねえか、緊張してても動きにくいだけだしーー。」


ピキーン!

スノウの脳裏を何かが駆け抜ける。


(なんだ?こんなやりとり、最近どこかでやった覚えが。消された記憶の一部か?)


「……さん!兄さん!」

ヒメノがスノウの顔を覗き込む。


「あ、ああ、どうした?」

「どうしたって、急にぼーっとするから気になったんですよ!」

「そうか、悪い。大丈夫だ。」

スノウとヒメノはリサ達の元に向かう。


「いくぞ、リサ、ユキナ。」

「あ、オッケー!」

「あ、せ、先輩!さっきの話聞いてました?」

スノウは先を歩く。


「いや、何も聞こえなかったぞ。」

「そ、そうですか。」

「ユキナがエッチなやつってことしか。」


カァー!

ユキナの顔が真っ赤になる。


「聞いてるじゃないですか、ばーか!!」

「おい待て待て!槍構えてこっちくるな!」

「うるさいです!モンスターより先に先輩の記憶を!」


ダダダダダッ!

スノウとユキナは先行して中に入る。


「ユキチンー、スノウはモンスターじゃないよー」


ペチンッ!

リサにヒメノがデコピンする。


「痛いっ!」

「リサさん!あまりユキナちゃんをいじりすぎないでください!」

「ご、ごめんなさい。」

リサとヒメノも後を続く。


「はぁー。本当に大丈夫でしょうか。」

これから先が不安で堪らないヒメノは、大きなため息をついた。

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